14話:月世物語Ⅲ
零と零。それは確かに違うものである。例えば、降水確率はレイパーセントであって、ゼロパーセントではないように。それには、明確な違いが存在している。
零は、まったくない。完全にない状態を指す。しかし、零は、微かにある状態を指す。だから、降水確率が0%でも雨が降るが、それは、レイパーセントなので間違っていないのだ。微かにあるのだから。天螺の転校初日の俺と天螺のやり取りも、これを意味している。レイと掛けているなら間違いで、ゼロと掛けているなら正解云々のことだ。
妖が抑えている、いや、抑え込もうとしている非物理的な何かは、確固たる意思を持った生命体であることは確かなようだ。
「な、何?アレが、急に縮小した?」
俺の魔法を理解したのか妖(月世)は、にこやかに笑いながら、
「流石、わたしの零の魔法使いだね」
「まあな。俺もやるもんだろ?」
おどけ混じりにそう返す。
「うん、相変わらず」
俺と月世のやり取りを不思議に思う月世(妖)。ややこしいので以下、括弧の中表記でいくことにしよう。
「何したんだ。黎希。奴、支配できなくなって出て行った」
「俺は、零の魔法使い。奴の支配権、存在を零にしただけさ……」
そう、完全な消滅ではないから、因果律の崩壊は起こらない。
「月光:天に在るは、月。周りを囲む、星々と静寂。それは、夜の闇を連れてやって来る。侵略の咎。咎人は誰?それは、――太陽と月」
月光の魔法により、月世であった妖は、妖に。妖であった月世は、月世に。これで完全に元に戻った。
「そういえば、結局、お前の身体に入っていたのは、何だ?」
俺は聞きそびれていたことを聞いた。
「それは、終焉。終焉の魔法使いだ。この世を終わらせる終焉。今は、お前に力を減らされたから、しばらく行動は起こさないと思うが……」
「つーことは《魔真衆》は、潰れたって言うことで良いのか?」
月世を乗っ取った終焉が作った《魔真衆》だ。月世が元に戻れば、潰れたに違いない。
「ううん、違うの。元々、あの組織は、終焉が一人で操っていたの。わたしだけじゃなく、メンバーも。違ったのは、何人かだけ」
つーことは、まだまだ、奴が操ってる奴がわんさかいるってことか?流石にやべぇな、おい。
「まあ、まずは、目標一つ達成、か」
ここで、説明をすると、月光は、人の精神を移す魔法だ。よって咎人は、二人選択しなくてはならない。しかし、アイツは、五年前のあの時、
「咎人は、――わたし」
と詠んだ。そのときに、精神が自分の身体から一度離れ、もう一度戻った。そのときに、終焉の魂が一部憑依させられた。それから、終焉は、除々に、月世の力を蓄え、そして、月世を《魔真衆》のリーダーに仕立て上げた。というのが、ことの真相だった。




