24話:汐深
忍への説明は、ひとまず置いておいて、私は、《終焉》の気配を追うことにした。しかしまるで、存在しなかったかのように、気配が揺ら揺らと揺らめき消えてしまった。
「麗華、大丈夫だったか?」
黎希君が、傍から現れ、私の安否を確認します。
「うん。まあ、私はね。忍、怪我はない?」
巻き込んでしまった忍の安否を問う。
「だ、大丈夫。濡れただけ」
どうやら無事なようだ。それにしても、突然魔法なんてものを見せられて平然としているあたり、神経が図太いと言うか、無感情と言うか。
「黎希君。こっち、忍。同じクラスだから知っているよね。ちょっと、巻き込んじゃった」
町原忍。私の高校に入ってからのクラスメイト。
「町原忍です。こんにちわ四之宮黎希……」
忍が挨拶をする。その時、黎希君が、忍を抱き寄せた?!
「ちょっ、何やって!」
私の声を遮ったのは、黎希君。
~黎希~
俺は、目の前の、忍と名乗る女性の胸倉を掴み、引き寄せた。
「お前、」
俺が口を開いた瞬間、女性は、いや、コイツは、手を払う要領で、俺の全身を合気道のように、払い上げた。全身が宙に浮く。ソレは、一瞬。気が付くと、次には、もう、地面に伏せていた。今の業は、忍術《椋落とし》。相手の重心を一瞬にして、移動させる。手を払うときに、俺の手を中心に、重心をずらして、後は、そこを挫くだけ。
「痛ぇな。《椋落とし》使うなら事前に言えって師匠からも言われてるだろ?」
「チッ、と舌打ちだけしておきます。ついでに言うなら、《椋落とし》以外も、使う前に言うように言われていますよ?」
何故疑問系?まあ、いい。
「忍、知り合いだったの?」
「麗華。相変わらず鈍い。ワタシは、貴方を見張るように師匠に頼まれていた。本名は、忍じゃない」
「え?」
呆然とする麗華。まあ、そりゃそうか。
「ワタシの本名、ソレは。青葉汐深。かの、希咲深蘭さまの弟子にして、希咲に伝わる忍術の継承者」
汐深と俺は幼馴染だ。しかし、あるときを境に、コイツは姿を消した。修行の一つだ。任務とか言ってたか。とある場所でとある人物を観察すること。その対象が、麗華だったらしい。月世共々、コイツとはよく遊んだ。
「と言うわけで久しぶりデス、黎希。月世にも、まあ、匂いでばれるでしょうから後で言っておきます。あと、これだけは、言っておきます。絶対に変装は解きません!」
変装、いや、正確には、風装と言うのだが、これは、ほぼ完璧な変化といってもいい。
風装。正式名称、忍術《風纏》。その身に、薄い風を何重にも巻くことで、空気を操り、光の屈折や光の色彩の操作により、姿かたちを違ったように見せる。声も、風の間にある空気によって、調整され、様々な声色を出すことが可能だ。その風の魔法をはじめて使ったのは、どこかの家の凄い風や自然に特化した一族だと聞いたことがある。
まあ、ソレは置いておいて、今気づいたことがある。深蘭も五王族の希咲じゃね?そういえば、天螺が「帝華」云々といっていたが、何か有名人なんだろうか。とにかく、アイツの家も凄いに違いない。本人が化け物扱いされる怪物だからな。なんでも超人め。
あ~、もう、何か、色々とだるいから、俺は、帰る。




