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零式  作者: HAL
プロローグ
4/11

鬼頭家の少女

 鬼頭 美姫は皆が集まる場所に歩いてきた。先程、片桐に怒られたとは思えない感じで、温和な顔をしている。そして、人だかりができた場所に着いたやいなや、一人一人律儀に挨拶回りを始めだした。

 鬼頭 美姫が挨拶を交わす者は、最初の内は笑顔で挨拶を返していた。恐らく、全国でも名を馳せている鬼頭家の次期当主にいい印象を与える為であろう。

 しかし、何故か挨拶を終えた後、全員怪訝そうな顔になっていた。

 

 「次は俺たちの番みたいやな」

 

 そう葛西が言ったとおりに鬼頭 美姫が俺たちの方に近づいてきた。

 鬼頭 美姫が何を言い出すのか、俺は興味を持っていた。


 「初めまして。私、鬼頭 美姫と申します。これから一年間よろしくお願いします」


 鬼頭 美姫はそう言いながら、長い髪が地面にくっつくくらいに深々とお辞儀をしてきた。


 「俺、葛西 宗明いうねん。よろしゅう、美姫ちゃん。」

 「はい、よろしゅうです!」

 

 馴れ馴れしい葛西の挨拶に、鬼頭 美姫は笑顔で返していた。


 「貴様はいつも女にはそうなのか?ウザいぞ」


 また、葛西に輝は怒りを露わにしている。よっぽど相性が悪いのか?


 「別にええやんけ。なあ、美姫ちゃん」

 「はい、私のお名前はお好きにお呼びください。私も葛西さんとお呼びします。えっと、お二人のお名前をお教え下さってもよろしいですか?」

 

鬼頭 美姫は俺たちに笑顔をふりまく。

 

 「斎藤 輝だ・・・」


輝はまだ不機嫌な態度をとっている。


 「はい、じゃあ輝ちゃんってお呼びしますね」

 「・・・なっ?!」


 そんな輝の態度にまさかの爆弾発言。輝は硬直し、その光景に葛西は笑い転げていた。


 「あはっははははは、輝ちゃんやて!どう考えてもちゃんづけの性格ではないやろ」


 「う、うるさい!鬼頭、貴様も訂正しろ!」


 輝は顔を真っ赤にしながら怒り出す。


 「別にいいじゃないですか?輝ちゃんってなんだか可愛いですね」


 鬼頭は輝の怒りなど関係なしと言わんばかりに笑顔で返す。


 「まあまあ、いいじゃないですか、名前なんてどうでも。」

 「・・・じゃあ、お前も様をつけず、輝と呼び捨てにしろ」

 「えっ?!」

  

 鬼頭に助け舟を出したつもりが、まさか俺に矛先を向けてくるとは思わなかった。

 

 「鬼頭が私の事を輝ちゃんと呼ぶ代わりに、勇は私の事を呼ぶ時は輝といえ。これは命令だ」


 チラッと鬼頭を見ると笑顔のままだった。

 何となくだが、鬼頭の笑顔が消えるのが嫌な気分になったので、承諾するとしよう。

 

 「はいはい、分かりましたよ」

 「敬語も禁止」

 「分かったよ」

 「よし!じゃあ鬼頭、ちゃんづけを許可しよう」

 「分かりました、輝ちゃん」


 鬼頭が笑顔のままだったのはよかったことだが、何故か輝も笑顔になったのはよくわからなかった。


 「鈍感・・・」


 そう、どこかで声が聞こえたような気がした。


 「最後で申し訳ありませんが、あなたのお名前を教えていただけませんか?」


遂に俺の出番になった。


 「俺の名前は稲葉 勇って言うんだ。よろしくな鬼頭」

 「はい、よろしくお願いしますね。稲葉さん」

 

 その直後、鬼頭が俺の顔を見ると驚いた様に見つめてきた。


 「・・・どうかしたか?」

 「いえ、何でもありません。すみません・・・」

 

 少し、鬼頭は考えていたが、直ぐに笑顔に戻っていた。 

 いったい何だったというのだろうか?


 「皆さん、これから一年間よろしくお願いします。今年こそは頑張って西日本に勝ちましょう」

 「おう、がんばろうぜ」

 「無論だ」

 

 俺と輝がそう言った直後、葛西は不思議そうな顔になる。

 

 「俺たちは頑張るとして、何で美姫ちゃんは勝ちたいんや?」

  

 確かにそうだった。俺たちのように県の為でも、葛西の様に一旗揚げようとは関係ない。鬼頭は日本経済界の頂点に立っている鬼頭家の者だ。地位も名声も既に持っている人間なのだから頑張る必要がなかった。


 「私が勝ちたい理由は、ある人の為です」

 「ある人って恋人か?」

 「違います。私に恋人なんておりません」

  

 そう言いながら、首を左右に何度も振っていた。


 「ある人っていうのは尊敬している人の事です。その人は、日本の未来のために命を賭して闘った人でした。もしも東日本が勝ったなら、毎年勝っている西日本は頼りにしている報奨金が得られなくなります。そうしたら西日本は疲弊して、東日本と合併してくれるんじゃないかとそう思った次第です。」

 「そう、うまくはいかんと思うぞ」


 はっきりいって子供の考えだと思った。実際、西日本は独裁政権みたいなものだ。いざとなれば市民を見殺しをしても生き残ろうとするに違いない。


 「でも、何かしないといけないと思うんです。毎年、西日本は罪もない市民が餓死などにより死んでいると聞いています。そんな事、東日本では考えられない事です。私はこんな非道は辞めさせたいのです」

 「美姫ちゃんの尊敬している奴って、まさか・・・」

 「はい、私の尊敬している人は真田 新造です」


 その名前を忘れる日などなかった。

 だから、鬼頭が他の奴に挨拶した後に怪訝した理由が分かった。


 「鬼頭、その事は二度と口にしない方がいい」


 輝が珍しく他人を心配そうになる。

 

 「何故です?」

 「確かに彼は西日本を救おうとした英雄かもしれない。だがな、彼は戦いに敗れて処刑された。それがどういう意味かわかるか?戦に破れた時点で彼はテロリストになったんだ。日本有数の家柄の娘がテロリストの事を尊敬しているというのが問題なんだ」

 「何で問題なんですか?私はこいつは悪だからと言って、評価を下げるなんて間違っている。私は自分の心で自分の考えを導き出す」

 

 輝の正論に動じる事無く、鬼頭は今までの笑顔は消え、毅然とした態度を見せる。

 その態度に俺は、鬼頭は自分の意志を持った強い女だと思った。


 「まあまあ、ええやんか。美姫ちゃんが誰を尊敬しても迷惑はかけてないから問題ないやろ?変なことで険悪なムードになるのはやめにせーへんか?」

 「・・・そうですね。申し訳ありませんでした」

 「・・・・・・」

 

 葛西の言葉に二人とも沈黙し、話しは終わった。しかし、そんな葛西の言葉は虚しく、険悪な空気になっていた。

 嫌な空気になっている時、伊達と片桐が集まっている人だかりの前に姿を現した。


 「お前ら静かにしろ!いいか、これから軍事学校の説明を行う」


 今まで様々な所でざわついていたが、その言葉で皆、静かになっていった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 


 

 


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