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第三話 希望と絶望

 列車の内装はよくテレビや雑誌で見たものと変わらなかった。その不穏な雰囲気以外は。

 全員が座席についたようだが、誰もが戸惑いを隠せないようだ。恐れおののきすすり泣く者、あまりの事の大きさに呆然とする者、何かを諦めたように意味深な溜息を吐く者、さまざまだった。一方坊主頭はというと警備員によって手錠のようなものをはめられていたが、ほかの生徒と同じように列車に乗っていた。驚愕ともとれる表情をうかべながら、ただ焦点の定まらない目でどこかを見つめていた。

 そして隣にいる氷紗はというと、それまた意外と冷静なのだ。いや、鈍いと言ったほうがいいのか、マイペースと言ったほうがいいのだろうか。持ってきたミックスナッツをポリポリと食べている。

 「氷紗、よくこんな状況でお菓子を食べられるな」

 「だって、お腹すいちゃったんだもん。それに、起きちゃったことは仕方ないでしょ?ならするべきことは過去を振り返って後悔するんじゃなくて、これからどうするか、を考えようよ、ゆうにぃ」

 どうやら氷紗もただお菓子をつまんでいたわけではないらしい。言われたこともごもっともだ。後悔したって仕方ないし、これからのことを考えるとしよう。

 「外、本当にトイレしかないね。何にもないよ」

 「ああ、暗いし何にも見えないな」

 今度は窓際には座る気はしないようだ。当たり前だ、外に広がるのはトイレの外灯だけだ。他には、何もない。


 「ピィィーーっ!」

 突然、何か奇妙な音がなった。それが鳴りやむと同時に、シュッ・・・シュッ・・・シュッ・・・と謎の音が聞こえ始め、列車が動き始めた。無論、発車アナウンスなどはない。

 「蒸気機関車!」

 氷紗が車内に声を響かせる。それを聞いた者は次々と声をあげはじめた。

 「蒸気機関車って、あの蒸気機関車か!?」

 「ありえない、二百年前の技術だぞ!」

 「そもそも、化石燃料は世界的に底をついているじゃないですか!」

 数々の反論を受けながらも、氷紗は自信をもって答える。

 「ううん、これは絶対蒸気機関車。一番最初の汽笛とかは蒸気機関車以外はだせないし、そもそもこの動いてる音も、全部聞いたことある!」

 おそらくネットで探して聞いたことがあるのだろう。もしかすると、授業中では写真は見れるかもしれないが、実際に発車音を聞いたことのある生徒は意外と少ないのではなかろうか。俺も知らないし。

 「氷紗、蒸気機関車っていったい何なんだ?そんなすごいのか?」

 「もう、ゆうにぃ、本気で言ってるの?」

 氷紗はため息交じりに続ける。

 「蒸気機関車は1800年代にイギリスで起きた産業革命の中でも最大の発明品だよ?石炭を燃やして蒸気を作って、これだけの列車を動かせられるようなすごい力を出すの。ゆうにぃ、社会苦手でも、このぐらいは覚えててね?」

 はい、ごめんなさい、覚えておきます。

 おのおのがいったん沈黙したあと、一人の少女が口を開いた。

 「じゃあ、この列車が蒸気機関車だとすると、なんであの人は嘘をついてまで私たちのケータイを壊したんだろうね・・・。見たところ、全くリニアモーターカーらしい要素がこの列車には見当たらないよ。」

 先ほど案内人にも口を出したメガネ少女だ。見た目によらず、発言力はあるらしい。きっと理科関連にはかなりの知識を持っているのだろう。

 「きっと俺たちがケータイを持っていたら何か都合の悪いことでもあるんじゃないかな、ただの勘だけど」

 俺が適当な事しか言えないのに対し、答えを出したのは意外な人物。そう、坊主男だった。

 「そんなもの、情報漏えいを防ぐために決まっているだろう。考えてみろよ、あまりにも部高専の宣伝はきれいすぎた。それを鵜呑みにした俺たちがバカだったってことさ。生徒に向かって銃を突きつけるなんて、普通の学校とは思えない。」

