23話:忍
私は、アイスティーを啜っていた。私は、麦が苦手だ。麦が付くものは、何でも嫌いだ。麦芽ゼリーも食べたくない。ん?麦芽ゼリーって知らない?給食のデザートで出たりするんだけど。まあ良いわ。とにかく麦が嫌いなの。
「美味しい」
アイスティーは好物。果実系のジュースはもっと好物。果汁百パーセントだとなおよし。
「麗華」
「ん?何?忍」
私のクラスメイトにして、前の学校からの付き合いの忍は、私のことを理解している。だから、こそ、
「はい、これ」
差し出されたのは、リンゴジュース。無性に飲みたかったのでありがたい。
「ありがと」
ジュースにストローを刺して飲む。冷たく甘い味が、口いっぱいに広がる。そしてスゥーと味がひいていく。リンゴの甘酸っぱさは後味が残りにくい。
忍とベンチに座っていた私は、不意に訪れた気配にハッとなる。
「……?どうしたの?」
忍の問いかけに答えられない。答える余裕がない。悪寒。寒気。不気味。アレは、《終焉》。
「天翔:空翔る天使は、天から堕ちることはない。夢を持ち続ける天使は、体に、白き羽が浮き上がる。さあ、祝いの風よ――始まりを告げよ」
降り注ぐ、不気味で不吉な終わりに、私の《始まり》が打ち消す。
「何、これ……」
忍の驚愕を余所に私は、《始まり》で、《終焉》を追う。
「天恵:地に恵みをもたらす天使は、夢を与える。夢を持ち続ける天使は、体に、白き羽が浮き上がる。さあ、恵みの雨よ――始まりを濡らせ」
《始まり》の魔法。ありとあらゆる、自然の成り立ちの魔法。ソレは、天変地異をも起こす。雨、雷、嵐、雪、地震、津波、全ての事象の成り立ちを司る、ソレが、《始まり》の魔法。
「きゃあ」
忍の悲鳴は、おそらく、急に降った雨を浴びたことによるもの。
どうやら《終焉》には逃げられたらしい。
忍に魔法を見られるは、《終焉》には逃げられるは、でいいことがなかった。さて、この状況、どうしたら良いのかしら……?




