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零式  作者: HAL
プロローグ
2/11

岐阜県入学選抜仕合い

 真田 新造の反乱が起きたことによって、日本は二度とこのような事を怒らない様にする為、軍事力を高めていった。

 そして、日本には零式を投与された、十五才以上を対象に入ることが許された機関が建設されていた。

 それが零式軍事学校であった。

 

 岐阜県有数の名家である斎藤家の道場で、大事な手合わせが行なわれていた。

 この斎藤家、零式が開発されて四十年、斎藤家に連なる家族、親戚の子供に投与し、優秀な一族となり、莫大なる繁栄を築いていた。 

 そして、手合わせをするこの少女、斎藤 輝も今年十五才になり、零式軍事学校を入学することになっていた。


 「これで十三人切りですか。いやはや流石は斎藤家、この岐阜では敵はおりませんな」

 「全く同感ですな。あと一人で終わりですか」


 この輝と言う少女、斎藤家の正統なる後継者であり、全国に名を馳せる斎藤新陰流を弱冠十の齢ながら、免許皆伝の腕前を持つ歴代斎藤家最強の呼び声高かった。

 この立ち合いも岐阜県の代表として、輝と共に軍事学校に入学させる者を選抜する為に開かれたものであった。

 日本でも五指に入る斎藤家と共に、軍事学校に入学させるのであって、惨めな者を入学さしては世間の笑いものになってしまう。その為にこうした立ち合いを行ない、張本人である輝に闘わせ、本人に決めてもらう事になっていた。


 「稲葉 ゆう殿、前へ」


 五人の立ち合い人の一人が、そう声を出すと、「はい」と言う返事と共に、一人の少年が立ち上がり、猫背のまま、戸塚 輝の前へと向かう。


 「どうも、御願い致します。輝様」

 「・・・・・・」


 稲葉 勇は、斎藤 輝に向かい、腰の低い体に何度もぺこぺこと頭を下げながら言っているが、それをやられている輝は、勇を睨みつけている。


 「そんな睨まないでくださいよ、輝様」


 そんな言葉に、無言を貫いていた輝の体が震えだすと、声を荒げる。


 「貴様、それでも武士か!武士たる者、今から闘う者に礼節をわきまえるのはいいが、貴様の場合、ぺこぺこと頭を下げ過ぎだ。恥を知れ!」

 「はあ・・・。申し訳ありません」

 

 そう言いながら、勇は手を頭に当てながらぺこぺこしだすと、輝は余計に不機嫌になる。


 「審判、早く始めてください!」

 輝はイライラが収まらない様子で審判に怒鳴ってしまう。

 「そ、それでは、これより斎藤 輝と、稲葉 勇の仕合いを始めさせていただきます。各々方、ご準備は宜しいですね?」


 審判の言葉と共に、輝は木刀を握りしめ、天高く上げた木刀を半月に振り下ろし、斎藤家直伝の下段の型を構える。

 一方、勇は、左手に木刀を持ち、鞘の部分に右手近くに置き、いつでも振り抜けるように構える。この構えは、稲葉流における居合剣の構えだった。

 二人の行動を見て取った審判は、右手を上げる。


 「では、始めさせていただきます」


 右手を振り下ろすと同時に、「始め!」と審判の掛け声一喝。

 その突如、輝が攻撃に転じる。


 「死ね、勇!」

 「ちょ、ちょっと死ねって・・・」


 下段に構えた木刀が前方に突きを入れると、迅速の衝撃波が勇の左肩付近に襲い掛かった。この衝撃波こそが斎藤 輝の零式からなる『特殊能力』であった。

 重い痛みが左肩を今に覆われようとした直後、勇は体を左に回転し、衝撃波をいなした。

 衝撃波は勇の体を離れ、後方の道場の壁に破裂し、爆音が鳴り響くと、三十メートル台の穴が出来上がった。


 「いや、やりすぎだろ・・・」


 その穴の様子を見ると、勇の顔から血の気が引いていった。


 「どこをよそ見している、勇!」


 その声と共に、輝は勇の首辺りに向かって突きを繰り出そうとしていた。

 刹那、勇の手から木刀が離れていき、「参った!」と叫び、勇は座する。


 「参ったとはふざけているのか!まだ貴様は攻撃を仕掛けてきていないではないか!」

 「そ、そんな事を言われましても・・・。あんな穴が、出来る位の衝撃波を出されたら戦意消失するに決まっているでは御座いませんか・・・。審判さんも分かってくれますよね?」

