Day:Ⅶ
時は過ぎて、学校祭
不安と不況は降り積もる
いつもの学校は変わらない。
大半は嫌いでやりたくないであろう勉学と。
新たな環境で出来た友人と。
様々な行事が待ち受ける。
ただ、変わったとするなら周防 狻雄の更生ぐらいだと思っていた。
「えっ、学校祭?」
朝のホームルームに持ちかけられた話。
いつの間にか、そんな話が出てくる季節になったことにも気づかずにいた。
季節は、秋。
毎日が忙しくて、暇を作ることがなかった。
家族が殺されて。
別の世界があって。
噂通りの死神がいて。
それを打ち倒すコロシガミになって。
出入口となる空間の歪があって。
離れ離れになった旧友と再会して。
その旧友からまた別れて。
別のコロシガミに狙われて。
コロシガミだとバレそうになって。
そんな夢物語が俺の現実で非日常。
日常に構っている時間が少なかったからだろうな……。
夏の終わりに始まった現状から、もう一ヶ月は過ぎている。
変わらなかった日常は確実に変わってきた。
俺の夢物語が現実なんだ……。
死神との抗争。
真実への進歩。
コロシガミとなった今でも、俺は人間であり続けたい。
人間のままでいたい。
「それじゃあ、このクラスの出し物は喫茶店で決定だね。
どんな格好がいいかなー、男子は燕尾服に女子はメイド服の喫茶店とか」
「委員長のメイド姿は……なんだか犯罪だな。
サイズがアウトだろ」
「おっ、狻雄、ナイス助言。
お子様にしか見られないぞー」
「き、気にしてることを言うじゃない!
もう、ちゃんと考えてよー!」
「柚なら着こなせるって」
「あんたにだけは言われたくないわよ、問題児!
前回も、前々回も学校祭にやらかした祭の問題児として要注意人物なのよ!」
「わ、私はそんなつもり、ないんだけどなぁ……あはは。
ねぇ、荒木?……荒木?」
「お、おう、なんだ?」
クラスメートの話もそうだし、安達に呼ばれていたがうわの空。
まったく聞いていなかった。
再度、説明を。
クラスの出し物は喫茶店となった。
そこで格好について意見が分かれていたらしく、男二人と問題児一人から小馬鹿にされた北穂委員長はお怒りになられたところ、助け舟を寄越すために安達が俺に話しかけた、と。
「クラスのことなんだからちゃんと聞いてよね、荒木くん」
「す、すまん……」
放課後まで残って学校祭に向けていろいろとやっている北穂の手伝いをしていたのに、面目ない。
そもそも手伝いをしようと言ったのも、俺だ。
今は非日常を忘れて、日常を楽しむことにしたいと望んだ。
その一環として、高校最後の学校祭。
絶対に失敗したくないし、楽しみたい。
みんなとの思い出を、一つでも多く残したいから。
「荒木……」
「ん、どうした、安達?」
「な、なんでもない……ちょっと今日は急用があるから帰る」
一緒に残ってやってくれると言った安達がカバンをもって急いで教室を出ていった。
……いつもの安達じゃなかった。
あいつなら、この行事にかける思いが違う。
純粋に楽しみたいと言葉に出さず行動で伝えるように、出し物には手を抜かずに手伝ってくれている。
そもそも、常にハイテンションの安達がやけに暗いというか、落ち着いているというか……。
度々見るあいつの真剣さは別人に感じる……。
「悪いこと、しちまったな……」
俺が別のことを考えてたばっかりに……話題が減ってたかもしれない。
ここ最近の話題もハッキリとは思い出せないし、疲労が増え神経が削られる毎日だった。
遊んでいることも減っていたのは、事実。
明日にでも、安達に謝りにいこうと思った。
しかし、安達は学校に来なかった。
理由もなく、ちょくちょく休んでいた。
最悪な場合も考えたが、たまには来ていた。
それでも、いつもの安達はどこにもいなかった。
『いいのですか?こんな事をしていて』
『……そうだね』
『はぁ……そう、ですか』
『問題があったら、支給連絡を。
少し出かけてくる』
学校祭当日。
「いらっしゃいませ!」
クラスの出し物である喫茶店はなかなかの大盛況。
それも、そのはず。
男子は燕尾服、女子はメイド服の格好が義務付けられたのだから、口調も勿論のこと。
ご奉仕喫茶をやるのは人生で初めてだが、誰かに尽くすというのは結構疲れる。
「休憩入りまーす……あ」
午前のシフトが終わり、午後の休憩が入ったところで裏の休憩所に問題児がいた。
ここしばらく顔を合わせても喋らなかったやつ。
何の理由もなしにサボりやがったやつ。
そんなやつこそ、問題児の要である安達。
彼女が俯いたまま、そこにいる。
本来なら俺と一緒のシフトだったがこんな時でもサボって、こんなところにいる。
「何してんだよ、お前……」
「……少し、いい?」
……やめてほしい。
そんな顔を見せないでくれ。
心で思っても、安達の真剣な眼差しに答えてやるべく、首を縦に振る。
休憩所では誰か来るかもしれないと二人きりになれる屋上へと向かう。
「「…………」」
何も喋らなかった。
人混みになっている騒がしい廊下でも。
BGMが聞こえやすい階段でも。
誰もいない屋上に来ても。
しばらく対峙したまま、口を開かない状態が続く。
俺から話しかけるべきなのか?
