表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ジーザス産後クライスト

作者: 羽生河四ノ

気が付けば十一月ももう10日も過ぎており、それに愕然として書きました。

 話を聞くと宮澤の彼氏は外国人らしい。

 「でねー、彼ったら超かっこいいんだけどさー」

 宮澤は自分の茶色いサイドヘアーを指でくるくるさせながら、そんな事を言っていた。

 「はあ・・・」

 で、私はなぜか、その宮澤に朝呼び出されていた。おしゃれタウンのおしゃれカフェに、しかもオシャンティなテラスにまで出されて、なぜか一席一席に付いているパラソールの下で、さらし者のように晒されて、彼女のお茶に付き合っていた。

 「・・・うう・・・」

 で、今、何茶かも分からない得たいの知れない液を飲んでいた。それは宮澤に勝手に頼まれたものだった。


 「・・・うーん・・・」

 「何時まで悩んでんのよ、これ、コイツにはこれを」

 「え?」


 そんな風に頼まれた既に名前も思い出せないものを私はその時、宮澤の向かいに座って飲んでいた。美味しくない。カタカナ語のお茶は美味しくなかった。なんか甘いし、変なにおいがする。

 私は番茶が飲みたかった。

 「でさー、やっぱりあっちの人はあれよねー、愛し方が情熱的よねー」

 宮澤は相変わらず髪をくるくるさせていた。

 「へえ」

 特に興味なかった。室内だったらもう少し聞けた。聞いたかもしれないけど。でも屋外だから・・・。そもそも屋外でお茶を飲みたいっていう欲求がまず無い。私には。ゼロだ。意味が分からない。

 「何も無くてもアイラビューって言ってくれるのよねえー」

 宮澤はなんか半眼で遠くの方を見ながらしゃべっていた。

 「・・・」

 私がこっそりとそちらを確認すると、そこは幹線道路で、排ガスを出した車がビュンビュンと走っていた。ガラ積んだトラックとかも走っていた。あと、その幹線道路の向こう側は工事の資材置き場みたいになっていた。

 「やっぱり女子ってー、そういうのを言ってもらいたいじゃないー」

 「ふーん」

 「愛し愛されて、綺麗になるものだからさー」

 「ふーん」

 「海外のああいう情熱的な愛され方を経験しちゃうとー、日本の男って静か過ぎてつまらないっていうかー」

 「・・・」


 何故この人は私の事を呼んだんだろう?


 私は手のホッカイロと化した名前も思い出せない液体の容器をつかみながら、その時そう思った。

 そもそも彼女、吉澤は今日いきなり私に電話してきた。そして、

 「ねえ、今日お茶に行きたいんだけど」

 と挨拶も何も無くそれだけを述べた。

 「・・・へえ、行ってらっしゃい」

 私は多少面食らったものの、でもそれだけを早口で返した。我ながらナイス返答だったと思った。ベストだ。それ以外他になんていえばいいのか?

 「だからさ・・・貴女付き合ってよ」

 「はあ?」

 何でだよ。なんで急に電話してきて、そんなわけのわからないことを言うんだ。

 「今日忙しいの?」

 「忙しい」

 本当に忙しい。私はこれからdTVで映画を観るのだ。あとそれが終わったら読書もしたいし、ゲームでレベル上げもしたいし、ネットのブックマークページを巡回しないといけないし、それが終わったら今度はひかりTVで内さまの新しいのを観ないといけないし・・・、

 忙しい。

 「どうせ、読書とかインドアなことでしょ?」

 「どうせ?」

 インドアを馬鹿にするのかきさん!

