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打ち上げ花火

「浴衣!!お姉ちゃん浴衣貸して!!」


ドタドタドタッと階段をかけ上がる音とともに勢い良く扉が開けて妹のあかりが駆け込んできた。

頬を紅潮させて、ポニーテールからこぼれた髪が額に汗で張り付いてた。

「ねぇおねーちゃん!ほら去年着てたやつ今日の花火大会にね……あーっでもいきなり浴衣ってやりすぎ?ねぇどうしよういつもと同じのほうがいい?あーもう時間ないかも、おねえちゃん!!」

部屋に駆け込んだあかりは許可もとらずにクローゼットを開けてあれこれとあさりだす。

「ちょっと、あかり、落ち着きなさいよ。」

ベッドの上で寝転びながら読み耽っていた分厚い本から顔を上げてお姉ちゃんと呼ばれた女はため息をついた。

「一体、何があったの」

ハスキーな声で尋ねれば、クローゼットに顔を突っ込んでいたあかりがぴょんとベッドの上に飛び乗ってきた。

「花火大会!!誘われたの!!」

「誰に?」

「級長!!長谷部君!!」

「はあん、あんた気があるの?」

「っっんなことないもん!!」

「ふーん、顔赤いよ」

湯気がでるのではないかと思うほど真っ赤になったとたんというかあかりをにやにや眺めながら姉のゆうかはやれやれと肩をすくめつつクローゼットの奥からたとう紙に包まれた浴衣を取り出してベッドの上に広げた。

「これあんたにはちょっと地味かもよ」

そういって取り出した浴衣は紺地に白の朝顔の柄の古典的なものだった。

「でも、花火大会今日だし5時に駅で待ち合わせしてるし…」

「ふーん♪いつものワンピースでもいいと思うんだけとねえ」

「でもあれもう子どもっぽいよ、ねえお姉ちゃん、貸してよお」

「そお?まあいいわ、着せてあげるからその汗シャワーで流しといで」

「ほんと!!やったー!」

ガバッとゆうかに抱きついたあかりは来たときと同じくらい騒がしく部屋をでて行った。

「あーあ、甘酸っぱ~」

開け放たれたドアを見つめてゆうかはぽつりとつぶやいた。


去年の花火大会にはこの浴衣を着て、打ち上げ花火を一緒にみた人がいた。

でも今年はゆうかは誰にも誘われなかった。

人混みにわざわざ出かける必要がなくてせいせいすると思ってたけど、この浴衣は今年もどうやら花火を観るらしい。


願わくは今年は打ち上げ花火で終わらないといいのに。


カラコロと遠ざかる足音に、ゆうかは心の中でエールを送った。

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