1.超つえぇ転校生女子! 実良レイカ! パンツの色は……お楽しみに!
おれはスカートめくりの達人、春風翔!
春風のように駆け抜けて、タカのように超スピードでめくる。これがおれの戦術だ! おれのこの攻撃から逃げられた女子はいないぜ!
きょうのパンツは白! ピンク! いちご!
ほい、目視確認よし! ご安全に!
うーん、愉快だ!
そんなおれの表の顔は男子小学生。南南東小学校に通う5年生だ! 5年1組じゃおれはちょっとしたユーメイ人だな。特に女子から。
「アイツには近づくな。スカートめくられちゃうから」ってね。
……いやゴメン嘘。おれいまウソついた。ちょっとケンソンしちゃった。ふふん。本当のことを言えば、おれがユーメイなのは5年1組に限った話じゃないのだ!
なんとまあおれは、5年生の全クラスでユーメイ人だ! おれを知らないヤツはいない! 警戒すべきキケン人物としてね!
ん? いや、これも違うな。本当に本当を言えば――ええい、もっとだ! 実際はもっともっとユーメイだおれは!
そう、おれの暮らす葛飾区ニュー新小岩タウン! おれは地域の新聞にも「不審者情報」として載ったことがある! だからおれは南南東小学校全体、いや、地域全体のスターだぜ! 道行くおばちゃんもおれのことを知っている! 言ってみりゃそう、アメリカの大統領よりも幅をきかせてるんだ!
だれもがおれを見てこうささやくのさ。
「うかつに春風に近づくなよ。アイツのテクはヤバい。パンツはイチコロでモロ出しだぜ」ってな!
だから付いたあだ名は「疾風のハル」。おれがスカートめくりで築き上げた伝説のことを「疾風伝説」というのだ! これ、テストに出ないけど大事だからちゃんとノートに書いておけよ!
……ま、前置きはこのくらいにして。
「あの日」の話をしようかな。
その日おれたち5年1組の男子たちに、最低最悪な災厄が降りかかった。おれの友達はバッタバッタとなぎ倒され、流血の惨事。いや血は流れてないけど。まあみんなボコボコにされた。たった一人の女の子に。あれは恐ろしい事件だったな。
そしてその事件は、おれがアサルト・アバター【プテロン・ブルーアサシン】と出会うきっかけにもなった。おれが謎のVRゲーム、【イリオン・バトルフィールド】で戦いはじめたのも、そもそもはあの事件がきっかけだぜ。
んじゃ、はじめようか!
*
「南南東小学校の男子はみんなおサルさんみたいにエッチなくせに、こーーーんなにもだらしないのね。超ウケるんですケド! ぷっ」
それはまさしく地獄だった。おれは目を疑った。正気を疑った。
不良のタカシが、あの不良のタカシ、おれの親父はヤクザだとか言って(ホントはただの豆腐屋だ)いつも威張っている腕っ節の強いタカシが、まさか。
まさか。
転校生の女の子にワンパンで沈められるだなんて。
「で、アンタが春風翔? はじめまして。エッチなお猿さん。アンタの噂は北北西小学校まで届いてるわよ」
転校生――実良レイカは挑発的な声色で、そう言った。
なんて可愛い女子なんだろう。おれはこの惨状を目の当たりにしながらも、そう思わずにはいられなかったよ。
お人形さんみたいな整った顔。雪みたいな白い肌。そして、ピンクのタンクトップに黒いミニスカートという、スカートめくりの達人を愚弄してるとしか思えない服装。
なんというか、こう、全体的に可愛い。
ツインテールをぴょこぴょこさせながら、レイカはタカシの服を剥ぎ取っていく。そしてタカシを白のブリーフ一丁に仕立て上げると、
「ダッサ」
とか言って鼻で笑った。タカシにとっては災難だが、ある意味で当然の報いかもしれんな。なにせタカシ、「歓迎の儀式だ」とか言ってレイカの背中にアマガエルを押し込もうとしてたからな……。
怒ったレイカはスゴかった。なんだかわからんが、武術みたいな動きでバッタバッタと男子たちをのしていったのだ。ノーダメージで。短時間でみんな一撃。タカシも為す術なく崩れ落ちた。信じられんぜ。
残ったのはおれ一人。遠巻きに惨状を傍観していたおれ、ただ一人。
レイカは高慢そのものといったような上から目線で、まるで皇帝みたいに言いやがるよ。
「これでこのクラスの男子、立っているのはアンタ一人。どうするの? 逃げる? それとも疾風のハルのプライドをかけて、アタシと戦う? 選んでいいわよ。ゆっくり待ってあげる。寛大は王者の徳って言うものね」