 「とにかく大宮駅西口まで来て、私そこに居るから」

 「・・・いや、ちょっと・・・」

 「来てね、二時間以内!」

 そこで電話は切れた。切られた。

 「・・・」

 それから何度私が電話しても、電源が入っていないというアナウンスが流れるだけで繋がらなかった。

 私は仕方なく、準備を始めた。



 宮澤は私の学生時代の友人だった。

 お互い学校を卒業してもう八年ほど経っていた。

 その間一度たりとも、彼女からの連絡なんて無かった。

 まあ学生時代もそこまでどっぷりと付き合っていた友人でもなかったし、

 それに、そもそも、

 私は一生彼女からの連絡なんて無いと思っていた。

 連絡先だって学生時代にたまたま、そのような機会があったから、交換したに過ぎない。それは向こうも同様だったはずだ。

 それなのに、

 どうして急に彼女は連絡をよこして来た?

 「・・・」

 なんだか少し嫌な予感がした。



 「それにあっちの人はレディーファーストも備えているしー、なんだかすごく特別扱いを受けているみたいでー」

 宮澤は相変わらずそのような事を話していた。

 「・・・」

 日が傾いてきていた。風も少し出てきていた。寒くなってきていた。私はその時もう一枚羽織って来たら良かったと思った。呼び出しがあまりに急だったせいだ。

 「それでねー」


 きっと宮澤は自身が現在幸福の只中にあるという事を他人に示したいのだ。


 私はそんな事を考えていた。

 だから私なんて、もう言ってみたらほぼ(・・)知らない人間にも電話をしてきたのだろう。と。

 私はそう思っていた。


 でも、


 どうしても違和感があった。


 おかしい。


 それにその違和感に宮澤本人も気がついているように思えた。



 「・・・ねえ、宮澤」

 私は意を決した。風が寒いし、飲み物も冷め切ってしまっているし、帰りたいし。

 「・・・ん?」

 宮澤は今、その瞬間目を覚ましたような顔をして、私を見た。あるいは彼女と目を合わせたのはそれが今日初めてかもしれなかった。

 「どうして私の事を呼んだの?」

 こんなオシャンティなカフェのテラス席に。

 「・・・」

 それまでずっとしゃべり続けていた宮澤はじっと黙ったまま、私の事をしばらく見ていた。

 「・・・」

 「ねえ?」

 その目はなんだかとろんとしていて、なんだか濁っていた。

 「・・・あのね、笑わないで聞いて欲しいの・・・」

 宮澤は言った。



 「何?」

 寒い。暖かいココアが飲みたい。

 「・・・その彼がね・・・」

 宮澤は下を向いていた。

 「優しくて情熱的で超かっこいい外国人の彼が?」

 だから私は慎重に言葉を選び、水を向けた。

 「うん・・・その彼がね、なんか変なのよ」

 宮澤は下を向いて紙ナプキンをいじりながら言った。声のトーンは先ほどまでとは比べ物にならないほど小さくなっていた。

 「変?」


 ドラッグとかやっているの?


 勿論、それは声には出さなかったが、私はそう思った。まあ文化が違えば、生活様式だって変わってくるでしょうしね?

 「・・・なんかね、いつも目を開けたまま寝ているの・・・」

 「え?」

 しかし宮澤の話したその彼の特徴は、私の想像とはまったく違うタイプのモノだった。

 「目を?」

 私は思わず聞き返していた。

 「そう、いつも」

 「いつも?」

 「しかも、全開で」

 「全開で?」

 「むしろ普段のほうが、閉まっているくらいなの」

 「逆に?」

 「瞬きもしないし・・・」

 「そんな・・・」

 乾くじゃないか。カラッカラになるじゃないか、そんなの。

 「それに・・・」

 「それに?」

 まだあるのか?その一個で私のインパクトはもう最大値だから、もしかしたらこれ以上は逆にインパクトが薄くなるかもしれないよ?

 「彼は外国の人だから、たまにね、本当になんか失敗とかした時に『ジーザスクライスト』って言うのね、あ、勿論私に直接言ったりとかはないの、やさしいから。でも、たまに言うの。それを・・・」

 宮澤は少しだけノロケを交えつつ、相変わらず俯きがちに言った。

 「えー!海外ドラマみたーい!」

 本当に言うんだ。すげー。私は思った。テンションが・・・ションテンが上がった。

 「ただね・・・」

 「うん」

 「多分なんだけど、ちゃんと言ってないのよ」

 「は?」

 どう言う事?

