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叛乱のコロシガミ  作者: 戯富賭
明鏡止水-Day a break-
8/16

Day:Ⅷ

欲する平穏と望まない真実


男は彼の全てを知っている

幸せか、と聞かれたとき。




俺は迷いなく答えられた。




不幸か、と聞かれたとき。




俺は戸惑い答えらなかった。




確かに失敗は何度もしてきた。

俺の人生に成功なんてないのかもしれないとさえ、思った。

それでも諦めきれなくて、ここにいる。

今の俺には、この学園があるんだ。

それ以上のものは望まないし、それ以下のものも望まない。

だから、幸せだと答えればいいものを答えられなかった。



「お答えは……しなくても結構です。

これはただの余興ですから、本題はここからなんですし」


「嫌なやつ……」


「それ、よく言われますよ」



ニッコリと笑う黒服の男性はビジネスバックから複数の紙袋を取り出す。

その全てに重要事項、と書かれた印が刻まれている。



「これは全部君に関する情報が記載されている資料だ。

この中には君の知らないことすら記述されている」


「……そんなものを何故、お前が持っている?」


「それは私が政府の人間だから、と安直な言葉ですけど。

信用ならないなら証明書を見せましょうか?」



日本政府のお偉いさんが直々に俺みたいな庶民にどんな要件だよ……!


政府と略称されることの多い、日本政府。

今の国家を支える要でもありながら、裏向きでは黒い部分があるとは噂で耳にしたが……まさか、個人情報保護法を無視する気か?



「結構。それで、その資料をどうする気だ?

ここからばら撒いて、俺の恥ずかしい黒歴史を世間に晒そうって魂胆か?」


「残念ですが、ハズレです。

この資料は全てあなたに渡します。

その上であなたが私に質問してくるでしょうから、一つだけお答えしましょう」


「はぁ?あんたからの質問じゃなくて?」


「えぇ、それが終わったら政府に報告書を提出するだけなので私はこの場から帰りますよ」



訳が分からない。

普通なら見ず知らずの初対面から俺へ尋ねるために来るはず。

何故、初対面の……しかも、政府の人間に逆質問しなくてはいけないんだ?

ますます謎に包まれていくが、男の手から資料を貰うも簡単には開けない。

そこに謎の答えがあろうとも、ここまでの経緯が俺を慎重にさせる。

この男の言葉に嘘ハッタリがあるとは思えないが、こんなにも自信過剰にいられるのも不気味だ。

正直開けたくはないが開ける他、選択肢はない。

今だに表情を変えない黒服の男の前で、恐る恐る資料に目を通していく……。



“本名、荒木(あらき) (ゆう)


“性別、男”


“生年月日、10月31日”



10月31日……?

誤字標記じゃないか。

俺の生年月日はこの日じゃない。

さっそく自分の情報に間違いを見つけたが、これはまだ最初でしかなかった。



「……な、何だよ、これ」



全ての資料に目を通したが……。

まるで偽造されているようにしか思えない。

しかし、これが嘘だと言い切れるほどの自信がない。

確証を持てるものがないからだ。



「さぁ、決まりましたか?

私に問うことが出来るのはたった一度のみ。

それ以外は答える義務がない。


たとえ、君の家族が全て偽物で。

天涯孤独の身だったとしてもね」



男は嘲笑う。

何もかも知ったような口調で。

立場が動かないことを知っているからこその自信。

腹立たしいが、この問いの内容は考える必要はない。

この資料は本物かもしれないし、偽物かもしれない。

だが、相手は日本政府。

日本全国の管理を任されているということはつまり、情報網も膨大である。

俺の質問がたった一つなら……。



「あんたらの目的は何だ?」



結論を問うことだ。

この男の口から未だに俺に出会った目的が出ていない。

俺に会うことで資料を明かしても、意味はない。

それなら輸送するなり別の方法がある。



「……なるほど、その問いには答えよう。

しかしながら正直なところ、私は資料に記載されている君という人間を見下していた。

資料の君なら自分だけの自己中心的な質問だけだと思っていたが、所詮は資料。

出会ってみなければ、その人間性が見えてこない。

これが私の答えだが、政府の答えをまだ言っていない」



先ほどの笑みとは一変、俺の対応が予測とは違ったようで。

嬉しそうに笑う男はバックから更に機密事項、と書かれた紙の束を取り出す。



「荒木 憂の可能性と現状報告を記載したのち報告。


さっきも言った通りのことが書かれているが、その目的は他にある。


死神殲滅作戦。

人間を喰らう死神の掃討のため、複数人の有能者(コロシガミ)を集結させる。

中でも、特異点である荒木 憂を筆頭として突き進む。


……そういう計画なんだよ、政府は」


「死神の掃討作戦……しかも、それを俺みたいな一般人にさせようって言うとはな」



だが、特異点とは何だ?

