隠者の竜
隠者。一般社会との関係を絶ち、生活する人のこと。だそうです。
隣国との戦争に勝つために、竜を探して来いと命令された俺は、所謂人生の落伍者だ。
この世界は竜が創った。とか、海を越えた辺境の土地では今も竜がいる。とか、竜の血はどんな怪我や病も
治す力がある。とか。
数えだしたらキリがない、竜という空想の生き物にまつわる逸話。
そんなものを信じているのは、マニアックな研究者や怪しげな錬金術師や占い師だけだろうと思っていたのだが。
俺が子供の頃から続いているこの戦争に早く終止符を打ちたいからか、長すぎる戦いの日々に張りつめていた
精神の糸が切れてしまったのか。
とにかく王はいきなり「竜を探して捕らえて手懐けて兵器にする」なんてことを声高らかに俺たち兵士の前で
言い放ったのだ。
誰だって呆気に取られるだろう。誰だって「ああ、王様ついにおかしくなっちまったんだな」と思うだろう。
誰だって竜を探して捕らえてくるなんて任務を受けたくはないだろう。
なのに
俺は見事にその竜捜索捕獲メンバーに選ばれてしまった。
総勢数十名のチームが組まれ、俺や他の奴らは命令に背くこともできずに、放り出された。
こんなことをしている暇があるなら、技術チームに新しい兵器を作らせたり、訓練場で鍛錬している方が
有意義なのに。上からのしかも王からの命令には従うほかないのが、俺たち兵士の悲しい性なのだ。
しかもこの任務に選ばれているのは、中級から下級の、所謂使い捨てにされるようなレベルの兵士ばかり。
かく言う俺も、謙遜ではなく決して有能な兵士ではない。可もなく不可もなく、今まで生き残ってこれたのは運が良かっただけだと自分でも思う。
そんな精鋭(?)揃いのチームだ。どう考えても「生きて帰ってこようが全滅しようがどっちでもいい」メンバーなのだ。
とりあえず、王のご機嫌を取るために編成され放り出されたのがよくわかる。
やる気など起きるはずもなかった。
王都を出発してから何日経ったのか。
装備していた物資はもう残り少ない。物資が尽きたらどうするか。
帰るか、帰らないか。
帰ったところでどうなる。王の命令を遂行できなかった役立たずのレッテルを貼られ、
また放り出されるか、兵士を解雇されて職を失うか。明るい未来は見えない。
なら、このまま帰らずに。
どうすればいい?帰らず、どこかの村でひっそりと息をひそめて暮らす?国を出て違う人間として暮らす?
捕まって殺されるのがオチだ。
どこを向いても希望などなかった。
チームの誰もが同じようなことを思い、諦観しているのが明らかで、俺たちは日ごとに口数も少なくなり、ただただ屍者のように歩いているだけの放浪者だった。
そんな俺たちはどこまでも、ついてなかった。
尽きてきた物資の補給が少しでもできればと、立ち寄った小さな村で、敵国の襲撃に出会った。
国境付近の村だから、そういう事態もあり得るだろう。あり得るがしかし、何も今でなくても・・・。
俺たちの誰もがそう思っていた。
襲われる村を見捨てるわけにもいかない。なけなしの武器しか持たない俺たちは、応戦した。
撃退できるはずもない。
村は焼かれ、俺たちも散り散りに逃げた。命を落とした奴もいる。
俺も何とか森へと逃げ込んで、もう追ってはこないだろうと安心した所で意識を失った。