西の面々
軍事国家西日本。
その国の歴史は二十一世紀に突如、世界の大国に上り詰めた隣国に脅えた国であった。いつか侵略されるかもしれない恐怖の前に、西日本は軍事研究所を開設し、軍事研究を重ねた結果、一筋の希望が出てきた。
それが、大阪遺伝子研究所の所長、草薙博士の零遺伝子であった。
結果、日本に侵略を仕掛けてきた国は、零遺伝子を投与された兵士により、勝利を納めた。
しかし、勝利したとしても、防衛に成功しただけであり、勝利とは呼べるものではなかった。いつかまた攻め込まれてくるかもしれない疑心暗鬼に駆られた西日本は、軍事面において、世界最強に躍り出た。
そして今日、大量の零式投与者を輩出し、西日本の各府県は養成機関を作り出し、最強の兵士を育成していた。
東日本軍事学校の5キロばかりの距離に、それと同じ形状の建物があった。
月は空の雲で覆われ、明かりを失い、暗黒の世界が広がる。
辺りは森林が外界を遮り、一つの空間が出来上がっていた。
風は吹く。
木々の葉がざわめきあう。
地面は濡れる。
大量の鮮血が土を濡らし、数多の少年、少女が横たわり、土を隠していた。
東日本軍事学校の近くの場所に一人の少年が立ち尽くしていた。
白い陣羽織は返り血により、朱色に染まる。
この少年、将平はため息交じりに顔はつまらなそうな顔になっていた。
「兄貴、こっちは終わったぞ」
「案外、手を焼いたわね」
将平よりも頭一つ抜き出た長身の男、将大が将平に近寄る。
その横には首に巻いているマフラーで顔を隠した少女、将子もそこにいた。
この三人は三兄妹であり、日本最大の軍事を誇る大阪の代表に選出されていた。
武の末弟、将大、技の長女、将子、そして長兄にして、異能の将平。
この三兄妹、西日本の選抜の中でも群を抜く強さを誇っていた。
「てめえら、ぶっ殺してやる」
その時、横たわる人の群れから声が聞こえてきた。
一人の少年が最後の力を振り絞り、立ち上がっていた。
「まだ、余力があるみたいだな。兄貴、手加減し過ぎだぞ」
「まだ、腕章もついているみたいだしね」
二人の問いに将平はやれやれとため息を一つ。
「手加減も楽じゃないな」
そう呟きながら、立ち上がった少年の方へと近寄る。
そして、将平は右腕を顔の方まで向ける。
「選ばせてやる。お前は刀で斬られたいか、紐で首を絞められたいか、はたまた鈍器で腹をえぐられたいか?何でもいいぞ選ばせてやる」
その言葉に少年は、脅えた表情になる。
先刻も似たような言葉を言われた後、将平が指をパチンと鳴らした後、体から激痛が走っていた。
それこそが将平の能力だった。
それを防ぐことが分からないでいた。
「もう一度、斬撃を喰らっとくか?」
その言葉に、先の痛みを思い出すと、恐ろしくなってきていた。
「う、うおおおおおお!」
突如、少年は雄たけびをあげながら将平に特攻を仕掛ける。
将平はふっと微笑をすると、右腕を少年の方へと向け、指を鳴らす。
『パチン!』
刹那、少年は糸が切れた人形の如く倒れだす。白い陣羽織は生地が破れていないが、刃物で斬られたような血が浮き出ていく。
将平は倒れた少年に近づき、腕章を引き千切る。
「悪いな、俺達は勝たなくてはならないんだ」
西日本は強き者が上に立つ、下剋上の国になっていた。
その中でもこの将平達が在籍する大阪府は下剋上などありえない一族が常にトップを張っていた。
日本最大の武闘派一族の当主、将平たちの父、遠山 忠信であった。