隠者の竜3
暫く濡れた頭をそのままに、空を仰いでいたが。
ふと違和感に気づいた。
何だろう。
これでも一応は兵士だ。周囲の気配には敏感に出来ている。
その習性が、何か変だと訴える。
周りに神経を巡らせて、はっと理解した。
音が消えている。
さっきまで聞こえていた鳥の鳴き声や葉擦れの音まで消えている。
残るのは、川のせせらぎ。
兵士としてのものではなく、人間として、生き物としての本能が、この空間への警戒を自分に呼びかけていた。
この空気、この空間は、どこか違う。
俺が今まで知っているものとは、違う。
理由はわからない、だがそう理解していた。そしてその違和感に対して全身を緊張させて、構えていた。
・・・・・・ン
音が、聞こえた。
・・・・シン
音はこちらへ向かっている。同時に大地が、空気が震動し、それが大きくなってくる。
・・ズシン
音を出している『何か』が、ガサガサと木々を草を揺らしてそこまで来ている。
ズシン・・ッッ
そして男は動けなかった。
周囲の空間全てを揺らして現れたものに、目を奪われた。
ついさっき、自分が投げやりに呟いた言葉を覚えている。しかしそれがこんな風に現実になるとは
思ってもいない。
だが、どう見ても。
男の目の前に現れたものは、竜だった。
全身を鱗で覆われ、硬い牙や爪を持ち、翼がある。
そんな絵本に出てくる姿そのものの、竜が今、目の前で川の水を飲んでいるのだった。