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10.お ま わ り さ ん こ こ で す!

 さて、次はぱっつぁんの番だ!

 

「そんじゃ失礼してっとぉ――【着装アサルト】!」


 驚いたことにぱっつぁんの【アサルト・アバター】も赤だった。燃えさかるようなレッド。赤は女の色なのにな。その外見はといえば、そうだな、たとえるなら「二足歩行を獲得したサメ」。腕にも脚にも巨大なヒレがついていて、いかにも獰猛な印象を覚えるよ。例によって体格は一回りも二回りもデカくなっている。


 それに比べておれの【プテロン・ブルーアサシン】はスリムなアバターだった。うーん、あれか、赤いアバターは身体がデカくなるルールでもあんのか。案外そうかもしれんな。こういう時はレイカに訊くのが早い。聞かぬは一生の恥とかなんとか言うだろ。おれはことわざいっぱい知ってる。


「レイカ、あのさあ」


「何よ! もう【戦闘アサルト】は始まってる! いま忙しい!」

 

 レイカとぱっつぁんが激突する。すさまじいパンチの応酬だ! お互い、パワーで相手をねじ伏せようとしているのがわかる。スピードもテクニックも殺して、単純な力のぶつけ合いだ。


 おれはちゃんとレイカの耳に聞こえるように、怒鳴る。


「赤い【アサルト・アバター】ってさあ! カラダがデカくなる系なん!?」


 殴り合いを続けながら答えてくれたのは、レイカじゃなくてぱっつぁんだった。


「おうよゴキゲンボウズ! 【アサルト・アバター】には赤、青、緑の三色の属性が設定されている! 赤いのはパワー系! デカくなる系だぜぃイェイ!」


「へー! じゃあおれの【プテロン・ブルーアサシン】は!?」


 なおも殴り合いを続けながら、ぱっつぁんが答える。


「ブルーアサシンってくらいだから青に決まってらぁな! スピード系のアバターだぜボウズ! SPEEDで敵を翻弄するんや! 疾風かぜになれ! びゅんびゅーんっとぉ!」


「そっかー! そんじゃ緑は!?」


 まだまだ殴り合いを続けながら、ぱっつぁんは親切に答えてくれる。


「グリーンのヤツは武器が得意だ! 特殊な武器をもってるアバターは緑系列なんだぜぇ! カッコいいだろぉ! その代わり身体能力は低いぜマイゴット! ナムサン!」

 

「なるほどサンクス!」


 と、おれがお礼を言ったところで決着がついた。レイカの右ストレートがぱっつぁんの脇腹にクリーン・ヒット。ぱっつぁんは吹っ飛んでそのまま光の粒子になって消えた。強制的に【ログアウト】だ。

 

 レイカは腕を下ろしてザンシンを決め、


「ぬるい相手だったわ。……翔、グッジョブ。話しかけ続けて敵の心理的動揺を引き起こすなんて、やるじゃない」


 そう言って親指を立てる。おれは首をぶんぶん横に振った。


「そんなつもりはなかった! おれはそんな卑劣なことする男じゃない! ただ真実を知りたかっただけなんだ! 単純な知的好奇心で質問を続けていただけなんだ!」


「あのさあ翔。TPOって知ってる?」


「ちんちん・ぽっぽ・おっぱいぱいの略?」


「違わいこのスカタン! バカタレ! 質問するなら時と場所と時間をわきまえろってことよタコ助!」

 

(注:ここで翔が言った『ちんちん』とは踏切の発する音のオノマトペである。他に深い意味はない)

 

「それは悪いことをした。ぱっつぁんにゴメンナサイしないと!」


「はいはいじゃあ【ログアウト】するわね。――【ログアウト】!」


 おれたちは現実世界に意識を引き戻された。


 ニュー新小岩タウン公園。おれの頭をがっちりホールドしたままのぱっつぁん。それを傍目で見ているレイカ。【ログイン】したときの状況から何一つ動いていない。【イリオン・バトルフィールド】で起こった出来事は、現実世界じゃ一秒にも満たない「瞬間」のことだったのだ。ハイテクすぎる。


 ぱっつぁんはおれを解放した。それからはぁーっとため息をつくと、


「負けちまった。ペナルティで二十四時間【ログイン】できなくなっちまった。ええい。コイツが悪いぜ! コイツめ、コイツめぇ! ぬへへへへへ」


 再びオレにグリグリ攻撃を仕掛けてくるぱっつぁん。なら、なぜいまおれを一瞬解放したのか。このぱっつぁんってのは実に愉快なニイちゃんだなおい。


 レイカはふふんと鼻を鳴らして、

 

「勝たせてもらったわ。これでアタシは【勝利ニケポイント】、略して【ニケポ】を一点ゲット! やった!」


 飛び跳ねて喜ぶレイカ。黒いミニスカートがひらひら揺れる。もうちょっとでパンツが見えそうだ。おれもぱっつぁんもレイカのスカートに目が釘付け。


 レイカはそんな野郎どもの視線に気がついたみたいで、


「……翔はともかく。ぱっつぁんさんアンタはロリコン罪でぶち込まれて死刑即日執行間違いなしだからお縄をちょうだいしなさいよほら早く」


 ぱっつぁんはおれを再度解放した。そして居心地悪そうにもじもじしたかと思えば、こんなことをのたまった。


「パンツに歳は関係ない。パンツのフェティッシュは万人に平等だ。人間に人権が平等に与えられているのと同じように。違うか?」


 レイカはじっとぱっつぁんを見据える。冷徹な目。獲物を殺す目。そしておもむろに叫ぶ!

 

「お ま わ り さ ん こ こ で す!」


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