10話:517
三縞恋奈。普通の顔立ち。悪く言えば目立たない。そして、性格だが、キャラを演じているのか素なのかは分からないが、丁寧な感じはする。しかし、この中途半端な時期に急に転校してくるとなると、怪しさは100%。俺の予想が正しければ、「輪廻の魔法」使いだろう。では、なぜ、こうも怪しい時期に転校してきたのか……、怪しまれる可能性が高すぎる。逆に考えると、怪しませて、行動をとらせないためではないだろうか。例えば、警察がそこにいると分かっていって、事件を起こす奴はいない。それと同じだ。警察が三縞、俺と天螺が事件を起こす犯人。と、まあそういうこったろう。
「四之宮黎希君……、少しお話ししたいことが」
「ん?良いぜ」
そして、奴が動き出した。話ってのは、どうせ……
「永久日天螺は、鋭い様でどこか抜けてるみたいね……」
そんな言葉から始まった三縞の話。場所は、屋上だ。普段は立ち入り禁止だが、鍵が壊れていて、誰でも入れる。
「でもって、貴方は、抜けているように見えて先を見通している感じがする。だとしたら、気づいているんでしょう……」
「『輪廻の魔法』使いか……」
三縞は俺を睨みつけるように、見た。
「魔法使いってとこだけ分かっていれば、合格ってしようと思っていたのに、まさか、魔法名称までもバレてるなんて、ね。やっぱり貴方は、侮れないわ……」
そう、その目は、俺を敵としてみている目だった。睨んだ瞳は、射殺すように鋭く、子供が見たら泣いてしまう様な。
「貴方が言う様に私は輪廻の魔法使いよ……。目的は、」
「俺と天螺の監視……、いや、『零の魔法』と『無窮の魔法』がぶつかって因果律に綻びを生むことが無い様に、魔法の監視と言うべきかな」
俺の考えが確かなら、これが正解だ。
「半分正解。私は、二つの目的があって、ここにいるわ……。もう一つ、貴方達以外のことで」
「秋延妖のことか?」
俺が即座に思いついたのが、それだった。
「その通り」
一瞬顔を引きつらせてから、呆れたようにそう言った。
「秋延妖は、偽名よ。本名は、――天壌陽。《魔真衆》の天壌月世の姉」
……?ちょっと待て。天壌陽?月世の姉?アイツに姉がいるなんて聞いてないし、
「それって、マジなのか?」
「本当よ」
ちょっとにやけた。俺が予測できてなかったのを喜んでいるようだが、俺の思考は、それどころではない。月世の姉?
「そして、天壌陽は、『陽の魔法』使いなの……」
「陽の魔法」。それは、「月の魔法」と重なると因果律が崩壊すると言われている。
「私は、彼女を危険視しているわ……なぜなら」
「アイツが『陽の魔法』を使って、月世が『月の魔法』を使うと因果律に影響が出て、世界が壊れるからか?」
またも、三縞の言うことを先取りしてやる。舌打ちを打つ三縞。それに対し、俺は、
「そもそも、因果律ってのは何だ?」
こちらからの質問。相手の得意分野を語らせ機嫌を取ろうと試みた。
「因果律。それは、世界そのものを構成する確率。乙女ゲーで言う選択肢とルートみたいなものの重なりよ……。分岐点とそこを始点にいくつも枝分かれするはずのルートのうちのどれを通ったかが因果律なの。要するに、絶対に起きなくてはならないような歴史の重点から枝分かれを繰り返し、今の世界が成り立っているの……
例えば、恐竜の絶滅、地殻変動、国の成り立ちみたいな大きなことから、缶を道端に捨てる、石を蹴っ飛ばす。もっと言えば、あの子と話す、話さない、一歩踏み出す、踏み出さない、右足を踏み出す左足を踏み出す……みたいなレベルの話まで、全てが因果律なのよ。そこでどちらを選ぶかの選択肢とそれによって出来たルートが世界を構築する」
え~と、ようするに、
「つまり、分岐しだいでは、いくつも世界が似たような世界が存在するってことか?」
「まあ、そうなるわね……。そして、それらの因果律の乱れは、一つの世界で起きると、その周りの世界にも影響を及ぼしかねない。だから、私たち三縞や一列、二本のような家に『輪廻の魔法』が伝えられ、乱れた因果律を直すようにしているのよ……」
「つまり、お前って異世界人?」
そういう解釈になるんだが……。
「あんたが言ったんでしょ?同じような世界がいくつもあるの。その中で、『輪廻』は、記憶を共有する力『他世界同率体』を受け継いでいるのよ。まあ、記憶以外にも受けたダメージを分配もできるけど、ね……。そう言ったわけで、私は、この世界の人間だけど、他の世界での『輪廻』について知っているから、因果律の崩壊を止めたいのよ」
つまるところ、他の世界の自分の知識を持っていて、因果律が崩れてはいけないということを理解しているから、因果律を崩しそうな、俺や天螺、妖を監視しに来たってことか。
「じゃあ、始まりと終わりって言うのは?」
書籍に、古書に書かれていた気になる文面。始まりと終わり、終焉。
「この世界には、二度の始まりと終わりがある。一つは、この世界が生まれたときと、或る結末から因果律によって滅ぼされるとき。
もう一つは、或る人間が、この世界の因果に背き世界を終わらせようとするとき。それを止めるために《始祖》や《始まり》とされる、特殊な人間が、その人為的終焉を止める。いや、止められるかと言う選択肢ね。まあ、それが、二度ある始まりと終焉よ……」
「それは、誰なんだ?」
「終焉は、今、天壌月世と供に在る」
「供にある?つまり、月世じゃないのか?」
「それは、私にも分からない……」
――月世、お前は、一体、何をしようとしているんだ?
結局、話は、そこで終わりになった。
今後話にも関わってくる「始まり」と「終焉」の話は、
雪夜の魔法(http://ncode.syosetu.com/n1528bg/)
665(http://ncode.syosetu.com/n3576bh/)
魔法-夜と剣-(http://ncode.syosetu.com/n7313bh/)
とも関わりがあるので、ご覧いただけたら幸いです。




