4.説明はダルい! 早くドッヂボールしてえ!
*
「と、そんなことがあったんだ」
「へえ。また活きのいい転校生が来たのお……超無敵流……か。懐かしい響きじゃわい」
いつもエロ本を拾う河川敷。そこにはおれの師匠、「じっちゃ」が住んでいる。おれはきょうあった出来事を、まずじっちゃに報告していた。
じっちゃはその名の通り、じいちゃんだ。すなわち老人だ。見た目はしわくちゃ、歩けばよろよろ。それでもスカートめくりのテクニックはスゴい! 天才的だ!
そしてそんなじっちゃは、他でもないこのおれにスカートめくりのテクニックをたたき込んでくれた恩人だ。なんだか知らんけど家がないのでこの河川敷で暮らしている。家がないなら建てりゃいいのにな。おれ秘密基地とかつくるの得意だぜ。家だってわりかし簡単につくれると思うよ。今度建ててあげよう。
じっちゃは長いあごひげをしごきながら、
「ところで翔。お前、その転校生女子に後れはとらなかったろうな?」
「あったり前だぜじっちゃ。瞬殺でスカートをめくってやった!」
「じゃろうとも! わしの超暗鬼流忍術……げふんげふん……わしのスカートめくりテクニックは、天下に敵なしじゃからな! ちなみに何色だった!?」
「白! クマさんのワンポイント!」
「お見事!」
「おうよ!」
なんか知らんが家はないけど、じっちゃはおれのヒーローだ。そこいらのどんなオッサンよりも輝いている。実際、スカートめくりのテクニックで言ったら、世界広しといえど師匠がナンバーワンだという確信があるぜ。めっちゃ強い。頭もつるつるに輝いていてシブい。
それに何でも知っている。センセーより物知りだ。優しいし。だから好きなんだよおれは。じっちゃのことが。
「しかし、【イリオン・バトルフィールド】か……。話を聞く限り、それはあれじゃな」
「あれ?」
「精神世界で武術を競う戦場。これよ。――ふむ。わしにも覚えがあるぞ」
そう言ってじっちゃは、なんか難しい話をし始めた。古来日本より伝わる、陰陽術と密教を用いた精神世界での合戦――それが日本の歴史を揺るがした――【イリオン・バトルフィールド】は、そんな妖術を応用した胡乱なハイテク技術――ゆめゆめ警戒を怠るな。とかなんとか。
よくわからんのでおれは、あくびをして雲を眺めていた。きょうはいろいろあったし、もう眠いぜ。
「じっちゃ。おれはもう帰るぜ。おやつ食って寝る!」
「よし、そうしろ! 寝る子は育つ! すけべに育つ! 翔、育て! 早くアッチの毛が生えるように、すくすく育てよ!」
「おう!」
バイバイして別れるおれたち。じっちゃはおれの去り際、ぼそりとつぶやいた。それをおれは聞き逃さなかった。
「【イリオン・バトルフィールド】か。ふうむ。なーる。さあて。……老兵は死なず。いままさに国難きたれり。この老いぼれも、最後にひと華咲かすとするかな。忙しくなるぞい――」
難しいので意味はよくわからん!
*
「そういえば【クラン】の説明がまだだったわね!」
翌日。昼休み。レイカはおれにビシッと指を突きつけて言った。まったく騒がしいヤツだぜ。おれはさっさとドッヂボールやりに行きたいのにな。校庭にさ。
レイカはこの日もピンク色のタンクトップに黒いミニスカートだ。どうやらそれがお気に入りの服装らしい。か、もしくは、それしか服をもってないか。どっちかだな。じっちゃも服は一着しかもってないからな。そういう人もいるよな。
レイカは不審そうにおれを見て、
「なに考え込んでるのよ」
「いやほら、きのうと同じ服着てるからさお前。それしか洋服もってないんだなと思って。あ、おれの貸そうか?」
「余計なお世話! アホ! ちゃんと服はたくさん持ってるわよアンタ以上にいっぱい! ついでに言えばこれはきのうと違うブランドの服なの! ワカル?」
「ブランド? そりゃあれかい校庭のことかい?」
「それはグラウンドよ!」
「じゃあコーヒー?」
「それはブレンド! アホ!」
「レイカがお高くとまってるのはナンデ?」
「それはプライド……ってやかましいわー!」
いまにも殴りかかってきそうな形勢のレイカ。おれはからかうのをやめた。それ以上は身の危険を感じるからだ。おれは危機管理のできる小学生男子、春風翔だ。シブい男だぜ。
「いいからともかくもう【クラン】の説明をするわよ!」
業を煮やしたレイカが、ツインテールをぶんぶん振り回してのたまう。おれは頭をぼりぼり掻きながら、
「説明はダルい! 早くドッヂボールしてえ!」
「小学生男子マジどうにかならんのかそのドッヂボール欲は!」
「ならん!」
「断言すな!」