6話:夜の瞳
学校で天螺とあまり行動を供にすべきではないと言う結論に至り(じゃあ、最初に言っていた一緒に居た方が良い云々の話は何処行ったんだよと言いたいが)、結局、別行動を取っている。しかし、最近、《魔真衆》の動きが活発になっていると深蘭が言っていた。何でも、ここらで一つ何かしでかすのではないか、と。
「月世。お前は、何を考えているんだ……」
俺が呟いた。
「さぁ~ね。何考えてるんだか……」
その声に驚き、俺は、振り向く。言葉の内容に驚いたわけではない、いや、言葉の内容にも驚いたのだが、声にも驚いたのだ。その声の主は、秋延妖。
「妖……?」
「うっす、黎希」
その目は、いつもとまったく違う目をしていた。いつものふざけたにやけ笑いじゃない。とても真剣な瞳。何だ、この瞳は。何だ、コイツは。
「ねぇ、知ってる?僕が黎希に興味を持った理由」
興味を持った、理由?
「天壌月世。アイツと十年以上一緒に居た存在。それが僕には、とても興味深かった。そんな存在がありえるのか、最初はそう疑問に思うくらいだった。でも、君にあって、ああ、この人なら、アイツと十年以上一緒に居れても不思議じゃないと思ったんだ。なあ、黎希。月世を、月世を助けてやってくれないか?」
ゾッとするような瞳。黒い瞳の奥に渦巻く、何か。それは、昔、見たことのある……
五年前。八月。その日は茹だるような暑さの日だった。月世は、俺に、「月の魔法」を見せてくれると言うのだった。その魔法則は、長く複雑。雑念があってはならない。
「月光:天に在るは、月。周りを囲む、星々と静寂。それは、夜の闇を連れてやって来る。侵略の咎」
俺は、月世を見た。その瞳、――黒い瞳の奥に渦巻く、月と星。それは、美しくもあり、恐ろしくも在る。
「咎人は、誰。それは、――」
完成する「月の魔法」。名称は、「月光」。元来、魔法則は、「魔法名称:魔法則」という形で成り立っている。むしろ魔法名称しか言っていない俺や天螺の魔法則は特別なのだ。それは、置いておいて、その目だ。妖と同じ目。
「その目、何なんだ……」
「目?」
「そう、その目だ。月世と同じ、『夜の瞳』」
本人には、自覚がないようだが、まったく同じ瞳をしている。
「月世と同じ目、か。フフッ、まあ、そうかも知れないわね……」
そう言って、妖は、帰った。それにしても、「知れないわね」とは。いつもとは違う口調のうえに、まるで月世のようだった。妖、アイツは一体。
秋延妖。よく考えると、アイツのことは、知らないことが多すぎる。俺の親友と評したが、その実態、高校に入ってから、学校にいる間は、休み時間もよく一緒に居た。しかし、外で遊ぶことはなかった。家の場所、家族、血液型、誕生日、全てを知らない。彼女は、一体……。月世の関係者?しかし、長年、アイツと連れそった俺でも知らない。
「どうかしたの?黎希」
天螺の声に、ハッとなる。ボーっとしていたらしい。
「こんな人気のないところで、一人でボーっと突っ立ってると変な人みたいよ?」
「いや、ちょっとな」