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11 神子

 わたしとウピリさんは自室にて小さな会議を開いていました。もちろん会議の内容は魔物の作り方についてです。


 会議で決まった事柄は石板に記していきます。魔族には紙というものがあまり普及しておらず、石板に白い石で文字をつけるのが普通でした。肖像画に使われた紙は人間界からくすねたものらしいです。貴重な紙は節約ということで、テーブルに石板を置き、ふたりで向かい合って話をはじめました。


 まず魔物を作るには原料が必要となります。この原料の選び方で、魔物の種族が決まるのです。


 たとえば、腐った肉でしたら牛さんのような筋肉的な魔物に近づきますし、獣に食い散らかされたあとの骨はしゃれこうべさんのようにすかすかになる可能性があります。目玉は目玉さんですし……本当に様々です。


 いろいろと想像をふくらませた結果、わたしがもっともいいなと思ったのはウピリさんでした。わたしのために涙を流してくれるコウモリのような魔物です。そう告げますと、ウピリさんは「何だか照れますね」と笑っていました。


 どうしてでしょうか、ウピリさんはかなり鈍いです。わたしが抱きついたり泣きつくのはウピリさんだけですのに。


 しかもウピリさんに似たこどもが欲しいだなんて、わたしの好意はあなたにあると言っているようだと思うのですが。彼に伝わることはありません。


「わったしに似た魔物でしたら、良く焼いたコウモリの羽などはどうでしょう。比較的簡単に手に入りますし……どうかいたしました?」


 ウピリさんはようやくわたしがうつむいていることに気づいたようです。


「ウピリさんはわたしがお嫌いですか?」


「はい?」


 こんなにも明らかな好意に気づかないふりをしているなら、かなり悲しいことです。気づいて欲しい、少し動揺して欲しいとの気持ちをこめて、話を切り出しました。案の定、ウピリさんは戸惑ったようすでした。


「わたしはウピリさんがとても大好きです」


 目を丸くしてわたしを見る表情も、止まり木から足をすべらせるあなたも好きです。涙を流してくれるあなたも好きです。伝えても、かたまったウピリさんからは反応がありません。


「ごめんなさい。こんなときに、変なことを言ってしまって。えっと、魔物ですよね。どうしましょうか?」


 何でこんなにも恐ろしいのでしょう。神子だったときも恐ろしい経験をしたと思うのに、否定されることが恐ろしく感じます。


 わたしが石板に目を戻したときでした。自室が揺れはじめたのです。肖像画が落ちていきます。修復したという天井の岩が崩れてきます。


 わたしはテーブルの下にもぐりました。それでもかたい岩です。テーブルをも壊し、わたしの頭に落ちてきます! そのとき守ってくれたのは黒い翼でした。


 揺れがやみ、がれきをはねのけますと、ウピリさんの翼からは紫の液体が流れていました。


「ウピリさんっ」


「まっおうさま……」


 声に力がありません。だらっと垂れ下がった翼はぴくぴくと痙攣を起こしていました。


「いったいどうしたら! 助けを呼んできます!」


「いえ、わったしはもう駄目です」


「そんなことありません! 諦めちゃダメです!」


「まっおうさま」


 ウピリさんの翼が少しだけ上がります。わたしは手をとるように翼に触れました。


「ウピリさん」


「まっおうさま、わったしはあなたのことを……」


「はい」


 ウピリさんは何かを伝えようとしているみたいです。わたしは聞き逃してはならないとよく耳をすましました。


 しかし、待っても待っても次の言葉はやってきません。それもそのはずです。ウピリさんは安らかに目を閉じていました。わたしがいくら揺さぶっても呼びかけても彼の目は開きません。


「そんな、ウピリさん」


 ウピリさんの胸の辺りに手を当ててみると、止まったはずの呼吸が再開しました。ただ彼は眠りに入っていたのでした。


「ウピリさんったら」


 わたしは落ち着きを取り戻し、魔物の源である紫の沼まで走り抜けると、沼にウピリさんを放りこみました。何となく、紫の沼は血の色と似ていたものですから、やってみたのです。


 そうしたら、ウピリさんはたちまち元気になって、また魔王城の上空を飛び交ったのでした。

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