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3 神子

 すっかり目が覚めたら、そこは静かな場所でした。


 わたしは緑がない渇いた地に体を横たえていました。荒れた地を這うように生臭い風が吹いていきます。


 わたしがいた地では自然が豊富で、健康な木々や草はらが広がっていました。しかし、今見ている光景はそれとずいぶん違うのです。


 木々は痩せ細り、大地の大半は紫の沼が支配しています。靴で沼の上をさらってみると湯気が立ちます。こんな場所でどうやって人が生活できるというのでしょう。


 一歩足を踏み出したら、黒いトカゲが忙しく足首をかすめていきました。


 驚きのあまり「きゃっ!」と声を上げてしまいました。そのとき、低い声がしたのですが、なぜでしょう。


 自分の手を見たとき、思わず叫び声を上げました。やはり声も若干、低いのです。指が白く血の気がありません。爪は紫色をしていて、先っぽが丸まっています。


「わたし……じゃない?」


 意識がどんどん遠くなっていく気がしました。


 それでも、気を取り直して、もう一度、手の甲を見ました。やはり見間違いなどではありません。本当に青白い手なのです。わたしの意志によって自由に動きます。


 ということは、この手がわたしのものだということでしょう。自分の体を見下ろしてみれば、恥ずかしいことに1枚の布を着ているだけでした。布に押さえつけられた胸にも深い谷間ができていて、腰も引き締まっています。


 かなりショックなのですが、どうにか自分の全体の姿を見る方法はないのでしょうか。確かめるためにも鏡が欲しいです。


 しかも、辺りを見渡してみても人間がいませんし。というか、生き物がいません。


 これからどうしましょう。考えなくてはなりません。そんな重い問題に取りかかろうと天を仰いだときでした。


 「まっおうさまー!」という声が空から降ってきたのです。


 えっ? 黒い翼が近づいてきます。


 鳥だと思ったのですが、顔を見ると違いました。鼻は潰れていて口の両端から白い牙がのぞいているのです。


 姿はコウモリに似ていました。人間以外で人間の言葉を話すものを知りませんでしたから、多少驚きましたが、だんだん落ち着いてきました。


 何事も生き物が言葉を話さないと決めつけるのはよくありません。


「まっおうさまー!」


 コウモリは翼をたたんで、ひ弱な木の枝にぶら下がりました。


「あ、あの!」


 コウモリに届くように背伸びして声をかけました。


「まっおうさま? 何だかいっつもと違いますね?」


 そして、コウモリはぶら下がったままで器用に首を傾げます。


「そ、そうでしょうか」


「そーですよ。まっおうさまはわったしの呼びかけなんかにちっとも応じてくれないじゃありませんか。いっつも無視ですよ、無視」


「そんな、ご、ごめんなさい」


「まっおうさまが謝るなんて……わったしめに頭を下げるなんて」


 どうして驚くことがあるのでしょう。しかも、くりくりした黒い目から液体がこぼれ落ちていきます。ぶら下がっていますから、逆さに落ちていきますけれども。


「あの、何かお気にさわりましたか?」


「とんでもない! ウピリは感動中です」


 ウピリと名乗ったコウモリは鼻を鳴らして、翼を広げます。何だか、可愛らしい生き物に見えてきました。親近感がわいてきて、聞きたくなりました。


「ウピリさん。ウピリさんはわたしの家を知っていますか?」


「知っていますとも。魔族で知らないものはいません」


 小さな胸を張ってウピリさんは得意げですが、聞いたわたしは冷静ではいられません。


「魔族とおっしゃいましたか?」


「ええ、まっおうさまは魔族の頂点です」


 「まっおうさま」とは魔王さまのこと。そして、どういうわけか今のわたしは魔王さまの姿をしています。


 今度こそ気絶すると心なしか思いました。遠くの方でウピリさんが叫んでおりましたが、予想通りにわたしの意識は途中で途切れてしまいました。

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