 「えっ、いや・・・」


 審判は稲葉 勇が負けるとはわかってはいたが、まさかこのような決着がつくとは想像していなかった。

 流石にどうすればいいのかわからず、この仕合いを見守る五人の立会人の顔を窺った。

 すると、五人の立会人の中で最大の発言力を持つ、輝の父、斎藤 恵三が口を開く。


 「稲葉家の御子息が降参をしているのだ。致し方なかろう」

 「はっ、ではこの仕合いは斎藤 輝の勝ちとする」


 その言葉に輝はまだ不機嫌になっていた。


 「貴様はこの仕合いの意味が分かっているのか?」

 「わかっております。零式軍事学校に入学を決める大事な仕合いだと」

 「ならば、何故、必死になって闘わない?軍事学校に入れば、将来的には政府の重要な地位が得られるかもしれないのだぞ」


 零式軍事学校が出来て現在、卒業生の多くが政府の高官や、大企業の社会的地位を確立していた。

 この軍事学校は成功者になる為に必要な登竜門となっていた。


 「ですが、あなたと闘い続けて、もしかしたら死ぬかもしれないのですよ。命あっての物種と言うではありませんか」

 「貴様はまたくだらないことを・・・!」


 「もうよい!」


その言葉を発したのは、恵三であった。


 「輝、岐阜県の有力な方々が来られている時に、自分のくだらない主張をするは武士の恥と心得よ」

 「・・・申し訳ございません。父様とおさま

 

 戸塚家当主の言葉は絶対と教えられてきた輝は、恵三の言葉に思わず口を閉ざした。


 「では、これにて仕合いは終了とさせて頂きます。仕合いを行った方々から、この不出来な娘、輝と共に軍事学校に入学する者を後日改めて返答させて頂きます。今日は、これにてお開きとさせていただきます」

 

この一言により、零式軍事学校入学選抜仕合いは終わった。



 皆が帰った斎藤家の道場では、斎藤家当主、恵三とその娘、輝が仕合いの話しをしていた。


 「お前の能力見させてもらった。この木刀のような形状の刀を発注させてある。軍事学校入学までには間に合うようにしておこう」

 「有り難うございます、父様」


 輝が使用していた木刀は特殊な細工を施していた。

 まず、輝の特殊能力は、手の平に空気を集め圧縮し、それを打ち出すと、空気の塊が前方の何かにぶつかれば衝撃波が起こると言った能力であった。しかし、手の平から放てば、輝から扇状に空気圧が飛んでいき、攻撃が半減していた。その半減を無くすように改良をし、生まれたのがこの木刀であった。

 輝が使った木刀は、中が空洞になっており、筒状の形になっていた。そして、鞘の先端と刃の先端に穴を開けていた。

 その為、輝が手の平で作った空気圧を、木刀の鞘に空気圧を勢いよく入れれば、木刀の中は筒状の形になっているため、木刀の先端から空気圧が勢いよく放つ仕組みになっていた。

 いわば、空気の大砲みたいな構造だ。

 そして今回、試しに勇との仕合いの最中、抜群の威力を発揮した。


 「これで、お前は名実共に、岐阜県の代表として軍事学校に入学させられる。さて、残る枠なのだが、お前は誰がよいと思う?わしの見立てでは、岐阜三人衆の者から選ぼうと思うが・・・」