質問はこれ以上出来るわけじゃない。

ここは自分で調べるしかなさそうだ。

ただ、政府が俺に会ったのは理解した。

死神とコロシガミの存在を認知している。

あの噂の黒幕もこいつらで間違いは無い。

そうでもしないと、いつ別世界に巻き込まれるか……。

コロシガミになった経緯と条件も、安直すぎる。

たまたま、偶然ということだってあり得るわけだ。



「それでは私はこれで。

あぁ、一つ言い忘れていたことがありました。

政府にはこのことも伝言として言えと」


「……それで何なんだよ。

これ以上、何を言われても驚くことがないとは思うが……」


武内(たけうち) 緋色(ひいろ)くん、ご存知ですよね?

今は君の旧友である武内(たけうち) 鷹人(たかひと)くんの実弟です。

彼、どうなったか知ってます?

公な話では、死にましたよ。

無論、事故という処理ですが」


「なっ……!」


「これにて失礼」


「ちょっと待て!」



今いる場所が学校の屋上だというのに男は背中から飛び降りた。

俺が奴を止めようとしたのは決して身を案じたわけではなく。

武内 緋色の件で、だ。


死んだ……?

じゃあ、もう一人の行方不明者は?

鷹人はどうなった?

前に会ったばかりなんだぞ。


屋上に一人取り残されたまま結局、俺は政府の一部分と自分自身のことしか分からなかった。

何にも分からないまま、謎だけが深まる……。



「荒木ー?」


「あ、あぁ……行くか」



学校祭だということをすっかり忘れていた。

立ち尽くす俺の前に待たされていた安達(あだち)が迎えに来たようで。

大丈夫だ、大丈夫……。

今は……何も考えないでいよう。


男から貰った資料を安達に見られぬよう小さく折りたたみ、腰に差し込む。

事実か、偽装か。

どちらにせよ、自宅に帰るまでは整理できない。


安達に引きずられるまま、屋上を降りる。

ここにいるために俺は戦っているんだ。

それ以外の目的はない、今だけは。


学校祭はやはり楽しいものだ。

休憩時間で安達や他の友達といろんなところを行っては遊んだり飲食を済ませていた。

教室では着慣れない燕尾服と営業スマイルで精神的なダメージがあったものの、売り上げは黒字。

頑張った甲斐もあり、学校祭は無事成功……。


これが終われば、俺はまた……戻るんだ。



「ちょっと荒木くん、手伝ってよー!」


「了解ー」



クラスのみんなと過ごす日々を守るために。



「荒木ー、こっちも頼む」


「はいはーい」



一人だって欠けさせやしない。

死神殲滅作戦前にせめてもの練習。

俺が筆頭ならば、なおさら負けは許されない。



「あ、あのさ、荒木」


「あーどうした、安達?

今片付けが忙しくて手が離せないんだが、急用かー?」


「う、うん……そんな時間取らないから、ちょっと来てくれない……?」


「……おう」






……そう思っていたんだ、この頃の俺は。






『いよいよ、ですね……』


『えぇ……最終段階に入る』



いよいよ、八部まできましたね……!

自分の中ではめっちゃくちゃアツい展開が欲しいところですが、残念ながら荒木くんは平穏が欲しい青年ですから……。


予定通り、ここまで来た感じです。

来週からGWといったところなんですが、作者はさらに忙しくなります(笑)。

休み下さいよーって感じですが、予定通りに来週の土日二日間に渡って九部、そして最終部を投稿しますよ。

そこで第一章が終わります。

彼に待ち受ける第一章の終わり方が気になる方は是非楽しみにしてください。

そして、第二章と外伝の二作品の展開もお楽しみに!


※第二章と外伝の予告二回目は今日の夜にしようと思います。

もしかすると、あの人たちが現れる……?


第一章終わりから一週間は投稿しませんのでご了承ください。

また、第二章は二週間ペース、外伝は検討中です。

投稿ペースも随時お知らせします。


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