表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/26

3.全国の男子支持率はうなぎ登りだ

 *


「ここは……」

 

 どこなんだろう。妙な空間だ。虹色のうずまきがたくさん浮かんでいる。床は透明で、下が透けて見える。下も虹色のうずまき。とにかく全方向にうずまき。


「無事に【ログイン】できたみたいね」


 目の前には、レイカがいた。この虹色うずまきの空間に置かれても、平然としている。どうなってるんだ?


「ここはどこ? わたしはだれ? って言いたそうな顔ね」


「ここは虹色うずまきの空間。おれは春風翔だ。特技はスカートめくりです」


「就職面接だったら一発で落ちる自己紹介ね……」


「大丈夫。おれ就職しない。東大行ってアメリカの大統領になるから」


「アメリカが終わるわ。せめて日本から一生出ないで。恥だから」


「スカートめくり合法化を推し進めるよ。全国の男子支持率はうなぎ登りだ」


「何の話よ……」


 レイカはため息を一つつくと、


「とにかく!」


「まったく」


「その下りはもういい! とにかくここはサイバー・スペース【イリオン・バトルフィールド】! おわかり?」


「おかわり! ご飯がススム!」


「バカ!」

 

 レイカは痺れを切らして、今度は飛び蹴りを放ってきた。おれはそれを後退して躱し、着地を狙って一歩前進。間合いに入る。そして腰を落とし、フェイントをからめて「めくる」。


「きゃっ!」


「きょうのラッキーカラーは白! ラッキーキャラクターはクマさん!」


「死ねクソガキ! もう! もうもうもうもう! こんなやつに負けるなんて!」


 地団駄を踏むレイカ。ツインテールがぴょこぴょこ揺れる。

 

「あの。説明が進まないんで、早くしてもらっていいですか」


 おれがそう急かすと、マジな殺意を秘めた瞳で、レイカはこっちを見た。


「あとで殺す――」


 これはマジで殺す目だ。


 まあそれはともかく。


 レイカはちゃんとこの虹色うずまきの世界のことを教えてくれた。


 ――ここはVRの世界【イリオン・バトルフィールド】。


 最新型スマホiSoshia10に搭載された「Virtual Brain Enlightenment」、略称VBE機能を活用した、世界で一番高度なバーチャル・リアリティ空間なのだという。


 スゴいだろ。何言ってるかまったくわからなくて。意味不明さがスゴいだろ。


 おれがアホそのものといった感じでぽかんとしていると、レイカは補足説明をしてくれた。VRというのは、仮想空間で――なんと、ゲームの中に飛び込んで――遊ぶことができる世界らしい。おれはおったまげた。

 

「じゃあ現実世界のおれは?」


「ベッドで目をつむっているわ」


「全裸で?」


「そうよ! アホ!」

  

「ふうん。じゃあ現実世界のお前は?」


「椅子に座って目をつむっているケド?」


「つまり無防備……ごくり」


「エッチめ。千回くたばれ。……説明を続けるわよ」

 

「いや、もういい」


「もういい?」

 

「理解した。これはゲームだろ? 学校にゲームもってきちゃいけないんだゾ! センセーに言っちゃお! 言っちゃお!」

 

「小学生男子、どちゃくそ・うぜえ……!」

   

 こめかみに青筋を立ててビクビク怒るレイカのアバター。仮想空間なのにそこまで感情表現できるのはスゴい。もう現実世界と何ら変わりないな、この世界!


 え? なんでおれが「アバター」なんていう難しい単語を知っているのかって? そりゃおれ詳しいもの。知らないふりをしてすっとぼけていたけれども、バカめ、いまのご時世、VRMMOを知らない小学生男子がいるわけないだろ!


 もっとも、ホントに実現されているとは知らなかったがね。おれは、iSophia10なんてもってないし。かあちゃんが「まだ早い」って言ってスマホ買ってくれないのだ。ピンテンドーの最新機種、3DXならもってるぜ。『パチットモンスター ウルトラブーン』でみんなと対戦するしな。


 にしても、スゴい完成度の高いバーチャル空間だ。目の前のレイカのアバター、現実世界とまったく見た目が変わらない。表情も。おれの肉体もまったく現実世界のそれと見分けがつかないよ。

 

「そんで、おれをそのVRの世界に連れてきて、どするの? 授業サボって遊ぶの? 不良じゃん」


「遊び?」


 レイカは冷ややかに唇を歪めた――冷ややかながら、どこか楽しそうに。

  

「これはゲームだけど遊びじゃない。いまにわかるわ」


「ええ……遊びじゃないなら帰るよおれ。勉強はキラい」


「帰るな! 遊びよ、遊びでいいわよもう!」


 焦るレイカ。そんなにおれと遊びたいか。そうか。エッチめ。


「じゃあドッヂボールする?」


「なんでよ! どうしてわざわざ【ログイン】して、ドッヂボールなんていう野蛮なスポーツをやらなきゃいけないわけ!」


「ドッヂボールは日本の国技だぞ! バカにするな! 超楽しいだろ!」


「日本の国技はお相撲よ、アホ……」

 

 レイカは再び頭を抱えた。ぶつぶつと「どうしてこんなやつに……」とかつぶやいている。苦労が多そうだな。ハゲるぜ。


 レイカはおれをキッとにらみつけて、

 

「いい? もう一回言うわよ。これはゲームだけど、単なる遊びじゃない。『願いを叶えるゲーム』なの」

 

「願いを?」


「そう。【イリオン・バトルフィールド】は制作者不明、運営会社も不明。完全に謎のゲーム。わかっているのは次の二つのことだけ。iSophia10はこのゲームのために設計されたということ。そして、このゲームを『クリア』すれば『どんな願い事も叶えられる』ってこと」


「まさか」


「本当よ。アンタ、世の中にお金で解決できないことって、あると思う?」


「あるよ! たとえば法律とか! お金じゃ変えられない!」


スカートめくり合法化案は、金だけじゃ衆議院を通過しないのだ。いろいろ他に必要だ。金じゃ解決できない。

 

「……そうよ。あるのよ。お金じゃ解決できないことって。それもこの【イリオン・バトルフィールド】なら、実現できる」

 

 レイカはしごく真面目に、そう言ってのけた。


「iSophia10を発売したOrange社は、この最新型スマホに『夢を叶える端末』ってキャッチコピーをつけた。これはつまり、【イリオン・バトルフィールド】のことを暗喩しているのよ」

 

「よくわからん。七つのボールを集めると願いが叶う的な? そういうやつ?」


「そう思ってもらって構わない。事実、そうなのだから」


 レイカはおれをじっと見据え、言った。


「協力して。アンタの力が必要なの。アタシの願いのために。……ついでに、アンタの願いも叶えてあげるわ」

 

「じゃあおれの願いを言うぜ。おれの願いはスカート――」


「却下。エッチなのは絶対禁止。マジで叶っちゃうから」


「ええ……おれはただ『すべての生命が幸せになりますように』っていう願いをだな」


「見え透いた嘘をつくんじゃない!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