隠者の竜2
どれぐらい意識を失っていたのか。
目覚めると、陽が暮れようとしていた。
人の気配は、無い。どうやらはぐれてしまったようだ。
否、他の者たちが生き残っているのかも定かではない。ひょっとしたら自分しか生存者はいないのかもしれない。いたとしても。
そのままどこかへ行ってしまうだろう。国に戻る気も、仲間を探す気も、無いに違いない。
俺がそうだから。
完全に陽が沈んでしまう前に、どこか塒になる場所を探さねば。
俺は重たい身体を引きずるように動かした。
あまり時間がないというのに、塒になるような場所は見つからず、不意に開けた場所に出た。
水の流れる音がする。川だ。喉の渇きを思い出し、川へと駆け寄る。
お飾り程度に腰につけていた剣と荷物を放り投げ、川へと遠慮なく入る。
水を手ですくい顔を洗い、喉を潤す。ひと心地ついたところで大きく息を吐き濡れた顔を上げて空を見た。
川のせせらぎと遠くで聞こえる鳥の声。風に揺れる葉の音などが全身に沁みわたるようだった。
夕陽に焼け始めた空をそのままぼんやりと眺めているうちに、知らず口元が緩み、いつの間にか
声を上げて笑っていた。
何だ一体。俺の人生は何なのだ。
死んでしまおうか。
それでも構わないと思った。
ああ、でもそれなら。
どうせなら最期に
「竜とやらに会ってみたいもんだ」
男がそう呟いた時、男は気づかなかったが、空気が揺れた。歪んだというべきか。
男の呟きに応えるように男を取り巻く景色が震えたのだ。
そうして
世界はその有り様を少しだけ、変えた。
男を今までいた世界とは少し異なる世界へと、誘った。
偶然か必然か。
男には知る由もないのだが。