終わりの始まり
# 爽やかなニュース
「昨夜十二時過ぎ頃、S県M市にあるマンションの一室で男女の遺体が発見されました」
「二人に目立った外傷はなく、警察では自殺と見て捜査を進めています」
そんなテレビのニュースを顔の右半分で聞きながら、鈴木は朝食を食べている。今朝もいつもどおりの白飯とインスタント味噌汁。
「現場に佐山さんが行っています。佐山さーん」
ニューススタジオから画面が切り替わり、マンションのエントランス前と思しき風景が移される。画面が移動し、佐山と呼ばれた女性キャスターが
「はい、こちら現場から佐山です」
と答えている。続けて
「二人のうち一人はこのマンションに住む長田宏さん六十二歳、もうひとりは長田さんと交際していた北見ゆり子さん三十四歳と見られています」
とカメラに向かって話しながら早足で移動、カメラもそれを追う。カメラはコンビニを映し出す。
「昨夜七時過ぎ、マンションの隣にあるこのコンビニで酒を買う二人の姿が店の防犯カメラに写っていました」
通行人がカメラと佐山の方を交互に見ている。
「コンビニでアルバイトをしている男性に話を伺ってみましょう」
カメラはその男の胸から下を移す。黒いTシャツにジーンズ姿。日に焼けた腕を組んでいる。
「おはようございます。昨夜、このお二人がコンビニに買い物に来られたそうですね」
佐山は死亡した二人の写真を男に見せているらしい。やや興奮気味の声の男が答える。
「は、はい、七時頃だったと思います」
「二人はどんな様子でしたか」
「店の中でずっと手を繋いでて、年の離れたカップルだな、と思っていました」
「仲が良さそうな感じで?」
「ええ」
鈴木は一瞬テレビの方を向いたものの画面には男の足元のみが写っており、特に興味も持てず冷蔵庫に麦茶を取りに行った。ついでに冷蔵庫にマグネットで留めてある駅前のスーパーのチラシを見て今日買うべきものがないかチェックした。牛乳が120円、インスタント味噌汁が298円。
食卓に戻ると、先程のニュースは終わっていた。女性キャスターが笑顔でカメラに向かって話している。
「今日の天気はどうでしょうか? ともみちゃーん」
「はーい! 今日はR公園に来ています。見てくださいこの空! 今日も暑くなりそうでーす」
カメラは主にともみと呼ばれた若いお天気キャスターを写し、ともみが見て欲しがっている空は背景程度にしか写していない。
「今日もともちゃんは巨乳だなあ」
と鈴木はつぶやく。
ともみと呼ばれたキャスターは今年4月からこの「ニュース・ゴーゴーゴー」のお天気お姉さんを務めており、そのプロポーションの良さが男性ファンを惹きつけている。夏休み中はテレビ局主催の企画「ゴーゴーゴー夏祭り」のTシャツを着ており、さらにそのプロポーションの良さが目立っている。
「ブラジャー透けてないか?」
鈴木は目を凝らす。ともみの天気の解説は聞いていない。ともみが画面脇に差し出されたボードを指差す度、鈴木にはともみの胸が微かに揺れているように思える。
「それでは今日も元気にいってらっしゃーい!」
ともみが手を振り、鈴木もテレビに向かって手を振り返す。
鈴木は童貞である。