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第六話 再会

 「どうだった?受かってた?」

 「当たり前だろう、俺を誰だと思ってやがる」

 その言葉を聞くと、花撫は胸をなで下ろした。先に自分が合格していたことがわかっていたので、残った大地が心配でたまらなかったのだ。

 「とにかく、これで裕初とひーちゃんに会えるわね!」

 あまりのうれしさに花撫は目を潤させながら歓喜の声をあげ、大地の腕をブンブンと上下に振る。たいして大地は気持ちに余裕があるようで、ニコニコしながら花撫が落ち着くまで付き合ったのだった。

 入試はそんなに難しい仕組みではなかった。部活動の種類によっては差があるかもしれないが、選手がそれぞれの競技を行い、それを部活動の顧問だと思われし人々が審査・採点をしていき、優秀な生徒だけを選抜するという形式であった。花撫と大地はもともと武道を得意としていたが、受験者の中でも二人の評価は圧倒的に高かっただろう。なぜなら二人とも勝ち越し戦において負けなしだったのである。審査員からもう十分です、とまで言われた始末だ。

 「本当にこの一晩はドキドキしたわ、今まで生きてて一番かも!」

 「全くだ、早く裕初たちに報告したいものだな、奴らも緊張しっぱなしかもしれんぞ?」

 「まさか、二人なら気にせずに優雅に過ごしているわよ、きっと」

 花撫はクスッと笑いながら答える。

 「さぁ、これから合格者説明会よ、早く行きましょ!」

 大地の手を引き、花撫は会場へと走って向かった。大地はやれやれ、といった様子で手を引かれていったのだった。


 俺と氷紗はお昼を食べ終わるとすぐに入学式会場に向かった。また集合時間に遅れてはたまらないと氷紗が急かしたのである。俺はご飯を食べるのが遅い方だったので、少し時間がかかることを氷紗は気にしているらしい。

 「氷紗、そう急がなくてもまだ時間あるって!」

 「にぃは食べるのも、歩くのも、考えるのも遅いの!」

 「食べるのはお前が早すぎるだけだと思うんだけども・・・」

 そう、氷紗は食べるのが早い。おまけに大食い。なのに早い。例えば俺が並盛りの牛丼を食べたとすると、氷紗は特盛りの牛丼を俺よりも早く食べ終わる。まさに底なし、ブラックホール。その栄養はいずこへ?

 ともかく、俺たちは入学式会場に向かっているわけなのだが、さっきから何か妙である。校舎の間の通路を通っている俺たち一年生に注がれる校舎内からの目線が奇妙なのだ。先輩方だと思われるのだが、明らかに態度が歓迎していないのだ。なんか俺、やらかしたかな?まぁ、そんなこと考えていても仕方がないだろう。

 会場に着き受付を済ませると、紙袋に入った資料となにやらスマホのような、タブレットのようなものが配布された。よくわからないが、これが携帯のかわりなのだろうか?スマホにしては分厚く、タブレットにしては画面が小さい。電源の付け方もわからないので、とりあえず紙袋の中に放り込んでおいた。中には体操服も入っていた。どうやら制服の時のデータを利用しているらしい。なんて仕事が早いんだ。

 会場内の指定された席へ向かうと、なんと最前列だった。氷紗が隣だったので、おそらく特待生は一列目なのであろうか?なんにしろ、これは姿勢正しく眠らずに過ごさなければならないではないか。悲惨なものである。

 席についてしばらく待つと、次第に入学生が集まってきた。隣で例の機器をいじっていた氷紗もようやくあきらめがついたようで、俺と同じように紙袋の中へ半ばキレ気味で放り込んだのであった。

 「にぃ、これ動かない。絶対動かない。どうしても動かない」

 「わかったから少し静かにしろって。説明がきっとあるさ」

 氷紗はむすっとしながらふんぞり返っていた。あぁ、女子力ゲージが減っていくのが目に見える・・・。もう少しあのお嬢様みたいにおしとやかであってほしいものだ。


「ただ今より、第14回、部活動高等専門学校<東京校>入学式を開会致します」

 華麗な音楽が鳴り響き、入学式が始まった。さすがに少し緊張したが、隣でウトウトいている氷紗をみると気が抜けそうになってしまう。いけないいけない、こんなときはお嬢様のことを思い出してだな・・・。

 「新入生代表の言葉、持明院(じみょういん)(あおい)!」

 「はい」

 その聞いたことのある声で我に返った。なんとあのお嬢様が新入生代表だったのだ。やはり優等生である。

 華麗な足取りでステージに向かい、その長い髪をひるがえし、深々と礼をした。

 「私たち新一年生のためにこのような盛大な入学式を開いてくださいましたことに、感謝申し上げます。まだまだ未熟者でございますので、先輩方に追いつけるよう、日々精進して・・・・・・」

 そのような言葉で、持明院葵は代表の言葉を始めた。このような公の場でのスピーチは慣れているのであろうか、緊張しているそぶりも見せずにスラスラと話す。隣を見ると、さすがの氷紗も起きてしっかりと話を聞いていた。何というのだろう、カリスマ的力を彼女には感じた。

 持明院の代表の言葉が盛大な拍手で締められた後に、在校生からの言葉があった。

 「在校生代表の言葉」

 その司会の合図とともに、ステージ脇から先輩だと思われる女子が現れた。ボブほどの髪の長さで、歩き方も持明院と比べれば女の子らしくない。というよりは、子供っぽいと言った方が適切であろうか、とにかくニコニコしている。

