表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

17.カタナ

 おれは戦慄していた。恐怖していた。このままやられてしまうのではないかって。【アリアドネー・グリーンテイマー】の気迫と怒濤の攻撃。それらが織りなす威圧的な雰囲気に飲まれそうになっちまう。もしこのまま負けたら大変だ。なにが大変かって、具体的にはわからんケドとにかく、こう、まどかお姉ちゃんのなんか異様なオーラにやられて、ダメになっちゃいそう。イケないアッチの世界に(アッチってどっちだよ)連れてかれちゃいそう。ムチで叩かれるヨロコビを「教え込まれて」しまいそう。


 そうなったら、終わりだ。なんか知らんが人間として一巻のオワリな気がする。あくまで、気がするだけだ。詳しいことは知らんよ。だっておれ小学生だもの。女子高生の世界の話にはついていけんよ。ドキドキワクワク未知の世界。キケンな香りがするワン。


 だから、まあ、つまり、勝たなきゃ。


 おれはムチ攻撃をかろうじて捌きながら、それでもちょっとずつダメージを負いながら、必死に考えた。人間は考える足である、と言ったのはパスカルおじさんだったかね。足ってなんだよ足って。考えるのは足じゃなくて脳だろバカめ。おれは脳をフル回転させる。攻略法を見つけなければ……!


「翔くんねえ痛い? ムチで叩かれて痛い? お姉ちゃんがヨシヨシしてあげようか? ん? でももうちょっと鳴いてね! もうちょっとガマンしたらご褒美だから! がんばれ・がんばれ!」

 

 よくわからんが敵であるはずの【アリアドネー・グリーンテイマー】もおれを応援してくれている。攻撃の手は緩めないくせに、応援してくれている。うん。だからがんばる。考える。


 痛む脇腹。さらに肩にも一撃食らって痛い。スネにもムチの先っぽが当たった。これも痛い。ちくしょう痛いぜ。まいったもんだぜ! 次なるムチ攻撃はおれの右腕を狙ってきた! 躱す! すんでのところでカタナを落とすところだった!


 ん? カタナ?


「あっ! 勝つ方法、思いついた!」


 どうしてこんな単純なことを思いつかなかったのだろう。

 

おれにはカタナがあるじゃないか。右手に宿ったこのカタナ。どこから来たのかどこへゆくのかわからんカタナ。なんのためにあるのかこのカタナ? 当然、斬るため、だろうぜ。


 すなわち、あれだ。おれはスカートめくりのテクニックを最大限に駆使してまどか姉ちゃんつまりは【アリアドネー・グリーンテイマー】に肉薄する必要がある。そして出来うる限り接近したところで、シュパン! カタナで一閃! 切り裂き攻撃でござそうろう!


 これが必勝の手筋とみた!


「行くぜまどか姉ちゃん! おれも攻めに転じるぜ!」


「い・つ・で・も・ほら。かかってきて!」


 言いながら、【アリアドネー・グリーンテイマー】のムチ捌きはますます速度を増す! 「かかってきて」と言っておきながら、これは防御に特化した動きと読んだ! 


 つまり、ぶんぶんと風車のごとく得物を振り回して、相手の接近を許さない型だ。なんだか頭がどうかしちまったんじゃないかってくらいイカれた雰囲気のまどか姉ちゃんだけど、戦いのセンスにかけては油断ならないものがある。状況に応じて無意識に最適な戦型を選択しているのだ。

 

 あのムチの攻撃圏内に侵入するのはそう簡単にできることじゃない。おれとてじっちゃから習ったスカートめくりの秘技に誇りもあり、自信もあり。敵の力量をそれなりに読み取る眼力ってやつがある。その目をもってして見れば、【アリアドネー・グリーンテイマー】が並ならぬ武士もののふだってことは火を見るよりも明らかってわけ。

 

 じゃあ負けるしかないのか?


 そんなわけないよな、おれ、春風翔。そして【プテロン・ブルーアサシン】!

 

 おれがとるべき必勝の方策は一つだ。繰り返すが手筋は一つだ。接近する。そして、シュパン、カタナの一閃で一撃必殺! これで勝負を決めるべし。


 目でムチを追う。そのあまりの速度に、残像が幾重にもかさなって見える。これは大変だ。視覚だけに頼っていては、とても突破口を見いだすことはできないよ。そしたらどうする? そう、視覚以外の感覚を頼るのだ。いきおい人間は視覚情報だけに頼りすぎるきらいがあるからな。


 おれは【アリアドネー・グリーンテイマー】の行動を、全身で感じ取る。視覚のみならず、聴覚、嗅覚、触覚、味覚(味覚?)を総動員して、まどか姉ちゃんの呵責なきムチの舞いを見切ろうとする。


 さあ働けおれの全身の感覚器官、ビンビンに働いてくれ。そして導いてくれ【プテロン・ブルーアサシン】。いまやまどか姉ちゃんは接近困難、スカートまでの道のりは遠い。だが、相手の太ももにタッチできる距離まで近づいてしまえばこっちのものだ。おれには頼もしいカタナがあるんだから。こいつの攻撃力はヤベえぞ。いいぞ。


 ――見切った!


 おれの脳の芯にピリっと電撃が走る。ような気がした。まどか姉ちゃんは右利きだ。どうしても腕の構造上、右上から左下にムチを振り下ろす動作はスムーズだけれども、左上から右下にムチを振り下ろすのにタイムラグが生じる。


 すなわちおれから見て、【アリアドネー・グリーンテイマー】の左下からススッと潜り込めば必勝間違いなしだ。おれはビクトリーロードを見いだした! これも五感を総動員して相手の攻撃を観察した功徳だ。ムチが斬る風の流れや熱、匂い、そうしたものを総合しておれは勝利の方程式を発見した。何を言っているのかみんなにはわからないと思うけど、大丈夫、おれもよくわかってないからな。うん、実際さ、わりかし小学生男子ってのはテキトーでその場のノリとフィーリングであれこれやってるから、細かいことは気にしないでくれ。


 ともかくなんだ、おれはこう、じっとまどか姉ちゃんの攻撃を観察して、隙を見つけた。要約するとそれだけのことだよ。


 じゃ、行くぜ。


「いざ鎌倉!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