13話:月世物語Ⅱ
零の魔法。俺の持つもう一つの魔法だ。そのことを知るのは、俺を除けば、月世だけ。
「どういうことだよ。お前を救うって……」
「わたしの体は、今、操り人形として使われている。でも、陽が、あれを押さえている今なら、あの体を取り戻せるはず……。だから、わたしを助けて……!」
これは、マジっぽいな。
「何処にあるんだ?」
「え?」
「お前の体は、何処にあるんだよ……」
俺は、月世に問う。
「こっち」
全力疾走をする俺と月世。そうして、数時間走ってたどり着いたのは、あるマンションだった。
「ここに、わたしの体が。今は、陽が押さえていてくれてるはずなの」
……ここに。
「何者だっ!」
背後からの怒声。どうやら見張りに見つかったらしい。
「朧月:天に在るは、月。周りを囲む、星々と静寂。そして、月は揺らぐ。朧気に映るそれは、侵略の咎。咎人は誰?――それは、わたし」
俺と妖(月世)の体が霧に包まれる。そして、姿は完全に消えた。正確には消えていないのだが、自らが発光しているわけでもない俺や月世は、この暗がりの中では、相手に見えない。
奇襲をすれば、相手は、簡単に気絶させられる。実際は簡単でないのかもしれないが、俺は、曲がりなりにも深蘭の弟子だ。あの馬鹿も武術忍術体術剣術魔術には長けている……つーか、あの酒飲み馬鹿もありえんくらいの何でも超人だ。拳だけでドアをぶち壊すほど。魔法無しなら、俺を人差し指一本で殺せるはず。
まあ、と言うわけで、朧月のおかげで、相手を奇襲し、倒すことを繰り返し、とうとう、建物の最奥にたどり着いた。
「ここ、か?」
「うん」
その扉を開く……。
――キャアアアァアアア!
耳を劈く悲鳴が聞こえる。この声は、――月世?
「つき、よ……?」
悲鳴の奥、微かに聞こえた声。それは、確かに、「月世」を呼ぶ声。
「れー、き……?」
そして、俺を呼ぶ声。
「やっと、やっと来たん、だね……。僕の役目は、ここまで、さ……」
月世の身体にいるのは、間違いなく妖だ。
「姉さん、わたし……」
「使え。魔法で、僕ごと、コイツを消せ!」
妖は、何かを抑えている。しかし、何かが強すぎて、制御権を奪い返されそうになっている。……。………………………………、アレを使えば、いけるか……。
「コイツは、不滅だ!黎希では、ダメなんだ。でも、月世なら……」
不滅……?すなわち、無限。なら、零の魔法は因果を崩す。でも、
「ダメだよ、姉さん。だって、……だって!」
「早くしろ!僕の限界が……」
二人のやり取りを理解しつつも、無視する。そして、
「極」
俺は、魔法を発動させた。俺の魔法は、妖が抑えている何かを零にした。




