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零式  作者: HAL
プロローグ
3/11

東日本零式軍事学校

 零式軍事学校。

 毎年、場所は変更され、外部からの干渉を防ぎ、各都道府県から選りすぐれた子供達の力だけでこの場所を一年間過ごさなければならない。

 そして今回、とある日本の離島を貸し切り、一年間の為だけに島の中央に養成施設を重点に、学生をこの島を飽きさせなくする為に、娯楽施設やショッピングモールなどを建てられ、一つの都市化していた。


 「速くついて来い、勇」

 「ちょっ、待ってくださいよ」


 事前に手渡された東日本側と言う証である黒い陣羽織が風になびかせて、斎藤 輝が、俺の先を歩いていた。

 今年、何の因果か、輝と一緒にこの場所にいくことになった。先の入学試験では早々に輝との闘いを止めたのだから、選ばれるはずはないと思っていたのだが、まさか選ばれるとは思いもしなかった。

 あまり目立ちたくはないのだが・・・。


 「まだか、勇!」


 そんな事を考えていたら、また遅くなった足取りを感づいたのか、輝がまた急かしてきた。


 「そんな事を言っても、荷物が重くてしんどいんですよ」


 初春の季節の暖かな気候と、両肩からは大きな旅行鞄が三つ肩掛けられ、歩くたびに両肩から足にだるさが込み上げてくる。

 

 「くそっ、何で俺がこんな物を持たなくちゃならないんだよ。お前が持てよ」


 そんな愚痴を呟く。


 「それは、私に言っているのか?」


 俺の前を歩いていた輝が突如止まり、俺に睨みを聞かせてきた。


 「ま、まさか、輝様に向かってそんな事思いも致しませんよ」


 「そうか、ならいい。あと少しだ。急げ」


 輝の不愛想な態度は、今に始まった事ではなかった。始めて出会った頃は、よく俺の後ろをくっついてきたのだが、いつの間にかこんな関係になってしまっていた。

 この場所に来てからもこんな雰囲気は変わらず、来るまでの道中は無言が続いて、やっと言葉を発したのが今のやり取りだ。これからの一年間、不安でいっぱいになる。

 また無言の沈黙が続きながら三十分、ようやく島の中心である零式軍事学校が見えてきた。

 その建物を視界に入った時、度肝を抜かれた。


 「・・・これ、廃墟ですかね?ていうか、本当に政府が建てた学校かよ」


自分と同じくらいの背の長さのコンクリートの門があり、中にはグラウンドが広がり、その奥には木造の平屋の校舎が一つポツンとあった。門には木の立て看板に『東日本軍事基地』と書かれてあった。


 「行くぞ、勇」


 その門をくぐると、グラウンドの中央で白の陣羽織を羽織った同年代位の人だかりができていた。


 「貴様達、速くこっちにこい」


怒鳴り声が聞こえてきた場所を見ると、簡易テントを張られた場所の前に眼鏡を掛けた知的そうな女性が一人、椅子に座っていた。


 「入学推薦書を見せろ」


 そう言われたので、俺は自分の鞄から岐阜県からの推薦書を手渡した。


 「この推薦書、おかしくないか?」


 女性は推薦書を見た後、こちらに尋ねてきた。


 「いえ、間違ってはおりませんが?」


 「貴様、バカにしているのか!」


 男はまた、怒鳴り声を出してきた。


 「片桐、何を騒いでいる?」


 声を聴こえた方を見ると黒の陣羽織を羽織った男が立っていた。陣羽織の背には『雷』の一文字が、目立っていた。


 「これは、伊達様」


 雷と伊達の名で聞き覚えがあった。

 伊達 道雪。この東日本、いや日本の中でも五指に入る強さを誇る東日本の軍人である。東日本の者は新崎を神格化する者もいる天皇直属の馬廻り集であった。


 「それを見せてみろ。ふむ・・・。くくっ、わっははははははは!」

 「伊達様?」


 そう言って、片桐と呼ばれた女性は伊達に推薦書を手渡し、内容を確認する。そして確認を終えた伊達は、俺達を見つめると、急に大笑いをしだした。


 「片桐よ、この推薦書に嘘偽りはないぞ。お前達、速やかに皆が集まっている所定の場所に行け」

 「伊達様、よろしいのですか?!この推薦書はどう考えても間違っております!ここにはどう考えても・・・!」

 「片桐よ、俺の副官である俺の『能力』を信用できんのか?」


 片桐が言おうと思っていたであろう言葉に、伊達の言葉を止められてしまう。それだけ、この伊達の力に絶対な忠誠心が感じられた。


 「・・・分かりました。おい、さっさと行け」

 

俺達は二人に一礼をし、言われた場所に向かう。


 「伊達と言う男、分かっているみたいだな」

 「そうですね、しかし黙認して頂いていると思って大丈夫ではないですか?私達は岐阜県の為に勝たなくてはなりませんから、あまり最後まで目立たないようにしたいものですな」

 

 そんな話しをしながら同じ黒い陣羽織を身に着けた人だかりの中に腰掛ける。腰掛けた時、ふと輝の右肩に付けられている腕章の下に『異』の文字が入ったマークが目に入った。俺の陣羽織には、腕章はあるが、そのような物は付けられていなかった。というか、周りを見渡してもそんな物をつけている奴はいなかった。


