Day:Ⅵ
増大する疑問と分からない答え
さらなる疑問が彼を悩ませる
昨日は意外とすぐ眠れた。
いろいろなことがあり過ぎた反面、疲労も回復できずにいたため。
包帯をぐるぐる巻きにされて寝た感想は痛いの一言で。
いい夢見心地とはいえずに、いつも通りの学校が始まった。
とはいえ、武内の行方不明。
コロシガミと名乗った青年から逃れるのが精一杯で彼の消息も不明。
生きてきたとしても狙われるのが目に見えている。
人間と死神とコロシガミ。
この三角関係で世界は成り立っているのは理解した。
しかし、死神が何故人間を襲う?
コロシガミが何故力を有する?
俺が何故狙われている?
何故、何故、何故……?
どんなに考えても、疑問ばかり。
答えにはまだ到達できそうもない。
「ふーん、そうなんだ」
「それでコロシガミって一体……うおっ?!!」
い、いつの間に安達が隣に……というか、俺自身考えすぎて口に漏らしていたのか?
「い、今のはただの独り言で……!」
うわ、言い訳するのがスゴイ恥ずい。
これは変人扱い確定……じゃない。
安達自体、変人だから問題外な気がする。
変な安心感を持って説得を試みようとしていたが、安達はその期待とは真逆だった。
「コロシガミは死神を狩る存在」
そんな突拍子のないことを吐くから。
満身創痍の安達に限って、ごく稀に。
冷汗をかく。
「コロシガミの漢字表記は殺死神。
つまりは殺す死神、死神を殺すためにある。
そうして、人間が罪、死神が罰、コロシガミが償い。
この三角関係で成り立った世界は不安定を保ちつつも生存している……って、ほら」
携帯の画面を向けた。
それはただの掲示板サイト。
噂の根源はこれか……?
それを読み上げるだけっていうのも安達らしいなぁ。
「荒木でも噂を信じるんだね?」
「ただの暇つぶしだ。
お前と一緒にするな」
「むーっ!」
コロシガミになったとしても、俺には俺の日常がある。
それだけで十分なんだ。
いつも通り、安達と学校に登校している途中だった。
のんびりとした爽やかな朝も興醒め。
いつもと違う光景が目の前に見える。
「もう、それぐらいにしろよ」
「あ?てめぇは……」
金髪、三連ピアスに鋭い目つき。
不登校児で同じクラス。
周防 狻雄。
喧嘩早い問題児でこんな朝からも他校の生徒をなぶり殺しにしていたが、俺が声をかけたことでその生徒は助かったように逃げて行く。
「ちっ……お前のせいでサンドバックが逃げちまったじゃねぇか。
どうしてくれんだ、偽善者くん」
出会ったのは今回だけではない。
前もこんな感じで他校の生徒を助けたことがある。
そこでも同じように偽善者と呼ばれている。
「偽善者って名前じゃない、周防」
「おいおい、いきなり呼び捨てかよ。
珍しく喧嘩腰じゃね?」
すぐ目の前で拳をつくってニヤつく周防。
隣にいた安達は珍しく俺の後ろに隠れている。
どんな状況にも屈しない安達が、な。
さすがに女、と分かったところで周防は止まらない!
「俺と同じ部類が拍子抜けだな。
まあいい、女と仲良くボコボコにされちまいな!」
暴力をすることが嬉しそうな周防は前に前に距離を詰めてくる!
しかし、そんな危機的状況も一変する。
「あ、危ない!」
安達の第一声で気づいた。
工事現場であった隣。
運び出していた鉄骨が周防の真上から落ちてくる!
周防自身も気づいたが、体が硬直してしまっていた。
ここで力を……安達の目の前だぞ?
「あぁもう!考えてる場合じゃねぇよ!」
立ち止まる周防を鉄骨の届かない後ろへ押し倒し、片手で落ちてくる鉄骨を受け止める!
傷口に響くが問題なく鉄骨を下ろすと、工事現場の前に空間の歪み!
また、死神かよ……。
倒した周防には問題ないが、安達は……いない?