 「あのね、笑わないで聞いてよ」

 宮澤は言った。私は頷いた。その時私は寒さも忘れていた。

 「あのね、彼が『ジーザスクライスト』っていう時、毎回なんか違和感があったの。でね、私、それに気がついて彼が『ジーザスクライスト』言う時、毎回神経を集中させて聞いたの」

 「うん」

 「・・・それでね、気がついたの」

 「何に?」

 「・・・ジーザス、と、クライストの間に、何か聞こえるのよ」

 「え・・・」


 宮澤がそれを言った瞬間、私の記憶の中に眠っていたある情報にそれがヒットした。


 「彼・・・ジーザスとクライストの間に、なぜかね・・・産後・・・って言っているの・・・」

 「・・・産後・・・」

 「ねえ、貴女、昔から本とかをたくさん読んでいたでしょう?だから何かしらないの?ねえ?そう言う事ってあるの?そんな事ありえるの?」

 宮澤は言った。

 私は立ち上がり、

 「この近くの大宮ラクーンの中にブックオフがあるから、そこに行って魔方陣グルグルを読んだらいいよ」

 そう伝えた。

 「え?何?どうして?」

 宮澤は意味が分からないという風だったが、私は、

 「もちろんそれは私の想像だから。その外国人の彼氏さんは大丈夫だと思うよ。うん。そんなわけは無い。宮澤は大丈夫だよ」

 そうとだけ告げた。

 「ちょっと、何か知っていることがあるなら、直接教えて」

 宮澤は座ったまま、私を見てそう叫んだ。

 でも、

 「久々に会えて嬉しかった。ありがとう、帰るね」

 私はそのまま家に帰るため駅に向かった。

 「ねえ!何かあるの!ねえ!」

 宮澤は私が角を曲がるまでずっとそこに座っていた。




 帰りの電車の中で私は考え事をしていた。

 「・・・」

 私がさっきしたあの想像は勿論、間違いだろうと思う。

 そんな事この現実世界にはないだろうから。

 でも、私はそれを想像してしまったのだ。

 だから仕方がない。

 想像するのをとめる事はできないのだから。



 その漫画のある巻に出てくる大臣は、実は魔物だった。

 未読の方も知らない方もおられるだろうし、これ以上書くと二次創作に引っかかる可能性もあるだろうから、やめますけど、その大臣は目を開けたまま眠り、くしゃみをした後、ある単語を口走る癖があった。



 無論、それだけの話だ。


 宮澤の彼氏とは何の関係も無い事だろう。


 私は車窓から風景を眺めながらそう思って目を閉じた。




 しかしそれから、数日の間何度も宮澤から私の携帯に連絡があった。

 留守電にはその度に、メッセージが残っていた。

 「ねえ、あなたに言われた漫画読んだわよ。あれはどう言う事?」

 「私の彼が、魔物だって言いたいの?」

 「ねえ、お願い、電話に出て」

 「ねえお願い」

 「ねえ」

 「私、お腹の中に彼の子供がいるの」

 でも私はもう宮澤からの連絡には答えなかった。



 ショップに行って電話番号も変えた。


 それからは静かになったので、私の生活も元通りになった。




 更に半年位して、ヤフーニュースの『地域』の欄にあるニュースが出たのを私は発見した。


 『未知の生物出現!?警察が現場で射殺』

 というニュースだった。



 勿論、これだけの情報では宮澤が関係しているのかどうかも分からない。


 でも私は、宮澤が魔物の苗床にされているのを想像した。




苗床って書いただけなんだから大丈夫ですよね?ピクシブだとアウトかもしれませんけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] シーザス産後クライスト・・・初めて聞いた言葉だけど、なんかこの手の作品は深い意味がありそうでじわ~っと効いてきます。ミステリー+ホラー風味を感じました。 宮澤とカフェでふたりっきり。謎…
2019/11/14 21:31 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