 たしかに、一理ある結論かもしれない。でも、俺たちはそんな学校に入学したつもりなんてない。だって、だって・・・。

 「そんなおかしい学校なはずないよ!みんなも見ただろ?ここの卒業生のインタビューを。『こんな素晴らしい学校に通えて幸せでした、これからはオリンピックで輝く選手になれるように更なる修練を重ねたい。』って言ってたじゃないか!きっとさっきの脅しで自分たちは三年間過ごす覚悟を試されていただけなんだよ。特待生だからって調子に乗るなって警告だったんだよ!」

 ある生徒が最後の希望をもって言葉を振り絞った。他の生徒にもその言葉を信じて自己暗示のごとくブツブツと唱え始めた。が、うっかりと誰かが言葉をもらしてしまった。

 「言わされていた・・・?」

 その発言で皆の最後の希望が打ち砕かれた。もう話す気にもならなかった。


 再びの沈黙。すると、列車後方側の扉が開き、あの案内人が姿を現した。全員の体がこわばった。

 案内人はにこやかな笑顔を浮かべながら坊主頭に近づき、パスワードを打ち込んで手錠を外した。

 「あのように強制的な処分をしてしまい、先ほどは申し訳ありませんでした。諸事情により、学校内の情報はできる限りもらさないように心掛けなければならないものでして。心配なさらなくても大丈夫ですよ、学校専用の通信機器が部高専では配備されます。皆さん、そんなに怖がる必要はないのですよ」

 まるで天使のような笑顔を浮かべて案内人は説明した。さっきの形相が嘘のようだ。少なくとも半分の生徒が先ほど失われた希望を取り戻した。坊主頭、メガネ少女などの一部の生徒を除いて。

 「あと少ししたら到着いたします。忘れ物がなさいませんよう、十分注意してくださいね」

 その言葉とともに案内人は姿を消した。もう何が本当で何が嘘なのか、俺達には判別が難しくなっていた。

 案内人の言った通り、それから10分もせずに列車は停車し、生徒をおろした。おそらく一時間もたっていないだろう。停まっている列車を見ると、そこには教科書で見たことのあるものがあった。すごい、蒸気機関車の実物を見たのは初めてだ。

来た道とまるで鏡写しのような通路を抜けると、やっと地上にでることができた。

 「この先の建物が、皆様の寮になります。特待証明書に書いてある建物で、今日はゆっくり休憩なさってください。昼食時、夕食時には弁当を部屋まで配布いたしますので、安心してください。預かった荷物は今日中に配達いたします。」

 相変わらずにこやかな笑顔で説明が終わった。俺は学校については半信半疑だったが、疲れたのでとりあえず寮で休むことにした。受付で何かわからないものをもらったが、今はそんなものを気にしている余裕がなかった。寮の案合図通りに進んでいくと、自分の部屋を見つけることができた。一人部屋だ。半開きのドアを開けて中に入ってみる。あれ、鍵がないけれども・・・まぁいいか、そういう部屋なのだろう。

氷紗と部屋はとなりのようだった。全く、鍵がついていないなんてなんてセキュリティに欠けた部屋なんだ。氷紗は女の子なんだから心配になるだろうが。とはいっても、俺が心配になるのはむやみに部屋に入ろうとする人の方なのだが。ああ見えて、氷紗は合気道の達人である。父親仕込みの合気道は本当に恐ろしい。実体験だ。

 とにかく部屋に入って荷物を置き、ベットの上に横になった。

 「大地と花撫は無事だろうか・・・。明日会えればいいけどな・・・」

 人間本当に大切なことは忘れないらしい。合格したかどうかはおいといて、あちらでも変なことが起きているかと思うと心配だ。

 もう考えることに疲れ切って昼食前に仮眠をとることにした俺は、ゆっくりと夢の世界に落ちていった。


更新が少々遅れました。申し訳ないです。

まだまだ物語は始まったばかりなので、頑張って執筆続けますよー!

急いで執筆したので、誤字脱字あるかもです。ご指摘お願いします。


あと、できれば評価をいただければなぁ・・・|д゜)チラッ

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