鉄骨に当たるのを心配して避けたのか、都合がいい。
誰にも見られることなく力を使い、空間の歪みへ!
「死神……!」
予想通りというのが適切な言葉だろう。
基礎作りの鉄骨の上で待ち構えるように俺を睨みつけている。
『こ、ろ、せ』
いつも通りの台詞。
人間の死を求めるだけの不気味な声。
何度も聞く度、苛立ちを覚えてくる……!
「お前らが、関わるから!
俺の日常にちょっかいを出すんじゃねぇよ!」
鉄骨から飛び降りて俺へと向かう死神!
それに対抗するため、ギリギリまで構え待つ!
湧き上がる力を拳に溜めて、弱点である鉱石に直撃!
砕かれる音と共に死神は地面に倒れ、その巨体が消滅していく。
これが俺の力だ……くそったれ。
先日の傷口が疼くのを感じ、急いで空間を出ようとしたときだった。
『た、す、け、て』
「えっ?」
助けて。
今、そう言ったのか?
死神の消滅を見送ることなく、空間に触れてしまった。
あの声の真相を掴めず、俺は日常へと帰る。
また分からないことが出てきた……。
あらゆる疑問が増えていっている気がするが、今は切り替えよう。
現場は落ちてきた鉄骨の移動作業が既に始まっており、その近場で無邪気そうに手を振る安達と気に食わない顔をしている周防がいた。
「ど、どこ行ってたの?!!」
「いや、ちょっとトイレに……道に迷って。
安達の方こそ、怪我はないか?」
「私は大丈夫だけど……」
俺が見ても安達に外傷は見当たらない。
やはり、あの場から遠ざかって逃げていた。
この調子なら力を使ったところも見られてはいなさそうだ。
しかし、問題はまだだ。
「何で、助けた……?」
こいつがいる。
流石にあの状況で見ていないことはないと思っている。
ただ、押し倒しただけだしな。
「他人の大怪我をみすみす見逃すほど、俺は最低な人間じゃねぇよ。
助けられるなら助ける、ただそれだけだ」
「……そうかよ。
お前も怪我がなさそうだな……。
俺を押し倒すだけしてお前がどうなったか分からないし、ほんの一握り分だが余計な心配をした」
あれ?……見られていなかったのか。
あの力を使った場面を誰にも見られてはいない。
ある意味、助かった。
周防の一言に救われつつも少し驚きもある。
こいつの面白いことも知れたな。
「周防って意外といい奴?」
「なっ、ち、ちげえよ!
助けてもらった借りを返せないのも癪だと思っただけだ!
それだけだからな!」
意地になって逆ギレするだけして、周防はとっととこの場から去ろうと早歩きで進む。
後日、彼が金髪を黒髪に戻して登校してきたことに校内が一日中騒がしくなったことはまだ先のこと。
まだまだ分からないことだらけだが、一つでも多く解決していこう。
時間はまだまだ沢山ある。
遅刻が確定しつつも安達と共に急ぎ足で学校へと向かう。
いつもの日常へ戻るために。
「……あれを見てた、なんて言えないよ」
彼に届かない言葉で彼女はつぶやいていた。
今回はかなり短時間の話で終わりました。
次話へと繋げるのがちょっと難しいところ……。
読み返すとだいぶ長く書いていたのが徐々に減っているような、いないような……。
でも、もうここまで来たらしょうがないですよね。
前回の活動報告にあった通りの予告をここでも、どうぞー。
【予告】
叛乱のコロシガミ
第一章完結まで残り少し
物語は第二章へ……!
同時進行で……これもやっちゃいます!
外伝も、制作決定!
続報をしばらくお待ち下さい!
※外伝作の方はこのままこちらで掲載するつもりではありますが、章作成において次章となってしまう場合がございます。
その点に関して、外伝ではなくなるのでは?と試行錯誤しているところです。
もしかしたら、別投稿となる可能性もありますので後々報告致します。
というわけです、はい!
テンション高まりますね!
でも、これから忙しくなるのに更に忙しくさせる、この投げやり感。
投稿と完成度、どちらとも大丈夫かなぁ……?