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8.急所ってなに? 当たったら二倍ダメージを受けるやつ?

「もっといい名前があるよ。例えば【スーパーミラクルアンデッドドラゴンパワー最強バリバリ列伝】……」


「アンタのそれよりはマシでしょうよ!」

 

「まあ名前はどうでもいいや。あとで決めようぜ。それよりホラ、教えてもらってないことがあるよ」


 レイカは首をかしげた。


「教えてもらってないこと?」


 そうとも。まだ肝心な点を教えてもらってない。これを教えてもらわないことには、話が先に進まないのだ。


「ほら、その、さっきからこの【イリオン・バトルフィールド】で戦うってことだけは聞いてるけど、『何のために戦うのか』『戦って何の得があるのか』ってことはまだ知らされてないよおれ。願いが叶うんだっけ? おれ、半信半疑」


「ああ、そうだったわね……」


 【イリオン・バトルフィールド】はただのゲームじゃない。『願い事を叶えるゲーム』だってレイカは言っていた。それが戦う目的なのか? うーん、ちょっとにわかには信じられんよ。もっと具体的なところを教えてもらわないと。ゲームをクリアしたら願いが叶う、なんていうオイシイ話、あるだろうか? もしそうならおれ、これまでたくさんのゲームをクリアしてきたけど、そのおかげで成績上がったりお小遣いあがったりしてるはずだよ。


 現実はそうじゃないんだよなあ。ゲームで願いは叶わない。勉強しなきゃ成績は上がらない。そうだろ紳士諸君?


「それについては、放課後、実際に体験してもらったほうがいいわね」


 レイカはツインテールをいじりながらそう言って、


「じゃあ今回はここまで。【ログアウト】!」


 この虹色うずまきの空間から霞のように消えた。おれも続いて【ログアウト】する。


 ――あれ?


 現実世界に戻ったおれは、時計を見てぶったまげた。なんと昼休みが始まってから、まだ5分しか経っていない。つまり、【ログイン】してから時計の針が動いていない。うん、おかしい。【イリオン・バトルフィールド】の世界で体感30分くらい話をしていたのに。


「ふふん。驚いたみたいね」


 「現実世界」のレイカはおれにズイと顔を近づけて、


「【イリオン・バトルフィールド】の中で流れる時間の速度は、現実世界のそれとまったく異なる。あっちで30分くらい過ごしたところで、こっちでは1秒も経過していないわ」


 なんと。そんなことがありえるのか? ハイテクすぎる。【イリオン・バトルフィールド】の中で暮らしたら、超長生きできるじゃん! 科学の力ってすげえ!


「じゃ、話の続きは放課後に」


「お、おう」


「お望み通りアンタはドッヂボールしてきなさい!」

 

「そ、そうだった! ……おい太一! ヌケサク! 与太郎! それからタカシ! ドッヂするから来いよ!」


 おれは校庭へ向かうべく、仲間とともに疾風のごとき速さで教室を出た。早くしないとボールを他のクラスに奪われるから急がにゃならんのだ!

 

 *


 放課後。

 

 おれはレイカとニュー新小岩タウン公園を歩いていた。肩を並べて。


 これを世間では「デート」というらしい。下校中、クラスの野郎どもからさんざん冷やかされた。おれはこう言ってやった。


「コイツ、レイカのヤツ、おれのスカートめくりテクニックに惚れたらしい。めくられるのが好きな性質タチなんだとよ。困った子猫チャンだ。今宵はワン・ナイト・ラブとしけこむぜ」


 レイカは笑顔だった。おれも笑った。野郎どもも笑っていた。


 と思ったら、野郎どもが去ったあと、レイカにコンビニの裏に連れ込まれてボコボコに殴られた。びっくりした。コンビニ裏の狭いスペースじゃおれの身軽さは発揮できないのだ。おれはもうとことんやられるしかなかったね。


「次ふざけたこと言ったら、マジで蹴るわよ、急所を」

 

 レイカの言葉からおれは北極の冷気を感じた。凍え死ぬかと思った。マジで。それでもおれは訊かずにいられなかった。

 

「急所ってなに? 当たったら二倍ダメージを受けるやつ?」


「急所は……急所よ」


「わからん。ちょっとおれのその急所とやらを触ってくれ。そうすりゃわかるよ。いったいカラダのどの部位なんだい?」


「握りつぶすぞワレ」


 握りつぶす。その単語でおれはすべてを理解した。


「すなわち、キンタマか……」


「言葉に出すな耳が腐る死ね!」


 レイカは真っ赤になった。怪人タコ女め。

 

 ま、そんな愉快なやりとりを交わしながらおれたちは公園にたどり着き、こうやってうろうろしているわけだ。何のために?


「レイカ、散歩はおれの趣味じゃないぜ。散歩ってのはじいちゃんばあちゃんがやることだろ。あと犬。おれたち子供は走り回らなきゃいかんよ」


「ちょっとアンタその減らず口を一旦閉じてなさい。……【サーチ】」

 

 レイカはスマホ――iSophia10をいじりながら、しきりに辺りを警戒している。まるで人にバレない立ちション・スポットを探しているみたいな行動だ。ああそうか、おしっこ行きたいのか。

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