21話:始まりの魔法
私は、彼の問いに、心臓が飛び出そうになっていた(無論比喩表現ですが……)。そして、驚きを隠しきれないのが、別の私だ。
――コイツ……、流石は椛様の子。ただの人間じゃないの?それとも、椛様の力の波長で、《始まり》を感知できるのかしら?
「《始まり》の魔法使い。《終焉》を防ぐ存在。そのくらいは、知っている。そして、それがお前だということも」
「何故、分かったの?」
私が抱いた疑問を、彼は、簡単に笑って答えて見せた。
「『四度の終わりが訪れる。最初は、天に、次に始まり、消える。最後に来る終焉』。この場合の天は、もう終わっている。次に始まりなんだ。ここまで来て、急に現れた『零の魔法』使い。影を潜めている《終焉》。それらを考慮したうえでの結論で、鎌をかけただけなんだけどな」
四度の終わりが訪れる。最初は、天に、次に始まり、消える。最後に来る終焉。この言葉、どこかで聴いたような……
――この詩は、故・永久日天理様の遺言ですね。天理様は、朱野宮家の縁者、『零』と『無窮』の生みの親と言われる「朱野宮煉羅」様の姪の娘で、確か、六人目の『無窮の魔法』使いだったかしら。
煉羅と言う人は、私の曾々々祖母の祖母に当たるらしい。まあ、とにかく遠い親戚だ。そしてまた、永久日天理と言う人も同じくらいに遠い親戚。彼女たちの残した魔法が、私や彼が受け継いだ魔法に繋がっている。
「それで、《始まり》とは正確には何なんだ?」
彼は、私に聞いた。
「《始まり》の魔法。それは、ある世界の魔法使い、《ジャンヌ・ダルク》が、《終焉》の罠にかかり、処刑されそうになった際、初めて発動したとされる魔法。世界を構築する因果律に偶然ヒビが入り生まれる《終焉》を排除するために、因果律が作った魔法なのよ。ある種、《輪廻》の魔法にも通じる魔法ね。まあ、《輪廻》は、人が、因果律を正すために作ったものだから、《終焉》と言う綻びを倒すのが目的ではないのだけど。
今まで様々な世界で、生まれてきた《始まり》は、主に、魔法の五家や五王族(?)や三神の末裔(?)って聞きはするけど、魔法の五家以外は、私も聞いたことがないから分からないわ」
~黎希~
魔法の五家とは、炎魔、木也、水素、土御門、風塵の五家のことだ。そして、五王族。これについては、父が昔言っていた。
「篠宮、希咲、天月、舞野、三縞の五つの家は、王の家系と言われていてな、五王族なんて呼ばれているんだ」
この中で、俺が聞いたことがあるのは、三縞だ。《輪廻》の魔法使いも貴重な魔法使いだから、有名なのは、分からないでもない。他については聞いたことがないが、まあ、有名な家々らしい。そして、三神。これが、俺が知っている三神ならば、家の近くにある神社が信仰している三つの神のことだろう。
|《蒼海空逆巻立之神》《あおみそらさかまきたつのかみ》。全てを捻じ伏せる神。
|《朱光鶴希狂榧之神》《あけみつるきくるがやのかみ》。全てのものに癒しを与える。
|《天辰流篠之宮神》《あまたつるしののみやのかみ》。全てをつなぎ、何者とも戦う武神。
この三神。末裔とやらは分からないが、おそらくそうだと思われる。三神は、かつて、世界を統治する支配者の戦争がどうのこうので、その戦死者の中の英雄扱いされていた三人が、神になったとされているとか……。まあ、そんな感じの凄い人たちが、《始まり》……つまり、因果律に選ばれるのだろう。
「私の朱野宮も、三神の末裔らしいし、黎希君、貴方の四之宮は、篠宮で三神の末裔らしいわよ」
四之宮は、四之宮?意味が分からないが、まあ良いだろう。
「貴方のお母さんも《始まり》だし、お父さんは《始まり》の縁者だったらしいから」
「なんで、俺より俺の家に詳しいんだ?」
父も母も《始まり》の話は、一切俺にはしなかった。
「私は、まあ、親戚だから、かな」
まあ、いいか。仕方ないし、コイツに、まずは、『零の魔法』を教えてやるか。そのときに、家のことを色々聞こう。
三神云々の話は
三神物語(http://ncode.syosetu.com/n5652bo/)の方をご覧いただけると詳しく分かります。
ですが、まあ、これ以降本編に登場しませんので、あまり関係ないです。ついでに言うなら、煉羅や天理も以降本編には、あまり関わりません。




