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アンバーの瞳  作者: 尹茅
story:1 色味乱
2/27

透明

※朔夜視点でお送りします

 

 奈津はいつもガラス球のようにからっぽな瞳でアイツ(・・・)を見ていた。

 彼女は自分がそう見えているって、気づいていない様だったけれど。






 柊朔夜が遊びに誘ってくる女の子たちを躱して下駄箱を出ると、見慣れた桐生奈津の小柄な背中を脇の植え込みの近くで見つけた。一点を見つめて微動だにしないその背中にそっと近寄って、勢いよく抱きつく。


 朔夜はを見る奈津の、何も見えていないような昏い瞳がどうしようもなく嫌いだった。


「なーつさん。とうとう寂しくなった? なら俺とつきあおーよ、超優良物件だよ」

「……柊か。放せ、付き合わん」

「嫌。奈津さん可愛いから無理」


 一瞬だけ強張った身体。直ぐに朔夜だと気付いたのか、振り返らずに憮然とした声で文句を口にする。

 可愛い。

 アイツに気づいたからこうやって抱きついたって、気付いていない訳が無いのに。

 奈津はそうやって、必死で知らない振りをするのだ。


「まだ見てるの?」


 細い肩に頭を落として奈津を見上げ目を合わせると、一瞬だけ息を詰めた奈津はそのままじいっと朔夜の目を見つめた。 


 奈津の瞳が朔夜を映す。

 奈津が朔夜の目を気に入っていることを知っている。嬉しくて思わず笑うと、我に返ったのか慌てて目を逸らされた。


「卑怯な奴」

「奈津さんにそう行って貰えるなんて嬉しいな。俺のこと、よく分かってる」


 奈津は朔夜の本質に気付いてる。

 それがこんなにも心地いい。


「ね、だから俺に堕ちてきて? 大事にするよ」

「……いらん。帰る」


 返事が遅れたってことは、少しは揺れてくれてるのだろうか。そんなことを思いながら、朔夜の腕の中で抜け出そうと動いた奈津を再び抱き込んだ。


「待って奈津さん、これ貸してあげる」


 自身の首に巻いていたマフラーを奈津に巻き付ける。驚いた顔で朔夜のマフラーに巻かれるその姿に、ちょっとだけ征服欲が満たされたり。


「要らん」

「ワガママ言わない。寒いの苦手なのに、なんで何もしてないの」


 顔を出そうともがく奈津があんまり可愛いから。

 だからつい、苛めたくなってしまった。


「見たくないものは、見なくていいんだよ?」


 的確に奈津を抉るだろう言葉を放ると、奈津は思った通りに分かりやすく身を竦めた。

 未だマフラーに隠された大粒の瞳には、透明な雫が溢れて煌めく。慌てて涙を拭う奈津はやっぱり可愛くて、頬がだらしなく弛むのが分かった。


「……っ、ふ、」

「かっわいいなあもう! なんでそう、弱いとこ突くと急に脆くなるかな」

「…………」


 乱暴に拭ったせいで目尻を赤く染めて朔夜を睨む潤んだ瞳には、朔夜の姿が映ってる。


「好きだよ、奈津さん。俺が隠してあげる。代わりでもいい。だから俺にしな?」


 黙って唇を噛んで俯く貴女に、全部言ってしまおうか。


 不毛な片想いなんてやめればいい。

 あんな瞳をするくらいなら、ずっと俺を見ていればいい。

 アイツは絶対、奈津さんのモノにはならないんだから。



 ああ、でも。

 一番言いたいことは、こんなことじゃなくて。




「大丈夫、俺は側にいるよ」

朔夜が一人で悶える様子が書きたかった。


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