なんという強者のオーラだろう! 女子たちは目を輝かせて、
「5年1組の救世主!」「お姉様!」「エッチな男子をいっぱいやっつけて!」
と大盛り上がりだ。
おれは女子たち全員の射るような視線を浴びながら、
「おれは……」
「おれは? どうするの? やるの? 逃げていいって言ってるんだケド?」
「プライドが、ある。おれにも……」
「いいけどね。ちゃんとアタシをノック・アウトできるの?」
「……できらぁ!」
もうこうなったらヤケだ。やるしかない。あの戦闘を見せつけられたらそりゃおれだってビビる。いくらおれでも熊のスカートをめくれって言われたら困るよ。大統領のスカートだってめくってみせるおれでも、猛獣だけは勘弁な。
そんで、目の前にいる「レイカ」っていう人間は、まさしく猛獣そのものだった。
まず目が違う。なにか、こう、大きな覚悟を固めた人間の目をしている。覚悟のある人間の目はああいう色をしているって、じっちゃが言ってた。間違いない。
そういう人種は猛獣をもひっくり返す力を発揮するのだ。不可能を可能にするのだ。どん底に落ちてもいつだって這い上がってくるのだ。そういうスーパーマンの目だ。猛獣の目だ。じっちゃが言ってたから間違いないのだ。
「ふうん、やるのね? アタシはいいけど……後悔しないでよ?」
可愛いくせに挑戦的な態度! そして人を値踏みするような目!
「やるったらやる! ここで退いたらおれのキンタマが腐る!」
「最悪……やっぱ男子小学生って最悪だわ。エッチだし、ガキだし、下品」
「うっせー言ってろ! ばーか! おまえのかーちゃんフルシチョフ!」
――最大限の罵倒。宣戦布告の合図だ! おれがここで退いたら、どうなる。教室中に倒れ伏し、苦痛のうめきを上げる男子たちの魂は、うかばれないじゃないか! タカシのブリーフが成仏できないじゃないか!
男子にはやらなきゃいけない時ってのがある! そう、死を覚悟してでも!
おれにも覚悟があるってところ、見せてやらぁ!
……そんな気合い十分なおれを動揺させるためだろうか、レイカはとんでもないことを言い始めた。
「オーケー。じゃあいままで散々スカートめくりで女の子にヒドいことしてきた罰。もしアンタがアタシに負けたら、全裸になってもらう」
「全裸って、え? フルチン!? みんなの前で!?」
「……。そうよ。そのくらい、当然でしょ? 女子のパンツを見るくらいだもの。そのくらいの『覚悟』は常日頃から、しているわよね?」
くっ……。おれのおデコに汗が浮かぶ。フルチンになること自体はまあいい。ただフルチンになるだけならなんでもない。そんなの朝飯前にやれる。でも、いまは、いまだけはダメ。なにせおれが好きな女の子が見ている。
そう、5年1組のアイドル、源姫ちゃんが見ている。レイカの後ろで、目をつむってぷるぷると震えているちっちゃな女子。アイツのことおれは好きなんだ。じつは姫のパンツだけは見たことがない。そんなことしたら嫌われちゃうからね。
でも、もう前言撤回はできない。おれの、おれたち男子の名誉にかけて!
「なんでもいい、さっさとはじめようぜ。フルチンでもなんでもなってやるよ!」
「よく言ったわ! 褒めてあげる。じゃあ無様におち……を晒しなさい!」
「おち……、え? なに聞こえなかったもう一回言って?」
「やかましいわー!」
顔を真っ赤にしながら殴りかかってくるレイカ。その動きはおれがいままで見てきたどのパンチよりも早い。パンチ? いや違う。全身の体重を拳に乗っけている。そして全身で迫ってくる。早いし、重い。見たこともない、謎の一撃必殺拳――!
「もらったわ! ……え?」
すでにおれの「めくり」は終了していた。
おれは拳の下をかいくぐり、レイカのスカートをめくっていたのだ。パンツの色は白。おしりの部分に可愛いクマさんマーク! 目視確認よし! きょうもご安全に!
そして連戦のせいか、ちょっと汗ばんでパンツの布地が肌に張り付いている。だから肌色が透けている。肌色がスケスケ……。
ああああああああ! なんということだ! これが強者の――パンツ!
――男子小学生のおれには、ちと刺激的すぎた。
次の瞬間、おれは鼻血をブーして意識を失ったのだった。オダブツ。