Day:X
絶望は突然として訪れる
これは幸福と不幸の狭間
『……共鳴率上昇、脈拍正常。
彼の身体的問題は異常無し』
『しかしながら、突然こんなことをしてもよろしかったので?』
『いいの。それとも、私の判断は間違い?』
『い、いえ!そんなことはありません!』
『そろそろね……』
ーー絶望だった。
もうこの一言以外に何も言葉がない。
家族が誰一人としていなくなった。
どんな場所でも見知った町は血塗れ。
どれだけ走ろうとも誰にも会わない。
だ、誰かに会わないと!
学校に着くが、学校も周りと同じような状況。
それでも生存者がいることを信じて、校内へと入る!
しかし、期待は外れ予想だけが当たった。
生存者なんていない。
外では人の姿を見なかったが、廊下や教室で無惨にも倒れる生徒や先生たちはいても死んでいる。
その光景だけでもうダメだ……!
必死になって階段を上がって、自分の教室へと向かった。
それでも……絶望でしかない。
「橋本、北穂、周防、湯野川先生、みんなぁ……!」
誰も起き上がる者はいない。
壁に横たわる橋本、その隣に倒れていた北穂、仰向けで床に着き背中を見せなかった周防、教卓にうつ伏せる湯野川先生。
他のみんなも同じような体勢でピクリとも動かない。
……安達。
安達だけが教室にいない……!
もしかすると、他の場所でこの事件の発端から逃げて隠れているかもしれない!
それとも、まさか……いやそんな事はない!
気が動転し過ぎている!
「どこだよ、安達……?!」
安達の名前を叫びながら走り回った。
一つ一つの教室と廊下で死体の山となった生徒たちの顔を見るけど、安達はいない。
最後の体育館。
そして、見つけてしまった。
体育館の中央、ただ一人で立っていた。
「安達……なんだよ、お前は無事だったか」
言葉を選んでしまった。
本当ならこんな絶望の引き金が何なのか、全てを知っている気がして。
だから、またここから。
最初から、一からやれて絶望の元を叩くつもりだった。
「安達……?
なんとか言えよ!」
何も答えない安達に対して、精神的におかしくなり始めてた俺は激昂して前へ進んだ。
安達の肩を掴んだ瞬間。
……安達の身体が全て俺に預けられる。
「安達……お前も、なのか」
俺だけしか生きていない。
安達も、もう死んで……
「なぁに、その顔……」
「お、お前?!」
「死んでないよ、私は……げほっ、げほっ!」
「やめろ!もう、喋んな……」
無理して立っていたのか。
俺のために、腹に穴開けて立ち尽くしてくれた。
俺のちょっとした行動だけで倒れるぐらい衰弱していたのに。
安達の体温が徐々に冷たくなるのが直で分かる。
「そんな、顔、初めて、見た……」
「だから、喋んな……もう」
「綺麗な、涙……返事、聞きた、かった……」
「こんなときに……お前は馬鹿か?
苦しいときに苦しいって言えよ。
辛いときに辛いって言えよ。
お前はいつだってそうだ!
笑って全てを誤魔化している!
だから、俺は……!」
「あはは……うん。
それだけで、充分、充分……」
呼吸が少ない。
身体も冷たい。
安達の目が朦朧している……。
「私は、君が、大好き……」
そして、安達は笑顔を浮かべて。
最後の言葉になって。
死んでいった。
「安達……!」
血塗れた彼女の身体を抱き締めた。
「うああああーーーっ!!!」
これが悲鳴じゃなかったら。
嬉し恥ずかしい叫びだったら。
安達は笑ってくれていたかな?
後悔の闇はまた俺を別空間に誘った。
別空間での校内には今まで見た中で最大級の死神たちが群がっている。
渦巻いているように、死を集めるように。
お前らが……殺したのか。
お前らが……死を誘ったのか。
お前らが……俺の日常を壊しやがった!
『精神安定ライン、突破!』
『脈拍が急激に上昇中!』
『共鳴率50……70……今だに上がっています!』
『こ、これ以上の精神関与は危険です!
一時停止を!』
『やめなくていいから』
『何を考えているのですか?!
このままでは死んでしまいますよ!』
「はあぁっ!」
これで……全部だ。
この辺り周辺の死神は倒した。
これで元に戻れば……。
「戻れ、ない……」
別空間にはどうやってきた?
俺を起点として空間は変わった。
今までは何処かしら出入り口があったが今回は俺自身の力で、無理矢理開放した。
それに無我夢中でここに来ていたんだ、全部あやふやだった。
つまり、入口だけで入ってしまった密室状態。
「待ってくれ!