だが、ここまで来ることをけしかけたのは安達だ。
誰にも聞かれない場所まで来て話したいことなんて、どんなことを話すんだ?
いろいろと困惑する中、安達から話が進む。
「ごめんなさい」
「……えっ?」
謝罪の言葉が聞こえた。
何かの間違いじゃないか?
本来ならそれは俺がするはずじゃ……。
「学校のこと、謝ろうと思った。
ここ最近の私は少し変だったでしょ?
いろんなこと考えてたら面倒になっちゃって。
それで、あの……ごめんなさい」
……わけが分からん。
さすが、問題児らしいちゃ問題児らしいけど。
「そういうのはクラスの奴らに言ってくれ。
俺は大丈夫だから。
あ、クラスの奴らに言うのが気恥ずかしいなら俺も一緒に言ってやる」
「荒木……」
「俺たち、友達だろ?
誰にだって深く考えたいこととか、変な言動になることぐらい一度や二度、何度だってあるしな。
俺だって北穂の手伝いするとか言っておいて、お前に話しかけられたときに違うこと考えてたし。
人間なんだからさ、いいじゃんか」
「う、うん……」
良かった……いつもの安達だった。
変なことで悩みやがって。
ん?……違うか。
こいつの悩みはそれじゃない。
学校や学校祭をサボっていたことを謝ろうとしただけで。
そのサボった原因は、悩みの元凶は聞いていない。
「そういえば……安達の悩みって?」
すっと出た言葉に安達は少し困っていた。
あ、ダメだと思ったときには既に遅い。
こういうのはプライベートなことかもしれないし、そこまでされたくないと思うのが普通の反応だ。
俺自身死神とコロシガミの件を触れてほしくないことだし、誰にも関わらせたくない。
人のことを言えないのに、何を焦っている。
もう少し考えてたから行動しなければ……。
「べ、別に無理に聞き出すつもりは……」
「荒木」
柔らかな口調で名前を呼ばれた。
いつものことなのに、今だけは違う。
あの別人のような安達じゃなく、いつもの安達だ。
みんなに笑顔を配るいつもの顔で。
「荒木は、今幸せ?」
予想外なことを言う。
そんなの決まっているじゃないか……。
「……幸せだ」
「そっか……なら、いいや!
あーお腹空いたー!
先に何か食べてるね」
今の答えで悩みが吹っ飛んだのか、安達は猛ダッシュで屋上を降りていく。
こんな安易な答えを聞きたかったのか?
またもや疑問が増えたが……悪くない。
先に行った安達と合流すべく、俺も階段を降りようとしたときだった。
「少しいいかな?」
黒いスーツに整った黒髪。
サングラスを着用したビジネスマンらしき人が背中をとっていた。
いつの間に後方に……!
気配がなかった。
安達と会話していたときにはいない。
今、唐突に現れたのか……?
コロシガミの可能性もある……。
「おやおや、そんな身構えなくても今日は戦いに来たわけではありません。
そもそも、私は戦闘は苦手でしてね。
お話をしましょうよ、荒木 憂くん」
「話……?」
「えぇ、重要なお話です。
ですが、その前に一ついいですか?」
右手に持っているビジネスバックを開きながらも、サングラス越しから視線を感じる。
男は俺のことを少しも視界から離すことはない。
どんな質問が来るのか、いつでもいけるように臨戦態勢を取りつつも彼の言葉を聞き取る。
「今、不幸かい?」
安達とは真逆の質問が来た。
そんなのさっきと同じ……なのか?
本当に……そうなのか?
「…………」
俺は……答えられなかった。
はい、今回は前回を上回ってますよー。
日常系の方が書きやすい、書きやすい。
作者は戦闘向きじゃないのに、何故戦闘向けを?
答えは、ノリです。
ここまで来ましたねー!
アクセス数を確認したら、意外と読まれていて仰天です。
このまま、200突破を目指していきますか。
予告しました二章はこのままこちらで書きますが、外伝の方は別投稿にしますねー。
もしよかったら、コメント等も書いてくださると嬉しいなー……書いてくれた人に作者をプレゼント!(ウソ)
うん、絶対いらないな……頑張ろう。