俺はゲームの中でもいい人でいたいらしい
心が落ち着いてきたぐらいに、「ごめんね大丈夫?」と手を差し伸べ、
大丈夫なのを確認するとお得意の作り笑顔でこの町の事をいろいろ聞き出していった。若干忘れていたが、ここはゲームの世界だ。このぶつかった出来事も、
なんらかのクエストである可能性が高い。そしてどうやら彼女の家は酒場を経営している様だ。酒場といえば情報収集ができる場所である事が多いので、夜に向かってみることに決めた………。
「いらっしゃい!」
野太いおっさんの声が響く。
ガタイが良く、タダ酒でも食うものなら容赦なくボコボコにされるだろう。
ウェイトレスは三人ほどで、美人を採用しているようだ。そしてその中にさっきぶつかった彼女も居る。
情報収集に来たのはいいがこんなに美味しそうな料理達を見せられて腹が減らないわけがない。ゲームの中ではあるが、未成年はお酒が飲めない仕様になっているようで、試しに感覚だけ味わってみたかったが、仕方なく料理だけ頼むことにした。
迷いに迷った結果、
ガジュマルのシャキシャキサラダ、ラム肉の炙り焼きを頼んだ。
ガジュマルはごぼうに似た感じで、みずみずしく、ほんのりと木の香りがし、
ラム肉は表面がやや焦げていて香ばしく腹を満たしていくのが感じられた。
美味しい料理をじっくりと堪能していると、
「よう嬢ちゃん可愛いね。こっちに来て相手してくれやぁ」
と、酔っ払いのじじいが先ほどの彼女に絡む。まぁあのガタイのいい人がなんとかしてくれるだろうと見ると、ちょうどゴミを捨てに行っていなかった。
タイミングが良すぎる。なんでこんな大事なときにいないんだよ!!酔っ払いがそれを見計らうくらい頭が回ってるとは思えない。周りの人もやばいとは思っているようだが止める気配がない。
ここでカッコいい主人公であれば女の子のピンチに駆けつけ、見事に助けて最後にハーレムが待っているだろう。が、
俺は女の子だからって助けに行くような真似はしない。メリットがカケラもない。ハーレムもいらん。誰かが助けてくれるだろうと遠巻きに見ることを誓う。
しかし、俺は偽善者でいたいようだった。
誓った3秒後にはじじいの顔面にグーパンチを入れていたのだから。