俺は、戻らないといけないんだ!」
考えても、考えても答えは出ない。
ここからは出られない。
しかし、思考をぐるぐると回転させている余裕は俺になかった。
「そんな……!」
死神は増えている。
今まで戦ってきた死神もいた。
戦ってこなかった死神もいた。
ここの空間に俺だけしかいない。
「いいぜ……お前らさえ、いなければいいんだろ!!!」
俺の体力が先か、お前らの数が無くなるのが先か!
殺し尽くしてやる!
『全安定ラインを越え、レッドゾーンに突入!』
『もう持ちません!』
『あなた様は彼を殺す気ですか?!!』
『ううん……もういい。
この場を放棄するよ。
彼を除いて、ここから退け』
『な、何を仰るので……ぐっ!
何事だ?!!』
『彼の姿がありません!』
『な、何だと』
『さてさて……どこに行ったんだい?』
「もう、空っぽだ……」
別空間とはいえ途方もない。
力を使い果たしてみれば、町はぐちゃぐちゃ。
あれだけの数の死神相手に町を守りながらなんてことはできない。
崩壊した町。
死神はいつまでも増えて続けている。
「ひとまず、ここから出ることを考えて、ぐっ……!」
町を越えた森林地帯まで逃げた俺は傷ついた身体と力の入らない状態に限界を迎え、つまずいて崖から転落してしまう。
ものすごく眠たい……。
身体が重たくて……。
血が……止まらない。
結果、俺も一緒か。
何も変えることは出来なかった。
あの絶望だけが変えれなかった。
……そっか。
今日って、俺の誕生日だ。
あはは、ダサいな俺。
こんな状態で思い出すことだったか?
いろんなことがあり過ぎて忘れちまってた。
まぁ……どうでもいい日か、本当は。
嘘の誕生日なんだし。
今度こそ、助からないよな。
せめて、もう一度でいいからあいつらと会いたかったな……。
ーーー夢は終わりを告げるーーー
「……どうした?」
「いえ……何でもありません」
「珍しいな、お前がボーッとしてるなんて。
優等生の清水 冬至くん」
「からかわないで下さい」
「ありゃありゃ、怒らせてしまったか」
ーーー時を同じくしてーーー
「報酬量は充分、満点。
これが今回の情報だ、受け取ってくれ」
「いつも済まないな、島寺のダンナ」
「君は我々の常連だ、気にするな」
「あらゆる情報を売買する若頭の言葉とあれば、ありがたいねぇ」
ーーーバラバラとなった者たちはーーー
「あんたがここの王か?」
「いかにも、俺が今川 颯だ」
「その命、頂戴する!」
「いいぜ……その潔さだけはな!」
ーーーそれぞれの場においてーーー
「ぜってぇ、鷹さんは取り戻す!」
「気に入らなかったけど、あの人には借りがある」
「相変わらず皮肉れておるようだが、その借りは私にもある」
「タカにまた会う」
「みんな、同感みたいやな。
わいも腑煮えくりかえりそうだ。
せやけど、今はやる事なす事考えてやりや」
ーーー動き始めているーーー
「……おい」
声……?
誰だ……?
砂煙で前がよく、見えないし……。
身体が痛くて、眠てぇ……。
「よく耐えたね、荒木 憂。
君はようやく選択を得られたんだ。
そして、それが最悪の結果にならないことだけを願うよ。
特異点のコロシガミくん」
next stageーー
第一章が終わりました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この小説を作るに当たって、始めは暗い感じで進めたいと思っていたのでここまで来れて良かったです。
ここまでを振り返って、荒木くんは最初から根暗なわけではなく昔は真逆です。
だからこそ、年を取って変わりゆく現状に浸透して性格を変形させてしまった。
そうして、今の荒木くんが出来上がったのです。
今回の章で荒木くんはコロシガミという異質の存在になったことで世界観を広げた。
そのおかげで昔の自分を取り戻しつつあった。
しかし、今回の終わり方が壮絶だったのには訳があります。
そこはまた続編で次々と明かされていきます。
叛乱のコロシガミはここから二手に分かれます。
第二章と外伝。
第二章は荒木くん視点のまま進行しますが、外伝は様々な人の視点で進行します。
第二章では明かされていく謎の答えに驚いていってもらいたいし、外伝では様々な人の想いを感じて欲しいと思っています。
それでは今後もよろしくお願いします!