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13.【ベアー&キャット】

「ダメだ! 日本はコトダマの国だ! 名前ってのは大事にしなきゃあかん! 親からもらった名前を大事にしなきゃあきまへんで!」


「ドラゴン連発する親がどこにいるってのよ!」


「わかったわかった。じゃあもっといい名前を考える。……うーん。じゃあこれはどうだ? 【ベアー&キャット】」

 

「【ベアー&キャット】? へえ。ふーん。なるほど。いい名前じゃない。アタシとアンタ、パワー系とスピード系の【アサルト・アバター】だし。パワーのクマとスピードのネコ。イメージにぴったりね」

 

「ククク……じゃあ決定だ」


 レイカは知らない。まんまと罠にひっかかったことを。何を隠そう【ベアー&キャット】の名前の由来は、レイカのパンツだ。きのうはクマさん。きょうはネコさんの柄。だから【ベアー&キャット】だ。へへへ。いくら大人ぶろうが所詮は小学生女子。脇が甘いぜ。甘過ぎてペロペロキャンディだぜ。


「じゃ、景品交換所も案内したことだし、これで【ログアウト】するわね」

 

 レイカはそう言ったが、おれにはまだやり残したことがある。


「レイカ。話がある」


「何よ?」


「【ニケポ】を貸してくれ。たぶん1ptで足りるはずだ」


「は? 何か欲しいの?」


「チョコバナナ」


「ふつーに現実世界リアルで買えアホ!」 

 

 *


「あのさあ……」


 帰り道。気持ちのいい夕日を浴びながら、おれたちは二人並んで歩いていた。


「訊きたいことがあるんだよね」

 

「今度は何?」


 邪険な態度。レイカはキッとおれを横目でにらむ。【ベアー&キャット】の仲間だというのにこの仕打ち。ひどい! 友達は大事にしなさい、優しくしてあげなさい、って、おれ、道徳の時間に習った。


 まあいいや。その悪しき態度には目をつむろうではないか。


 それよりも、

 

「――レイカお前、100pt貯めるんだろ?」


「そうよ。絶対にね」


「そこまでして叶えたいことって、何?」


「……」


 レイカは黙り込む。おれはカラスを目で追っかける。そのまま数秒が経過した。17時のチャイムが鳴る。カラスと一緒に、帰りましょう。


「超無敵流古武術の道場をね、再興するの」


 レイカはぽつりと語った。


 超無敵流古武術。それは鎌倉時代から連綿と続く実戦的兵法。レイカの生まれである実良家は、超無敵流の宗家だ。


 しかしいかんせん、いまの時代に古武術は流行らない! レイカの父の代で、道場は経営危機に陥った。いまじゃ閑古鳥が鳴いている。弟子のない武術家、平和の時代に生まれた武術家なんて、ただのストイックでキケンなヤバいオッサンだ。


 レイカはそんな父の姿を見て、決めたらしい。道場を再び流行らせる。そしてパパが立派な男だってことを、世間に証明してみせる、と。


「泣かせるぜレイカ。親孝行じゃんか。で、いまお前のとーちゃん何して暮らしてるの? 道場に弟子がいないから月謝もらえないだろ?」


「……公園でね」


「公園?」


「毎日、公園に行って、ブランコをこぎながらハトに餌をやる仕事をしているのよ。そんなパパをみんなバカにするの。それが許せないの」


「そ、そうか……」


 ハトに餌をやる。公園で。うん、それは仕事じゃなくてあれだな。いや、皆まで言うまい。野暮なことは言うまい。


「続けてつかぬことを訊くが、したらレイカ、日々の暮らしの糧は……」


「あ、ママはバリバリのキャリアウーマンで年収は1億を超えてるから問題ないわよ」


「……」


 心配して損をしましたな、ワトソンくん。ちなみにどうでもいいが、おれのとーちゃんは「ウマを応援する」仕事をしている。おれはあんまり詳しくないけど、馬券っていうチケットを買ってウマに「まくれまくれ!」「させさせ!」って応援をしてあげると、給料がもらえるらしい。とーちゃんの収入源はそれだ。世の中、不思議な仕事があるもんだね!


「ところで翔。アンタの話だけど」


 レイカがおれの顔を覗きこんでくる。じっと見てくる。なんぞ。


「アンタの願い事は? ちゃんとマジメに決めた?」


 ああ、それね。そりゃそうだそれは大事な話題だよ。いちおう、おれが【ベアー&キャット】の一員としてレイカに協力する以上、対価として「おれの願いも叶えてもらう」ことになっている。そういう約束になっているのだ。


 ん、ってことは【ニケポ】は200pt必要じゃねえかな。まあ、100も200もそんなに変わらんか。冥王星と海王星の違いみたいなもんだな。つまり、遙かに遠い、という意味では一緒ですな。


 ま、ともかくおれはちゃんと「願い事」決めてるよ。昔から温めている、すんげえとっておきのやつがある。ぬへへ。

 

「ちゃんと決まってるよ。大丈夫安心しろ!」


「念のため訊いていい? もしエッチなやつだったら、全力で阻止するから」


 う……。レイカの疑いのまなざし。なんだその熟練の刑事デカみたいな目は。厳しく詰問されてる気分になるぜ。おれは無罪だ。無垢だ。汚れを知らない男子小学生だ! なるほどちょっとエッチかもしれんけどそれはご愛敬! むしろ健全に成長している証! そんなおれをこれからも末永くヨロピコ!


「黙るってことは、エッチな願い事なのね。うん。くたばれ」


「誤解だ! おれはただ『すべての生命が幸せであるように』と願うよ! 超道徳的!」


「だから見え透いたウソをつくなウソを! そしたらアンタにはチョコバナナ買ってあげるから! それが対価! いいわね!?」

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