ACT.6:半ジ分
[聖歴203x年8月10日午前10時00分32秒]
悩みに悩む青年、立ち止まれない理由
自分の中のジブンと向き合う
……どうすればよかったのか。
それだけが頭をよぎる。
俺は……あいつらとどう接すればいいんだ?
仲間を裏切り行方を眩ました鷹人。
国の治安を維持する一角となった冬至。
逆に国を相手に剣を持つ颯。
そして、もう一人も……。
先に旧市街地・安全区画へと出向き、倉本さんたちを待っていた。
ひたすら悩んで待機していた俺の前に、倉本さんと旅支度の青年に何故か一匹の犬がやって来た。
「さーて、やるとするかいな」
「倉本さん……俺」
俺の落ち込みを見兼ねたのか、一瞬何をされたのか、理解できなかった。
頬に重い一撃。
俺は倉本さんの拳をもろに食らう。
「立ち止まんな。
君に時間はあらへん。
落ち込むならやることやってから後にしな」
非情というわけじゃない。
彼らだって同じなのだ。
仲間を失った苦しみにもがきながらも、立ち止まらない。
鈍痛が来る頬を抑えながらも前を進むしかなかった。
再び立ち上がることを選んだ俺だが、倉本さんは銃口を俺の心臓に当てていた。
「えっ……?」
「一度、死んでくれや」
鈍い音と発砲音。
現実を切り離す最後の音だった。
「倉本さん……」
「そないな顔すんなや、黄瀬。
それにカザマも。
責任は俺が全部持つ。
薄々気づいとると思うがこいつの中には半分、死神が住み着いとる。
なら、死神の中心核“命屍鬼”があってもおかしくはない」
大量の血液が穴の空いた憂の心臓から流れているが、突如として現象する。
ビデオを巻き戻すように、血液が徐々に憂の元へと戻っていくと同時に。
憂の身体に異変が起こっていく……。
「……どうやら、読みは当たったみたいや!
二人とも、戦闘態勢や!」
「りょ、了解!」
「承知した!」
両手にマシンガンを持つ倉本。
拳にグローブをはめ込む黄瀬。
全身の体毛を奮い立たせる白狼犬、カザマ。
気を抜くことなく、目の前の現実に立ち向かう!
「……ここは」
そこは殺風景な場所だった。
白く濃い霧がかかっていて周りはよく見えないが、広さはだいぶあるようだった。
こんな場所に何故いるのか?
さっきまで旧市街地にいたのに。
……そうか。
倉本さんに撃たれて死んだのか。
撃たれた箇所にはしっかりと血痕が残っており、手のひらは血で真っ赤になった。
死んでしまったなら仕方が無い。
やることなすこと、全てを失った俺は退屈しのぎに周りを歩いてみた。
「これって……」
どんなに時が経とうと忘れもしない場所。
五人衆が結集した、小学校。
立派なグラウンドからうっすらと見えた巨大な建造物の前まで歩くと、玄関は空いており無意識の内に入っていった。
だが、入った直後に校内の放送が鳴り響く。
『ヤッと、来タな』
「誰だ……?」
『オイおい、忘れルナよ。
俺様、オマエだ、人間』
その声は低かったり高かったりしているが反射したかのように自身の声と全く同じだった。
だが、喋り方は死神と同じようにも思えてしまった。
「コ、ろ、セ』
筋骨が元の何倍以上にも盛り上がり、肌が真っ白になった怪物の半身。
もう半身は人間なのだが、いつ怪物と同等の姿になるか分からない状態。
荒木 憂は自身の死神に意識を乗っ取られていた。
それでも倉本、黄瀬、カザマの三人相手に手こずるどころか押している。
倉本の残り弾数はマシンガンの予備弾倉200発が一つ、拳銃10発。
黄瀬は片腕が折れて負傷している。
カザマの咥えたナイフは刃こぼれがなり始め、ヒビが入っている。
現状は半死神が勝っていた。
「ヤバいっすね……。
今までの相手の中で手強さ五本指に入りそうですよ、これ」
「どうやら、死神の力だけではなく自身を喰らってコロシガミの力を強化しているようだな。
その証拠に近接格闘以外、他の攻撃方法はない。
うむ、距離を詰めずに戦闘不能にしなければならないわけだ……」
「もう一つは時間制限や。
もう半身に死神化が起きれば……もう元には戻れへん。
下手すれば、俺ら以上の力を持った死神になる……!
だから、俺が危険と判断したら殺せ」
「こ、ろ、コ、ス……殺ス!』
一刻の猶予もないまま、怪物は三人に襲いかかる!
「俺の中の死神なのか……!」
『ソウだ、人間。
俺様、人間、要らナイ。
ダカら、殺す!』
「なんで……お前みたいのが俺の中にいるんだよ!」
『ソレ、俺様、知りタい。
人間、食らウ、絶対。
ケど、今は、中にイル。
オかしイ、俺様、喰らわレてる?』
「どういう意味だよ、それ……」
『人間、知る必要、無イ。
今カら、喰ラうから!』
宣言と共に放送はノイズ音だけが響く。
それなら放送室まで出向くまで!
一階職員室の奥にある放送室まで廊下を走り、手前まで来たら強引に扉を開けた!