 「新入生、入学おめでとう!私は部高専の生徒会長をつとめている、三年の新堂(しんどう)瀬理奈(せりな)だよー!」

 その挨拶にあっけにとられる。他の新入生も同様だろう。本当に入学式か?と思うほどの軽さである。

 「早速だけど、みんな受付でスマホみたいなのをもらったよねー?それを膝の上にだして準備をしてくださーい!操作方法を教えるよー!」

 ・・・どうやら厳粛で一般的な普通の入学式とは部高専は異なるらしい。それとも今まで知っていた入学式が普通ではなかったのであろうか。とりあえず周囲に合わせて機器の準備はしておこう。

 「じゃぁ最初に、紙袋に入ってる自分専用のメモリーカードを挿入して、登録をしてねー!メモリーに各個人の情報は入っているから、生体認証だけすれば大丈夫だよ!」

 言われるがままにメモリーカードを挿入すると画面が展開し、指紋登録画面に映った。隣を見ると、氷紗が使い方をようやくわかって悔しそうにしながら操作を進めていた。俺は右手の人差し指で指紋を登録し、とりあえず次の指示を待つ。

 「生体認証まで終わった人は、それを利き腕じゃない方の腕に当てて、側面のボタンを押してみてね−!面白いことになるよ?」

 笑いながら会長が説明するのでいやな予感しかしない。引くに引けないので左腕にそえてボタンを押す。すると、機器が変形し、腕を完全に包み込んだ。仕組みはよくわからないが、動かしても外れる様子はない。どうやら完全に固定されているようだ。

 「ねー!面白いでしょ−!それね、電子生徒手帳みたいなものなんだ。私たちは英語を直訳して「Electronic Organizer of Students」、略して、EOS(イーオス)って呼んでる人が多いかな。今は時間がないから細かい説明は割愛するけど後で説明書をゆっくり読むといいかも!」

 なかなか便利そうな機器だった。なんと言ってもさっきまでキレ気味だった氷紗が目を輝かせてEOSを触っている。これはしばらくは機嫌がよくなりそうだ。

 「それじゃ、挨拶っていうよりも説明になっちゃったけど、ここらで終わりにするね!少しは期待してるよ!」

 そのような形で、新堂生徒会長の話は終わりを迎えた。なかなかどうして、この生徒会長は新入生をバカにしていくスタイルのようだ。まぁ、生徒会長だから優秀なのであろう。とはいっても、このような軽い感じで生徒を統率できるのだろうかという疑問は残ってしまうのだが。

 「それでは、ここで特待生の紹介を行います。特待生は起立して、回れ右をしてください」

 いきなりのことに少し動揺しながらも、俺たちは新入生の方向を向いた。どうやら特待生は全員で30名ほどらしい。意外と少なかった。

 見回すと、一つだけ頭が飛び出している人が目に入った。一目で大地だと理解し、その横に花撫の姿を見つけると俺は安堵した。

 特待生一人一人の簡単な紹介の後、校長の話を聞き、校歌を歌い、入学式は全日程を終了。新入生は解散となった。氷紗と二人で会場からでると、そこには花撫と大地がそろって待っていた。

 「二人とも、合格おめでとう。これからもよろしくな」

 「当たり前じゃない、私たちが落ちるとでも?」

 俺たちは互いに握手をして1日ぶりの再会を祝った。たった1日ではあるが、一歩間違えれば3年間会えなかったのだ。さすがに少しは心配していた。

 「ひーちゃん、裕初が迷惑かけたでしょ?」

 「うん、迷惑しかかけなかったよ」

 ストレートに氷紗にいわれてしまった。うん、否定はしない。

 それから俺たち四人は寮に向かった。先ほど知ったことだが、初めてここに来たときに泊まった寮は臨時の寮だったようだ。本来の寮は校舎から少し離れた場所にあるらしく、なんとホバークラフトのようなものをつかって校内では移動をするらしい。

 その乗り物はホバークラフトが普通空気を利用して浮かぶのに対し、磁力を利用して浮かぶらしい。いうなれば、リニアモーターカーの縮小版のような物で、道路に埋め込まれた電磁石がそれが上を通ったときのみ反応し、磁気浮上により浮かばせる仕組みだという。磁力が無駄に拡散しないようなものになっており、おかげで電気機器への影響も最小限に抑えてあるようだ。

 ホバークラフトに乗る時にもEOSが役に立つ。個人情報が完全に保管してあるので、EOSをホバークラフトにかざすだけでロックが解除され、起動する。非常に便利だ。

 のり心地も非常によく、安定しているし、なんと言っても移動速度が早かった。速度制限はあるものの、寮まではすぐにつくことができた。

 寮は男女で分かれていたため氷紗が発狂しそうになっていたがなんとかなだめて、再び二人二人に分かれた。明日は入部する部活動が決まる大事な体力テストがあるらしい。今夜はゆっくり休んだ方がいいだろう。そんなことを考えながら、自分の部屋を探して入ったのだった。

 なお、このあと俺が大地に迷惑をかけてしまうことは、いうまでもないか。


更新遅くなってしまいました・・・。申し訳ないです。

さてさて、入学式もおわり次は体力テストのようです。気になる四人の結果とは?

ついに、次話から血が流れる・・・かも?

一週間以内の更新を目指します。

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