多脚殲滅兵器『ワイアットアープ』
究極の人殺し兵器です。
シューッ
かすかな音を立て長い足を伸ばして、空爆で生まれた巨大な瓦礫・・・建物だった物の一部、と言うべきか?、をよじ登る。
その途端、対砲撃防衛レーダーが高速の飛翔体を認識した!。
即座に足を逆に動かして、ひょいとその飛翔体=対戦車ロケット弾を避ける。
自分にまっすぐに向かって来る物、つまり上下左右の動きが少なく距離だけが大きく変化する物だけを判断する単純なロジックは、瞬時に判断を下せる。
そのおかげで高速で飛んで来る砲弾すら避ける事が可能だった。
もちろん距離が近過ぎれば無理だが、わざわざ重火器を撃って来るような敵は、たいてい十分な距離離れた所から撃って来るから問題はなかった。
瓦礫の縁を回り、今ロケット弾を撃って来たと思しき所に5.56mm弾をばら撒く。
途端にあちこちで動くものが出現し、そのいくつかから銃弾が飛んで来る。
装甲板に銃弾がはじける。だが人間相手用の銃弾程度など問題にもならない。
そんな攻撃には構わず、自動機械ならではの速さと正確さで、出現した動くものに対して5.56mm弾を撃ち込んで行く。
やがて、周囲に沈黙が訪れる。
カメラがもう一度周囲を見回し、自分達以外に動くものがもういない事を確認する。
人間では装備したら動けなくなるような装甲板に守られ、人間では持って歩けないような量の弾薬を持ち、人間では乗り越えるのに苦労するような大きな瓦礫を軽々と乗り越え、人間では及びも付かないような速さと正確さで敵を倒す。
唯一人間に劣っているのは、『敵』を見分ける判断力だけ。
だが、問題ない。この機械に与えられた任務は対象地域の殲滅なのだから。
たとえ今は非戦闘員だろうと、いつ武器を取って戦闘員に変わるか分からないのだ。
たとえ『敵』が女子供だろうがそれは単なる『付随的犠牲』と言うものだ。
核や化学兵器のように使用を咎められる事もなく、核や化学兵器のように対象地域を汚染して占領を妨げる事もない殲滅兵器。
空爆で殲滅し切れなかった敵を『人間』の犠牲を出す事無く倒す最高の兵器!。
この機械を作った者達にとって、敵国の者たちなど『人間』ではないのだから。
多脚殲滅兵器『ワイアットアープ』は、ゆっくりと次のブロックへと向かった。