20話:ゼロ・ノイズ
俺と麗華、二人が同時に呟いたことから、少し、ざわめきだった状態になっていた。
「黎希、知り合い?」
「わたしが初めて見る人だけど?」
などと天螺や月世は、聞いてくる。
「朱野宮さん?お知り合い?」
などと、向こうも聞かれている。
「いや、まあ、なんつーか、親戚?」
「う~ん、まあ、親戚、かなぁ?」
母の親戚なのは間違いないし。
「親戚ってどういう?」
「えっと、私の叔母さんの息子さんが、黎希君なの」
「あ~まあ、そんな感じ?」
どうやら、俺の知らない家系図を向こうは知っているらしい。
「それって、従姉弟って言うんじゃ……?」
そう言われればそうか。しかし、「零の魔法」使い。うちの家の隔世遺伝なのだろうか?それとも、俺の知らない、母の事情が?向こうの方が詳しそうだな。
「まあ、初対面だし」
「ええ、初対面ですし」
そんな感じに、受け答えながら、この、もう一人の「零の魔法」使いを観察するのだった。
朱色の髪。正確には、赤系の色が全て入っているように見える。だが、何色かと問われたら朱色、緋色、桜色のどれかだろう。俺的主観だが、朱色と表現する。そんな髪を持つ彼女は、うちの母に似て、とても美人だ。どのくらい美人かと言えば、
天螺>>~(遠すぎるので一部省略)~>>月世>麗華>>>妖>恋奈>>一般人
みたいな感じだろう。ちなみに、深蘭を入れるなら、そうだな、月世の一つ上くらいだろうか。言うと調子に乗るから言わないが。
先ほどの表現で分かるのは、天螺が美人と言うことぐらいな気がしないでもないが、まあ、いい。さて、そんな麗華だが、どうやら「零の魔法」を制御できてないようだ。常に周囲に、「ゼロ・ノイズ」(俺命名)を放っているのが、明らかな証拠だ。
「ゼロ・ノイズ」。ノイズとは、雑音のことなのだが、さながら雑音のように、「零の魔法」を周囲にばら撒いていることを指す。前にも言ったように、寝言なんかで魔法が無意識に発動するなんてことはない(深蘭は例外だ。考えるだけ無駄)。しかし、「ゼロ・ノイズ」は、無意識に出ている。それには、理由がある。
「ゼロ・ノイズ」の発生条件は、「零の魔法」を使用すること。俺が、今日の朝(早朝よりも早いが)から感じていた異常な「零の魔法」の気配も、この「ゼロ・ノイズ」である。おそらく、今日の未明に使ったと思われる「零の魔法」だが、そこにある何かを消すために発動しても、「零の魔法」は、自然に消滅するのに時間がかかるか、消えないこともある。その魔法が自然消滅しない限り、「ゼロ・ノイズ」は発生し続ける。これについては、「零」と言う概念に関係するのだが、まあ、説明すると長くなるので、省略する。今は、「ゼロ・ノイズ」を発生させない方法が先だ。まず、零と零は、密接に関わっている。だから、「零の魔法」を発動した際に生じる「ゼロ・ノイズ」は、「零の魔法」で極限まで減らせる。これが消す、第一の方法だ。
そして、ここで、「魔法解除」と言う概念について説明する。「無窮の魔法」には、自らの呪縛を解くために、「逆行の魔法」と言うものを発動できる。それは、「無窮の魔法」自体に組み込まれたプロセスであり、はずせないものである。この、「逆行の魔法」は、「無窮の魔法」の逆を行う魔法で、簡単に言えば、「無窮の魔法」を解除する魔法である。無論、「無窮の魔法」未使用時に発動したら大変なことになるが、それが出来ないようになっているのは、当然のことである。
しかし、「零の魔法」に「逆行」なんて言うプロセスは組み込まれていない。だから、今までは、容易に発動できなかった(らしい)が、俺は、「零の魔法」で、魔法消滅までの時間を減らしたのだ。それこそ、魔法消滅をすぐに「無」にすると、在ったはずのものがなくなり、大変なことになる、何を言っているかと言うと、空気の場合、そこにある空間の空気がなくなってから自然消滅するまで、空気が除々に満たされていく。しかし、その「空気が除々に満たされていく」行程を「無」にすると、それ自体がなかったことになる。つまり、空気は満たされずに、終わる。しかし、「零の魔法」で解除をすれば、「空気が除々に満たされていく」行程を「僅かに」残す。そうすれば、そこに「空気が戻る」行程が健在のまま、すばやく自然消滅するのだ。これが第二の方法。基本的に第二の方法の方が有効。
つまるところ、俺の「魔法解除」も、魔法のひとつに当てはまるのだ。しかし、「零の魔法」しか知らないであろう麗華は、「ゼロ・ノイズ」が常時健在なのだ。この「ゼロ・ノイズ」は、魔法が自然消滅するまで消えない。その上、「零の魔法」使いには、共鳴的に、それが発する、異常な「無」の気配を感じるので、時よりゾッとなる。
「極」
見かねた俺は、「ゼロ・ノイズ」に「零の魔法」を発動した。本来なら。第二の方法で、「ゼロ・ノイズ」を完全に消したかったが、それは、現場に行かないと無理なので、第一の方法で応急手当。すると、今まで存在していた、不快なそれは、影を潜めた。
「ったく、なっちゃねぇな、『零の魔法』使いさん」
そして、俺は、麗華に話し掛けた。
「今までのノイズを抑えたのは、黎希君?」
どうやら、朝、その場しのぎで呼んだ名前の呼び方で通す気らしい(呼び捨てはなかったことにするらしい)。
「その通り、《ゼロ・ノイズ》も抑えられないんじゃあ、ダメダメだぜ」
~麗華~
「ゼロ・ノイズ」、それは先ほどまで私の周りを取り巻いていた謎の「無」の気配だろう。彼は、それを知っていた。もっと言うなら「視て」いた。アレが知覚できるのは、原則として、「零の魔法」使いだけなのは、別の私に確認をとってある。となると、この人は、
――間違いないな。「零の魔法」使いだ。
別の私も確信に至ったらしい。
「貴方は『零の魔法』使い、なのよね?」
私の問いに、静かに頷き、
「ああ、そうだ。俺は、零と零を司る魔法使いだ。キミは、零と零、そして、《始まり》を司っているんじゃないのか?」




