多脚狙撃兵器『ワカメ』
まずは、準人殺しの兵器から。
しゅいーん・・・
かすかな音を立ててレンズがズームし、1km先に現れた動体を捕らえる。
目標判別システムが、その動きと格好からすばやくその正体を割り出す。
=『敵性軍』『通常歩兵』『3体』
最新の味方動向データをもう1度確認。
=対象方向10km以内に味方存在情報なし。
最新の司令情報を確認。
=『当該方向に現れた敵性軍を攻撃し、可能な限り多数を足止めせよ。』
戦略AIが最適な狙撃順序、銃種、方法を設定する。
ぷしゅっ・・・ぷしゅっ
かすかな音とともに、7.62mmの狙撃弾が発射され、1秒ちょっと後、先頭の歩兵の頭を撃ち飛ばす。
それを見て2番目の歩兵が弾を避けようと反射的にしゃがむが、その股間を狙って発射されていた2弾目がその頭に当たり、撃ち飛ばしてしまう。
指向性敵性電波受信機が3番目の歩兵がいると思われる位置からの電波を感知する。
暗号化された通信内容は解読出来ないが、おそらくは救援要請と狙撃兵の存在の報告。
=『作戦成功』
十分な成果だった。これでしばらくは敵軍はこの地域を警戒して進軍速度が鈍る事だろう。
多脚狙撃兵器『ワカメ』。
4本の強力な長い足を持ち、それを使って山岳地の岩場や樹上にすら上る事が出来、必要ならば平地に塹壕を掘って隠れる事も出来る。
武装は、高速連射が可能な5.56mm、狙撃用の7.62mm、そしてオプションの超長距離兼対物用の20mm。
全身を迷彩網で覆われたその姿は周囲に溶け込み、判別が出来ない。
高性能ズームスコープにも、『木の葉越しにのぞく青空』と言った形の迷彩板が付けられ、周囲に溶け込んでしまう。
迷彩網を取った姿は、4本足のカマドウマ、と言った形をしている。
高度な敵味方判別装置や司令部とのデータリンクシステム、長距離狙撃用のセンサー類を満載したために非常に高価だが、人間を必要とせずに敵歩兵の制圧侵攻を阻害できるこれは、それだけの価値はある兵器だった。
!。パッシブレーダーがこちらに向かう軌道を持つ多数の飛翔体を検知した。
木の幹に食い込ませた爪をはずし、樹上の狙撃位置から地上に飛び降りる。
4本の長い足がふわりとその衝撃を受け止める。
そのまますばやく足を縮めて地に伏せ、装甲板をかぶる。
多数のロケット弾が周囲に着弾し、周辺に鉄と炎の嵐が吹き荒れた。
・・・・・
ダメージチェック。
=『装甲版に多数の凹み』『前右足に軽度のゆがみ』
環境チェック
=『立ち木消滅』『倒木多数』
『作戦継続に支障なし』
感情のこもらない冷たい目がふたたび敵の予想侵攻経路の方を見つめる。
多脚狙撃兵器『ワカメ』は、狙撃位置を樹上から倒木内に変更し、敵の侵攻を待ち受けるのだった。