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アンバーの瞳  作者: 尹茅
story:2 色燦々
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鉛色

大変長らくお待たせいたしました……!

楽しんで頂ければ嬉しいです。

「青葉くんっ! 一体どうしちゃったの、あれ?」


 朔夜と奈津が、二人で教室から出て行ってからしばし。

 青葉に向かって我先にと身を乗り出し、先ほどの朔夜の行動の真意を尋ねる女生徒たちは、皆が皆、朔夜に少なくない好意を抱いていた女子たちだ。それに便乗して群がってくる男子生徒たちも、一体どういうことだと困惑を隠しきれない表情のままに青葉をじいっと見つめてくる。


「朔夜くんと一番仲のいい青葉くんなら、何か知ってるでしょう?」


 きゅっと拳を握りしめ、ふるふると身体を震わせながらも静かな声でそう告げるのは、朔夜に素気なく拒否された秦野という女生徒。

 未だ諦めきれないのか、未練ありげに教室の扉をちらちらと窺う秦野の瞳にはいまだ、薄く涙の膜が張っていた。


「さあねえ。俺だって、朔夜のことを何から何まで知ってる訳じゃねーし」

「嘘。だって全然、驚いてないじゃない」


 間髪入れずに返された秦野の言葉に、青葉は両手を挙げてひらひらと振る。


「怖い怖い。こういうのに関わるとロクな目に遭わないんだ、俺は関係ないよ?」


 はっきり関係ないと意思表示をしてみせると、しばらく真意を探るように青葉の挙動を見つめていた秦野は、諦めたようにため息をついた。


「青葉くんは朔夜くんの味方だもんね、分かってるわ」










「お前、馬鹿なんじゃないのか」

「酷いなあ、俺はよくここで食べてるよ?」


 重たい鉛色の空にびゅうと吹き荒ぶ冷たい風に、奈津は開口一番そう言った。寒さを少しでも和らげようと身を縮めてみても、肌を撫でる空気の冷たさは少しも変わらない。


「冬に屋上で食べるなんて」


 呆れを多分に滲ませる奈津に、朔夜は先日の直人との遭遇のことを思い起こした。彼女と仲睦まじく弁当を広げていた、優しげな風貌を持つ奈津の想い人。

 もし今直人に会ったら、奈津はどんな反応を返すのだろう。以前ほど直人のことを気にしないのではないのか、という期待は、あながち外れてはいないと思いたい。


「此処に来るのは俺だけじゃないよ」

「また何か企んでいるのか」


 途端に、奈津の眉が不審そうに寄せられる。

 そんなことないよと自慢の甘い笑みで誤魔化しても、朔夜の仮面を見分けられる奈津にはさっぱり効果はない。ますます疑いの眼差しを深める奈津に、食事を促すことで誤魔化した。

 ぱん、と勢いよく惣菜パンの袋を開ければ、弁当箱の蓋を開ける奈津と視線がかち合った。


「なに、奈津さん」


 可愛いなあと微笑めば、奈津は耳の先を仄かに染めてふいと目を逸らす。どう見ても照れ隠しにしか見えないそれに思わずにやつく頬を隠そうと、朔夜はパンを頬張った。


 席が隣になって以来、奈津のこういった仕草が増えたような気がする。朔夜のことを異性として見て、自分に向けられる気持ちが本物であると、きちんと理解している。

 今まで鬱陶しいだけだったその態度や仕草は奈津にされると存外嬉しいものなのだということに、朔夜は初めて気が付いた。そうして上機嫌で食事を進めると、奈津は不本意そうに朔夜を窺いつつも、決して立ち去ろうとはしないのだ。


「はい奈津さん、寒いでしょ」


 着ていた紺色のブレザーを、奈津めがけて放る。小さなくしゃみをして要らないとばかりにブレザーを押しやる奈津に、仕方がないなあと重い腰を上げた。


「俺が無理矢理連れてきたんだから、これくらいのお詫びは受け取ってよ」

「朔夜だって、寒いだろう」

「俺は慣れてるから」


 背中にまわって無理矢理羽織らせれば、びくりと身体を固くした奈津は慌てて振り返る。その頬が赤く色づいているのは、先日のことを思い出したからであろうか。奈津が拒否しないのをいいことに、朔夜はさっさと戻って座り込んだ。


 扉の開く安っぽい金属音が響いたのは、その直後。


「んーっ、今日も寒いねえ」

夢穂みずほ、今日はやけに機嫌いいね」


 開いた扉の向こうから、白く染まった吐息が立ちのぼる。ふわりと空気に溶けたそれが完全に消え去る前に、彼らは朔夜の前へと姿を現した。


「当たり前だよ、だってナオくんと会えるの自体、久しぶりなんだもの!」


 快活そうな印象を与えるショートヘアを揺らして、屋上へと跳ねるように降りたった少女は、朔夜にとって見覚えのある人物だった。

 彼女(夢穂)が来たと言うことは、当然。


 その事実に気が付いた朔夜が奈津をその腕に囲うよりも早く、彼は奈津の視界へと映り込む。


「……先客が、いたみたいだね」


 さらさらの黒髪を揺らしてニコリと微笑むのは、朔夜の恋敵ライバルに当たる直人。言われて初めて気が付いたのか、朔夜たちに気が付いた彼女は驚いたように目を見開いた後、きゅうと眉を下げた。


「ごめんなさい、うるさくしちゃって。私たち、ここにいない方がいいかな?」


 そう言う彼女の手には、小さな巾着袋。

 じっと固まったまま動かない、奈津の小さな身体を腕に抱きしめ、朔夜はひっそり笑みを浮かべた。


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