英雄の死
伏線を盛り込もうとしておりますので、遠回しになっていくと思います.
感想など頂けたら幸いです。
人間は、百年周期で大変革を起こすと言われている。二足歩行から始まり、十九世紀には蒸気を発明し、英国で産業革命が起こった。そして二十世紀には核が発明され、エネルギーを生み出した。
そして二十一世紀、人類は新たな変革を起こす。
近隣諸国の脅威にさらされた日本軍が独自に研究し、草薙 零博士が作り上げた遺伝子、通称『零式』と呼ばれる遺伝子が開発された。
零式を投与された赤子は、十年以内に命を落としていた。 しかし、三割の生き残った少年、少女は類い稀なる身体能力や、稀にではあったが、特殊能力を身に付けていた。
或る者は研究者や政府高官に。
或る者は屈強な兵士に。
量より質。その零遺伝子により、数多くの最強の兵士を作り上げることに成功した日本は、他国からの侵略の抑止力に成功した。
その能力により、軍事、経済面においても世界有数へと上り詰めていた。
◇
「これより、日本国を窮地に陥れた悪逆の徒、真田 新造の公開処刑を執り行う」
執行官の号令により、兵士達は小銃に弾を込め始める。兵士の眼前には磔にされた男がいた。全身は無数の傷痕が映え、数多の拷問の名残が見えた。この英雄の処刑にそれを見守る群衆は皆、悲痛の叫びが絶え間なく聞こえてくる。
この男、真田 新造は元々は、東日本の軍人であった。零式を投与し、北海道の総司令官を歴任。零式組となる特殊部隊を結成し、ゲリラ戦術を巧みに使いこなし、他国から北海道の地を守り抜いた英雄であった。同時期に行われた沖縄侵略も日本軍が勝利し、この後、東日本は経済を、西日本は軍事に重きを置くようになった。
つかの間の安寧に入ったと思われた。しかし、真田 新造に悲痛な現実が耳に入った。
軍事国家と化した西日本が貴族階級にも似た独裁権力を持つようになり、その結果、数多くの民が飢えと軍人達からの圧力に脅えるようになっていた。
この様な危機的事態に真田は民の為に立ち上がった。
義無くして勇無きなり。彼の座右の銘である。
正義感ゆえか、はたまた自分の子供と同じ位の子供たちが死んでいく姿を見たくないのかは分からなかった。
しかし何かが自分の背を押しているような気がしたのだ。
故に、戦地へと再び戻った。彼に従う者は北海道で戦った零式組の同志達であった。少数精鋭からなる特殊部隊、類い稀なる軍略家の真田に西日本の数多くの政府高官は粛清された。
市民の為に闘うこの者達に、英雄と称えた。
無敵の軍団の総大将たる真田 新造が、何故捕まったのか?理由は簡単。市民を助ける為であった。
真田 新造に恐怖を抱いた西日本政府は、真田 新造が政府に投降しなければ、彼らの主な活動拠点であった大阪府を中心に、無差別虐殺をすると提示してきたのだった。真田の部下はこの言を無視するように進言したが、真田は政府の元に向かった。
彼らの行いを英雄視する一方、真田自身、この様な偽善者じみた行動で罪もない市民を死なせていいのかと彼は感じてしまった。ならばいっそのこと、ここで自らの命と引き換えに、今の西日本の事を考え、そして変えてくれる若者が出てくれることを願い、今、この場所で処刑にかけられていた。
「真田 新造、最後に言い残すことはないか?」
その言葉に、連日に及ぶ拷問に体力の少ない体の中、真田は重い口を開く。英雄の最期の言葉を聞く為に群衆は静寂になる。
彼の者はただ一言叫んだ。
「皆、すまん!」
自身の体を縛り付ける紐が軋みだす。
今できる精いっぱいの頭を下げる。
只、皆に言えるのはこれだけだったのだ。
その光景をみた群衆は涙を流す。
そして、遂に民衆は動いた。
「我らが英雄を死なすな!」
「政府高官に天誅を!」
老若男女からなる群衆はこの処刑を止める為に、柵を壊し、処刑場へとなだれ込む。
「何をやっとるか、馬廻り集、殺しても構わん。今すぐ、クズどもを黙らせろ!」
この光景に処刑の目付であった政府高官が怒りを露わにした。
「はっ、行くぞ!」
零式を投与された五十人以上からなる政府高官の馬廻り集が、民衆に攻撃を行い、死体の山が出来上がっていく。
「貴様ら・・・!」
真田は、彼等を助けようと体を動かそうとするが、紐がきつく、この場から動けないでいる。
何もできないでいる自分に怒りを露わにする。
「くだらんよな、人間は?そうは思わんか、真田よ」
目付の男が真田に近づき、語り掛ける。
「自分の生活を変えるのは、英雄でもなければ、屈強な兵士でもない。己自身だ。それを民衆はお前を使い、世界を変えようとする。愚か者だとは思わんか?」
「何を抜かす、彼は一般人だ。我々の様な零式を投与された者ではない」
「そうだ、我々は選ばれた者だ。故に奴らが刃向かうという事がおかしいのだ。それに奴らと俺達にとって決定的な違いがある」
彼らも人間だ。違いなどあるはずない。
真田はそう信じて、支配階級に成り下がった西日本政府に宣戦布告したのだ。
「奴らは、貴様を助けるために立ち上がったまでは良かったが、少しでも暴力を振るったら保身に走る。決定的に意志力がないのだよ、奴らは。貴様と違って、奴らは死ぬ覚悟でお前を助ける気はないらしい」
「彼らは人間だ!それが当たり前だろ!」
その言葉に高官は、微笑した。
「そうだ、奴らは人間だ。だから我々、『神』には勝てぬのだ」
「貴様・・・!」
こんな奴が政府高官だからこの様な現状になったのだ。こいつさえいなければこんな事には・・・。
「さて、祭りの時間はこれにてお開きとしようか。せめてもの手向けよ、俺が引導を渡してやる。」
その直後、政府高官は逃げ惑う民衆に向かって叫ぶ。
「聞け、人間どもよ、この遠山 忠信が英雄と称える男の末路を見せてやる。鉄砲隊、構え!」
兵士達の銃口が真田に向けられる。
「放て!」
号令一喝。
刹那、凶弾が真田の全身をえぐり、血しぶきが上空に舞い、真田は声を発することなく絶命した。
その光景にまた遠山は微笑する。
そして一言。
「これにて一件落着とはこのことよな。なあ真田よ?」
もう二度と言葉を話すことがない真田に遠山は語り掛ける。