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第二話 移動は続く

目を覚ましたときにはバスに乗っていた者の半数がすでに下車していた。外を見ると、どでかい部高専の校舎だと思われるものがそびえたっていた。見たこともない大きさの建物に思わず身震いする。慌てて氷紗をおこし、速やかにバスをでた。

 どうやら俺たちは最後に降りてしまったようで、二人の下車を確認すると案内担当のサポーターであろう人が説明を始める。いやぁ、美人な案内人さんだ。しかしながらこれ以上鼻の下を伸ばすと氷紗にひっぱたかれそうなのでなんとかポーカーフェイスをつくる。

 「今出てきた人で全員ですかね。それでは、これからの日程を説明します。皆さんはすでに合格が確約されておりますので、今日の入学試験の間は学校内の寮に移動して過ごしていただきます。この説明の後にすぐ移動をしますが、少し長い移動になりますのでトイレは済ませておいてください。トイレは移動開始直前の場所にございますので、しばらくお待ちください。それから・・・」

 トイレに行く必要があるほど移動に時間がかかるのだろうか。予想以上に部高専は広いらしい。ここまで来るのにもそれなりに時間はかかったと思うのだが・・・。何かおかしい気がする。

 「ねぇ、ゆうにぃ、聞いてる?」

氷紗の声を聞いてはっとする。余計なことを考えてるうちに説明は終わってしまったようだ。

 「聞いてたよ、どうかした?」

 そういうと、すぐに氷紗の顔はふくれあがった。あ、まずい。

 「ゆうにぃ、嘘ついてるでしょ。氷紗に嘘は通用しないんだよ?」

 こういう時氷紗は鋭い。今まで嘘が通じたことは一度たりともないのだ。恐ろしい子。

 「すまん氷紗、最後のとこなんて言ってた?」

 「荷物は寮まで担当が運ぶから、証明書と貴重品だけ持って、って」

 部高専は生徒が必要とする生活必需品はほぼ全て用意してくれるので、荷物といってもそんなに大した量はない。俺は父親から預かった小包に携帯電話と証明書を、氷紗はお菓子袋を取り出した。

 「お菓子って必需品じゃないだろ」

 「だって、お腹すいちゃう」

 そう、意外と体型の割には氷紗はよく食べる。いったいどこに食べた栄養は消えて行ってしまうんだろう・・・。

 二人で一緒に荷物を係に預け、元の案内担当サポーターのところへ向かった。またビリっけつだった。野球部かなにかであろうか、がたいのいい坊主の男がこっちをみて、またこいつが最後か、みたいな目線をおくる。あぁ、もしかして早速目をつけられたってやつですかね?

 集合完了すると案内人は案内を始めた。少し歩くと、何やら下の階への階段が見えてきた。というか、地下への階段だろうか。周りからは見えないようにうまく隠されている。なぜか不気味である。

 いざ階段にさしかかると、それは思った以上に長かった。深さは地上から20~30メートルはあるだろうか。入学者も異変を感じ始めたようだった。お互いに顔を見合わせたり、コソコソ話したりしている。みんなの不安が高まってきたそのとき階段がおわり、その先にはなんと小さな地下空間に黒い列車がとまっていた。きちんとした電気はともっておらず、非常電灯のような明るさだった。心なしか、全体的に汚れているように思える。全員が驚きを隠せていない。なんといっても、学校の地下に専用の列車があるのである。驚いても無理はないだろう。

 「皆さんには今からこの列車に乗って移動していただきます。その前にトイレに行きたい方はあちらをご利用ください」

 サポーターが指をさした場所には公衆便所のようなものがあり、薄暗さの中に白いタイルが光を反射している。なんとも不気味だ。

 俺を含む数人がトイレに向かった。トイレ内部はとても暗く、便器も薄汚かった。もうしばらく掃除がされていないようだった。用を済ませ、帰る際に俺は不気味なものをみてしまった。先ほど降りてきた階段が多くの警備員によってふさがれているのだ。やっぱり、何かがおかしい。

 トイレ組が戻ると、案内人が最後の案内を始めた。

 「では、携帯電話や通信機器をお持ちの方は、すべてこちらにお預けください。この列車は磁気を利用することで高速移動が可能な超精密リニアモーターカーとなっています。事故の原因とならないためにも身に着けてる方はお外しください」

 なんと、見た目は完全に列車だというのにリニアモーターカーだという。あまりにも嘘っぽい。そもそも携帯電話ぐらいで事故の原因になりえるのか?

 「すみません、携帯電話くらいでは運転に支障はでないと思うのですが・・・」

 理系っぽいメガネ女子が案内人にもっともな事を言う。そうだ、もっと言ってやれ。

 すると、案内人の態度が一変した。

 「お 預 け く だ さ い」

 メガネ女子の体が震える。さっきより言葉の語尾が強まり、より冷酷な声になった。たった一言で場の雰囲気が変わった。

 反抗はできないと判断した者から順に携帯電話を預ける。さっきの野球部っぽい坊主も納得がいかないようだったが、全員が預けた。

 「ご協力、ありがとうございました。それでは、『処分』させていただきます」

 衝撃の一言を放つと、案内人は列車の横にあるプレス機のようなもので携帯電話を木っ端微塵にした。あたりには金属がひしゃげ、砕かれる音が響き渡った。

 「てめぇふざけるなぁ!」

 真っ先に坊主男が案内人に叫び、詰め寄った。襟元をつかみにかかったとき、その手は案内人の手によってつかまれ、背負い投げで坊主男は地面にたたきつけられた。

 「があっ・・・」

 坊主男が思わず声を出した。なんなんだこの人、只者ではない。見た目の美しさとのギャップがはなはだしい。

 すぐさま坊主男をアサルトライフルを持った警備員が取り囲む。坊主頭は両手を上げていた。恐怖がその場を支配する。

 「それでは、列車にお乗りください」

 もう誰も反抗する者はいない。なぜなら野球部であろう坊主男はそこらにいた入学者の中で最もがたいがよかったのだ。誰もこの人に勝てる人はこの入学者の中にはいないだろう。そもそもあの警備員はただの警備員ではないだろう。動きが軍人だ。

 もう全員が確信を持っていた。これから入学する部高専はただの学校ではないということを。おそらく全員が後悔していただろう。なぜこんなところに入学しようと思ったのだろうと。三年間無料で通えるなんてうまい話は世の中に存在しないのである。いったい何が代償となるのだろうか。

 そう思いながらも、俺たちはもう列車に乗るほかに道は残っていなかった。

いよいよ話が普通じゃなくなってきました。次回まで移動シーンが続きます。

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