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6 魔王

 人間どもを生かすと決めた以上は、仕方ないと割りきる。人間の世界を征服するためには、魔王軍を一掃するよりないのだ。


 我が送りこんだ軍ではあるが、立場が違えば、敵となる。神子という姿になったものの、胸が痛むといったような面倒くさく繊細な感情はない。


「死にたくなければ、離れていろ」


 我のひとことで、人間どもは慌てて遠ざかっていく。女子供も老人も足をもつらせながら逃げた。これでいい。心置きなく全力を出せる。


 何の障害もなくなると、我は両腕を開いた。握った拳に力をこめる。まずは1段階の解放だ。この方法で神子の体に眠る力を引き出せる。


 神子は本来、その力の強さからある段階まで封印をされている。すべてを解き放ったとき、世界は光で満たされる。生きているものだけが世界に残されるのだ。


 2段階、3段階と来て、全身がまばゆいほどの白い輝きに包まれる。


 体は宙に浮き、木を焼き尽くす炎へと近づく。光が防御壁の役割をして熱を感じない。


 腕を通じて横に走った光が、炎の勢いを奪っていく。木にまとわりついていた炎は煙となり、ますます下火になっていった。すぐに次の火の玉がやってきたが、光に触れると炭となった。瞬く間に消えた。


 炎の勢いがなくなり煙が立ち上るようになると、魔王軍の全貌が見えた。毒の沼から生まれた醜いものたちが一斉にこちらを向く。


「苦しませずに消してくれよう」


 我の姿に気づき、攻撃をはじめても無駄だ。強めた光によって醜い皮や肉も削ぎ落とされて、骨となる。骨は光の強さに耐えられずに、くだかれて砂と化した。そして、砂は地上へと降り注いだ。


 光の砂が大地を埋めつくしても失った森や町は戻ってこない。破壊とはそういうものだ。


 長老とおぼしき老人が本性を出したことで、女子供たちとの絆が壊れたことも仕方あるまい。新しいもので代わりを見つけぬ限り、再生はありえない。


 大地に足を降ろすと、人間どもが恐る恐る近寄ってきた。


「神子さま、どうか我々の長になってくださいませ」


 母親の声が発端となり、すべてのものたちは口々に長になってほしいと言う。


 母親の腕に抱かれた赤ん坊が、我に向かって手を出した。


「あー、うー」


 何かを求めているようだが、言葉の意味は不明である。我はその手をとらなかった。触れてはならないと思ったからなのか、理由は自分でもよくわからない。


 しかしながら、この日を境に我は人間の世界の長となった。

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