12話:月世物語
零。俺は、「零の魔法」使いだ。ゼロとは何もないことを表す。そして、俺は、もう一つ魔法を持っている。その魔法は、――
「月世。お前は、――」
魔法。いつか、お前を、……
「だからね、黎希。キミはキミだけの魔法を使いなよ。キミはわたしの、わたしだけの――の魔法使いなんだから。でも、その魔法は、キミとわたしの秘密だよ。その代わり、わたしの秘密の魔法も教えてあげるから」
いつかの約束。俺と月世、二人だけの約束。だから、俺は――の魔法を使うことはないだろう。この先、ずっと。
三縞の話を聞いてからどの位経っただろうか。といっても数週間程度なのだが。あれから、俺と天螺は行動を一切起こさなくなった。《魔真衆》もここしばらくは、主だった活動を控えている。
「黎希ぃ~!ちょっと、買い物してきて~」
酔っ払った深蘭により頼まれた俺は、外に買い物に行くことになった。
「まったく、だるいな」
「また、買い物?」
後ろから掛けられた声。それは、妖の声だ。
「クスッ、またまた深蘭姉に、厄介ごとを無理やり押し付けられたんでしょ?」
身の毛もよだつとは、まさにこのこと。全身に寒気が走った。今の口調は、間違いない。月世のソレだ。
「クスッ、相変わらずこき使われてるみたいだね。――の魔法使いも、こういう時はただの人間だもんね」
コイツ、何だ?何故、俺と月世の約束を……。――の魔法のことを知っているんだ。妖、お前は、
「お前は、誰だ……?」
「わたしは、月の魔法使い。キミの月世だよ」
月世……。間違いない、俺の、俺の知る月世そのものだ。
「ずっと、ずっとこのときを待っていたんだよ……。さあ、今こそ、わたしを助けて。わたしの『零の魔法』使い」