 この岐阜には、斎藤という最大の権力者の他に、安藤家、稲葉家、氏家うじいえ家から連なる、岐阜三人衆と言われている権力を持つ家が存在していた。

 先刻に行われた仕合いにもこの三家は参加していた。


 「氏家、安藤の者は中々の手練れでは御座いましたが、稲葉の者は外した方がよろしいかと・・・」


 そんな言葉に恵三は不躾な顔になる。


 「何故、稲葉家の息子は駄目なのだ?」 

 「真面目に闘っておりませんでした。あのような腑抜けが岐阜県代表として入学させては恥となりましょう」


 輝は勇との闘いを思い出すと、怒りが込み上げてきた。


 「しかし、お前は他の者には本気で闘わなかったが、稲葉家の御子息にだけは能力を発動した。しかも彼の者はそれを受け流すだけの実力者ではあるだけでも選抜させる理由があるというものだ。輝よ、この軍事学校の入学には、岐阜県の未来がかかっているのだとまだわからぬのか?」


 軍事学校は一年間という短い期間の入学で類い稀なる好成績を収めた者は様々な機関からスカウトが来る仕組みになっている。

 しかし、入学者は西日本と東日本の生徒に分かれ、いくさが行なわれる。その戦に勝利した側には多大な報奨金が各都道府県に国から支払われていた。

 いわば、この戦に勝利した側には更に地位と名声が上がる事になるので、各都道府県は、この軍事学校にはこの年最強の子供を選抜させていた。


 「お言葉ですが、父様。何もあんな奴に選ばなくてもよろしいのでは?毎年、西日本が圧倒的に優勢を極めているではありませんか」


 都道府県は四十七。岐阜県より東側は東日本に、西側は西日本に分かれ、千六百年に争った関ケ原の地がある岐阜県は、その年によって違う場所に着くことを許されていた。

 東日本は、経済力と軍事力を上手く折半しながら、金を回しているのに対し、西日本は軍事力に重きを置き、圧倒的な軍事力を携わっていた。

 そのせいもあってか、軍事学校が開設されてから常に、西日本側が勝っていた。

 そして、今回も、輝は西日本に着くと思っていた。

 しかし、斎藤 恵三の心は違っていた。

 

 「我ら岐阜県は、今回は東側に着く」

 「な、何故ですか?!」


 あえて弱い方に着くとはどういうことだ。輝はその言葉に耳を疑った。


 「東京の鬼頭家は知っているか?」

 「もちろん知っております。東日本有数の軍事会社を持つあの鬼頭鉄工の家柄と存じますが」

 「その鬼頭家から今年、娘が軍事学校に入学が決まっていてな。その娘が入学するに辺り、どうも今年は東日本が本気で勝ちに行こうとしておる」

 「その鬼頭家から東について欲しいと斡旋があったのですか?」

 

 恵三はコクりと頷く。


 「それは毎年来ているでは?」

 「参戦してくれた折は、いつも一億円という少ない額だったが、今年は百億円出すと言っておる。しかも、入学をれた西日本の子供達を東日本の都道府県に養子として向かい入れ、入学させるように工作させているという話しだ」


 過去において西日本がこのような工作をしていたが、東日本がそんな事をした事例は今まで聞いたことがなかった。それだけ鬼頭家は本気で勝ちに来ているという事だった。


 「それが東側に参戦する理由ですか?」

 「そうだ。負けても百億手に入る。勝ったら勝ったで、更に国からの報奨金が得られる。こんなおいしい話しは他にない。」

 「理由は分かりました」

 「だからこそ、此度の人選はお前の心などどうでもいいのだよ。只、強い奴を選ぶ。それでよいな?」

 

 「・・・承知いたしました。ではそろそろ私は、部屋で休ませていただきます」

 

 その言葉と共に、輝は道場から出ていく。

 外はすっかり月が満ちていた。


 「・・・今の勇とは行きたくないな」

 

 輝は、煌めき放つ月光の下、独り孤独に呟いた。

 

 

 




 

 

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