しかし、そこは放送室ではない。
篠原高等学校。
一階の大ホールに出てくる。
入って来た扉は自動で閉まっており、戻れない。
周りは何もかも変わっていない。
日常の姿ではない、非日常。
床や壁は血で赤く染まり、窓ガラスは割れている凄まじい状態。
そこへ微かな声が聞こえてきた。
一人、二人、三人……もっといる!
何かに引き寄せられるように玄関や廊下、階段から寄ってくる足音が聞こえていた。
だが、足がおぼつかない者や全身血塗れの者、最悪四肢の一つが失っている者すら誰一人として死ぬ間際の重傷者だった!
「た、助けて!」
「荒木くん!」
「い、嫌だ!」
「苦しいよぉ……」
「痛い、痛い!」
「辛い……なんで」
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
……呼吸がままならない。
早く打つ心臓の音が鮮明に聞こえてしまう。
篠原高校のみんなはあの時にもう……いないはずなんだ。
だから、ここは違う……違うんだ!
みんなの苦しそうな声や身体が俺を困惑状態に陥らせ、そこへ傷口に塩を送るように追い打ちが来る。
「お前は無傷なの?」
「オマエハ無傷ナノ?」
「オマエだけ」
「オマエだ」
「オマエが死ねよ」
「や、やめてくれぇーーーー!」
俺が、俺が……!
みんなを……殺シタ?
「殺す、殺セ、殺してシマえ!』
遂に半身の侵食が始まる。
つまり、人間としての荒木 憂が喰われ始めている証拠。
腹と背中にかけて、腕や脚に向けて怪物へと変化していく……!
「ぐっ……倉本さん!」
「……ここまでや。
殺せ」
抹殺命令。
ホムンクルスの掟には極力、命を奪わないのが定められいる。
しかし、そうでもしないと自身がやられる場合の緊急時や死神の駆除のみに発生する。
今回の特例は二つともに当てはまるため、迷う暇などなかった。
こちらが先にやらなければ、やられる!
申し訳ないことをした、と反省しながら倉本たちは怪物を排除する!
「俺のセイだ、俺のせいデ……」
地面に尻餅をついて頭を両手で抱えてしまう。
最悪の事態を想定せずに勇者気取りで死を拒み続けたからだ。
力を持ったから……。
誰か助けてくれ……。
「なーに、やってんの?」
背中にピッタリと体温を感じる。
ここには俺と俺の中の死神だけしかいないのに。
どうして……?
「それはね、私が君にとっての大切だから。
ほんとうに嬉しいなぁ。
ちゃんとお話したかったよ、荒木」
俺が、大切にしていた人……。
いっつも俺の背後に抱きついてきて、俺を驚かして楽しんでいた。
あいつと一緒の声……。
「安達……」
「目が覚めた?
君はもう一人じゃないんだよ。
一、二回間違ったって折れないのが荒木じゃなかった?
男の子なんだよ、がんばれ」
……わかった。
もう少しだけ、頑張るよ。
背中から離れていく体温。
でも、心は暖かい。
……助けられてばかりだ。
次は、俺の番。
暗闇に閉ざされた世界。
空高く真上に手をかざせば、暗闇は崩壊し光が射し込む……!
「う、ぐ、ガ!』
怪物は突如として苦しみ始め立ち止まる。
それを見兼ねた倉本たちは戦闘を中断し、見守るしかなかった。
もう一つの可能性に掛けて。
「覚エて、いろ、人間!』
去り際の悲鳴をあげると、先ほどまでの白い肌は徐々に赤みを取り戻し、浮き出ていた筋骨も元に戻る。
しかし、腰にまで伸びる白と黒の混合色の長髪に赤い眼が両目に浮かび上がる。
「お前の力、借りるぜ」
半死神化制御版のような形となり、完全に意識は人間の荒木 憂だった。
「とりあえず、戻ってこれたみたいやな。
っとっと……!
まぁ、無茶は禁物や。
さっきまで俺らと戦っとったからな」
「そう、みたいですね……」
元の姿へと退化し、身体の自由が利かなくなって素直に倒れていった。
そこを倉本さんに抱えられ、頭を打つようなことはなかった。
だが、周りは荒野になっており、建造物はだいぶ破壊されていた。
倉本さんたちも既にボロボロ。
これが本来の自分。
もし、あのまま死神に喰われていたらと思うとゾッとする。
俺は容易く人を殺めてしまったかもしれない。
今後は危機的状況になるまで、この力の使用に制限をかける必要がある。
戦闘終えた俺らが休息していたとき、ホムンクルスのメンバーが息を切らしながら走って来た。
「く、倉本さん!た、大変です!」
「ったく、次から次へと……何や?」
「久賀さんと黒薙さんが、負傷しました!」
そして、また不穏な影がやってくる。
お久しぶりです、戯富賭です。
簡潔に説明します。
先に書いていた本編データが白紙です。
(脳内設定も白紙です泣)
なので、内容に食い違いが生じる可能性があります。
それを考慮した上で、全力で頑張っていきます。
憂の中の死神が登場しました。
こいつの正体はそもそも何なのか、何故人間の中にいるのか。
それを書くのも読んで頂けるのも楽しみです。
そして、倉本さんたちの安定の強さ。
更なる戦いはこれからなんですけど。
次回は外伝です。
こちらの方はもう少しですね。