 「そのマークって何か分かります?」


 俺は、輝に右肩のマークを指さし尋ねると、輝も自分でも気づかなかったらしく、右肩の襟を引っ張るとマークを見つめる。


 「さあ、何だろう?」


 「それは、『超異常能力者』の証であるマークや」


 突如、後ろで俺たちの話しを聞いていたらしく、同じく黒い陣羽織の関西弁の男がニヤニヤしながら俺たちの話しを割ってきた。

 超異常能力とは、輝の様な空気圧を人的に出すことのできない、いわば人間では考えられない能力を備わった能力者の事を指していた。


 「横ええか?俺、なんか関西弁やからみんなから敬遠されてめっちゃ寂しいねん。あ、おれ、葛西 宗明っていうねん。よろしゅう」

 「あ、おい!」


 俺たちの言葉を聞かず、葛西という男は、俺と輝の間に入り座り込む。


 「葛西だっけ?ここは東日本側だぞ。何で関西弁使っているんだ?」


 「俺、元は大阪出身やねん。でもな、西日本は貴族階級が強い国やから、どんなに強くても身分の低い奴は選ばれへんねん。だから福島県にある葛西ちゅう所で養子になって、人肌上げようかと思って、今回参加することになったっちゅう話や」


 葛西が軽快に饒舌を放っている時、殺意の視線を出している気配がした。

 

 「おい大阪人、誰が私と輝の間に入っていいと言った。殺すぞ」


 輝は既に臨戦態勢に入っているのか、刀に手をかけている。


 「別にいいやんか、そんなんで怒んなや。お前、生理か?トイレの場所、あそこの姉ちゃんに聞いたろか?」

 「・・・コロス!」

 「ちょ、ちょっと待った!輝、やめろ!葛西、お前も挑発じみた事言うな。俺の横に来い」


 輝が刀を引き抜くよりも早く俺が止める。


 「う、うん。分かった」

 「別に挑発しよう思った訳やないで。そう思ったんなら謝るわ」


 珍しく輝は俺の言葉を聞き、葛西は俺の横に座る。


 「まあ、稲葉が止めていなければ、同じ東日本の中でも能力者の闘いが始まってるところやったな」

 「あれ、俺、お前に名前名乗ったか?」

 「だから言うたやろ、これに人生賭けとるって。いろんな情報知っとるで。例えば東日本の能力者の事とか。のう斎藤 輝とかな」

 「気安く名前を呼ぶな」

 「まあまあ、輝様」


 「ふん」とぷいと期限を悪くなる。


 「まっ、俺も一応能力者やで」


 そう言うと、葛西は右肩の裾を俺たちに見せる。その右肩には輝と同じ『異』のマークが付けられていた。


 「へえ、お前もだったのか」

 「そや、すごいやろ!」


 葛西は胸を張ってきた。

 この葛西、イライラさせられるが、悪い奴じゃなさそうだな。


 「他に能力者はいないのか?」

 「他か?あと一人おるが、まだ来ていないみたいやな」

 

 葛西は辺りを見渡している。


 「みなさーん。この不肖、鬼頭 美姫、これより参戦致します。これから宜しくお願い致します~!」


 門の方からやけに元気いっぱいのばかでかい声が聞こえてきた。

 そしてその方を見ると、黒い長髪、そして、左目には顔を半分くらいに隠す大きな眼帯をつけた少女が悠然と立っていた。


 「おっ、あいつや、あいつがこの東日本最後の能力者、通称、『鬼姫』の異名を持つ鬼頭 美姫や」

 「お前で最後だ。速く、こっちに来い!」

 受付をしている片桐の怒声に、鬼頭美姫はビシッと背筋を伸ばし、直立不動になるや、

 「は、はい~済みませんでした!」と、大声を上げながら、鬼頭 美姫は猛ダッシュでそっちに向かって行った。


 「あれが、東日本を牛耳る鬼頭家の第一子とは世も末だな」

 

 輝は呆れた顔になる。俺は先程葛西が言った言葉がどうしても気になった。


 「なあ葛西、あいつのどこが『鬼姫』なんだ?」


 鬼頭 美姫だから『鬼姫』と呼ばれるのならわかるが、どう考えても、どこにでもいる明るい女の子のようだった。

 とてもじゃないが、そんな『鬼姫』と言う強そうなイメージにはとても見えなかった。


 「あいつの左目、眼帯で覆われていただろう?あれが、鬼頭家で伝承されている『鬼の目』って言われている。」

 「鬼の目?」

 「そうや。零式を投与された先々代の能力が何かを透視できる能力者だったんや。それがあまりにも凄まじく、当時日本最強にまで上り詰め、遂には東日本最大の名家にまで成長していった。そしてあの先々代の目をあの鬼姫に移植したっちゅう都市伝説や」

 

 へらへらしているが、葛西の声色で嘘をついているようには見えなかった。


 「では、あいつの左目も・・・?」


 「ああ、先々代の能力を引き継いでるっちゅう噂や」


 その言葉でようやく理解できた。

 有能な西日本の子供を東日本の養子にし、そして、最強の能力を持つ鬼頭 美姫、更には、岐阜県を東日本に味方に引き入れたのをするあたり、本気で勝ちに行くことが分かった。

 しかし、そんなことが分かったのを尻目に、


 「すいませ~ん」と、片桐に怒られている鬼頭 美姫の声が聞こえていた。

 


 

 





 

 

 

 

 

 


 


 

 

 

 

  

  

 

 

  

 

 


 

 

 


  

 


 

 



 

 


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