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通常ではない状況だが、私は初めて八代さんの部屋にお邪魔する事になった。

八代さんは、少し待っててと言い、私を腕の中から降ろした。

扉を開くと、私の背中を支えて中へと招き入れた。


(うっ……!)


玄関に足を踏み入れたその瞬間――。強烈な腐敗臭が鼻を刺激した。吐き気を催し、今にも倒れそうだった。中は真っ暗で、赤いランプしか灯っていない。まるで本物の幽霊屋敷のようなおどろおどろしい雰囲気に包まれている。

「どうしたんだい」

八代さんが、後ろから声をかけると、私は気を悪くしないように言った。

「ちょっと、変な匂いが……」

「ああ、実は……。昨日、食べたものをそのまま放置していたからかな。ちょっと片付けてくるから、待ってて」

八代さんが、部屋へと入っていくと、私はふらふらと体を揺らし、その場に座りこんでしまった。

その時、すぐ近くで猫の鳴き声が聞こえた。もしかして、あの猫だろうか。私は、何でもいいから、傍にいてくれる存在が欲しかった。猫の鳴き声に向かって、壁を辿って歩いていく。すると、ビニールでできた仕切りが顔に張り付いてきた。

「うわっ!」

顔をしかめて、くぐり抜けると、一段と赤は濃くなり、部屋の全体が見渡せた。そこには、想像もつかないものが陳列されていた。私は反射的に、叫ばないように口を抑えた。叫び声が聞こえたら不味いと思ったからだ。


私は眉を寄せたまま、壁一面に飾られている写真や、棚に置かれている物体を見た。奇形児や、障害のある者、虐待されて傷だらけ人、美容整形失敗事例、麻薬中毒で組織が破壊されている写真など……見ているだけで気分の悪くなるものが壁にたくさん飾られている。棚には、何かの一部や、本物とは思いたくない小さな胎児のホルマリン漬けが飾られていた。

(変質者――!)

私は咄嗟にそう思い、早くここを引き返そうと体を後ろに向けた。八代さんが、微笑んでいた。

「済まない。変なものを見せて」

私は涙が出て、震えた。

「これは、単なる資料だ。怯えないでくれ。初めての人には衝撃かもしれないが」

そう言いながら、近寄ってくる八代さんに、私は一層ガタガタ震えだし、一歩ずつ下がった。

ぐねり。何かを踏んで、私は床の上に転んだ。その物体を見ると、あの猫がいた。ただし、出会った頃とは別の何かに変わり果てていた。

「ぎゃあああ……!」

私が叫ぶと、その猫は驚いて棚の方に逃げてしまった。

八代さんは、冷静にその様子を見つめ、私に手を差し伸べた。

「お、お願い、します……た、助けて……下さい。誰にも、言わないから……ぁ」

私は恐怖で頭が真っ白になり、助かりたい一心で懇願した。

八代さんは、手を引っ込めて溜息をついた。

「何か、勘違いをしているね。私は、美しいものが好きなだけだ。君はおかしいと思うかい?あの猫も、綺麗にしてやったんだよ。愛していたから。犬に服を着せたりするのと同じように――海外では、犬の毛を染めたりもするだろう。それと一緒だ。彼女も、そうだった。もう、お別れしたがね」

八代さんが、私の後ろを指さした。私は、その指のさし示す方を、ゆっくりと振り返った。

「あ、……あ」

気がつくと、私は漏らしながら、鼻水も垂らしていた。全身から体液が搾り取られるような気がした。

八代さんが指さした先には、あの肉の塊が――。

あの事件の犯人は、八代さんだった。私は、頭を床にこすりつけながら懸命に乞う。もう、意識がないまま喋っているようなものだった。

「お願いします。命だけは、お願いします」

「彼女はね、整形してから頭がおかしくなった。整形したら、顔も心も不細工になるのに!だから、私は彼女を清い道に戻してやったんだ。なのに、彼女の性格は戻らなかった……。ずっと、私を憎むんだ。だから、君が言うようにお別れした。最終段階に入ると、こんな風に肉の塊だけになって、もう話も出来なくなる」

「あなた……が、ころ、殺した」

「隣の人のことかい?あれは仕方がなかった。彼も、矯正してあげたんだ。彼は昔は好青年だったのに、いつの間にか顔を弄っていた。私はがっかりしてね、彼を彼女のように変えてやった。そうしたら、外に出なくなったんだ。彼は私を憎みはじめた。いい事をしたやったのに。いつからか、殺してくれと私に言うようになった。それで」

「もう嫌!!」

私は錯乱状態になり、暴れた。八代さんは、暴れる私を力一杯押さえつけた。

「やめて!!」

「君も、私を憎むんだね。信じてたのに」

八代さんが、注射器をズボンのポケットから出した。私は一心不乱に抵抗する。針が皮膚に刺さり、中の液体が注入されていくと、私は徐々に力が抜け、視界がぼやけていった。

揺らめく景色の中、ドアを叩く音と佐々木さんの声が聞こえた。「真澄さん?ねぇ、大丈夫?真澄さん」




『非常に嫌な事件でしたが、あれからもう三ヶ月以上経ちましたが、犯人は未だ見つかってません。坂崎さんどう思いますか? 』

『うーん、せやなぁ。何食うたらこんな異常な性格に育つんでしょうね? 』

『そうですね。あれから同じような事件は通報されていませんけど 』

『えー悲惨な事件でした。続いてのニュースです、ご当地アイドルの〝スイカ娘〟が今話題です……』


「君は私を愛してくれるかい?」


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