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零の魔法使い  作者: 桃姫
ゼロの魔法使い
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9話:魔法則

 魔法則。魔法の法則で魔法則。いつしかそんな風に名づけられたそれは、詠むことによって発動する。人によっては、「呪文」や「詠唱」などと呼ぶこともある。前にも言ったが、「魔法名称:魔法則」で成り立つ。様々な魔法が分かっている。有名なところで言えば、火、水、土、風、木の魔法だ。元々、これらの魔法は、五属性として存在していた。それぞれ、炎魔、水素、土御門、風塵、木也、と言う家々が作り出し物だ。しかし、その家々も、今や風前の灯。いや、それすらも潰えたかもしれない。唯一無事だった水素が、《魔真衆》に潰されてしまったのだ。これにより、成り立ちの五家は、もう、力がない。この五家が潰れた影響力が強いのだろう。一時、現状維持くらい残っていた魔法使いも駆け足気味に居なくなっていったり、《魔真衆》に寝返ったりしているらしい。まあ、これは、日本における現状で在り、海外がここまで酷くなっているとは聞かない。特にイギリスなんかは、未だに魔法使いが多く残っていると聞いている。《魔真衆》の襲撃を受けても唯一追い返したとかどうとか。しかし、それはあくまで外国。実際、日本と外国の魔法使いは、あまり関わりがないのだ。極東は、不思議な魔法が多いと言われ、海外勢はあまり関わりたがらない。特に《魔真衆》発足後、それらに襲われた各国は、口を揃えて、「やはり、極東の魔法は不可解だ」と告げたことからもよく分かる。まあ、外国には、俺や天螺のような魔法使いは、まずいないだろう。月世のような魔法使いも。そして、外国は、強い力よりも実用性を重視することが多い。だから、様々な魔法を使えるようにしたがるのだ。それに比べて、日本では、主に、自らが得意な魔法を重点的に伸ばす風潮が強い。だから、力比べになると、圧倒的に日本が強くなる。まあ、その分弱点が多くなるのだが……。まあ、これは置いておこう。


 さて、魔法則だが、あれに自体にもルールは在る。その魔法の特性と属性、効果を示さなくてはならないのだ。例えば、だが。俺の魔法。抹消に、もし魔法則があった場合、どのようになるかと言うことだ。

「抹消:時は絶えず移ろう。物は絶えず進化する。全ての根幹。理の存在。それらは、繋がれし一つの鎖。消えよ、理の果てに。――そして至ろう、無の極致へ……」

となる。まず、特性は、「消えよ」。属性は、「無の」。効果は、「理」と「消える」。それを補う形で、消せるもの「理」が当たる。よって、魔法則を聞けば、ある程度、その魔法の効果や特性が分かるのだ。


 しかし、前にも言ったように、俺の魔法や天螺の魔法は、特殊だ。魔法名称しか言わない。なぜなら、それ一つで、既に魔法則が成り立っているからだ。

「消滅」

「抹消」

この二つの魔法は、どちらも効果としては、変わらない。どちらも、そこになるものを零にする。しかし、二つを唱えるとき、俺は明確に使い分けている。ここで、消滅の魔法則があったなら、こうなっているだろう。

「消滅:物は形を持つ。そして、形はいつか失われる。万物に終わりは在る。それらは、決まり在る一本の鎖。消えよ、時の果てに。――そして至ろう、無の極致へ……」

まず、特性は、「消えよ」。属性は、「無の」。ここまでは同じだ。そして、効果は、「万物」と「消える」。それを補う形で、消せるもの「万物」が当たる。


 つまり、「抹消」は、「理」を零に。「消滅」は、「万物」を零にする。今まで、俺が使ってきたとき。例えば空気は、そこに在る「物」だから「消滅」。例えば魔法則は、そこに在る「理」だから「抹消」。こう言った使い分けは、おそらく天螺もしている。

「恒久」

これは、永遠の力を授ける魔法則と言っていた。それならば、他にも永遠の「――」を授ける魔法則が存在しているに違いない。それらも明確に使い分けられているはずだ。俺の魔法でないから良く分からないが、「恒久」の魔法則があったらこうなるのではないだろうか。

「恒久:永遠の光は、思いと力を表す。光を浴び続ければ、いずれは、己がモノとなるだろう。夢を結べば思い出に。湧きあがれ、力の果てに。――そして至ろう、永久の力へ……」

特性は「永遠」。属性は「永久の」。効果は、「力」となる……のだと思う。あくまで仮説だが。まあ、実際にはないものだから、あまり関係ない。予備知識とも言えない、無駄知識だな。


 そして、これらの法則。それを無視する形で存在する魔法もある、らしい。らしいと言うのは、実際に見たことがないからである。魔法名称は輪廻。古い書物によると、その魔法でできることは、あまりに多い。俺や天螺の魔法は、あくまで、同じ効果のものを一括りにして言葉だけで魔法則の役割をさせている。しかし、様々な効果を、となると、ありえない。一応書物に記されているものを挙げると、

「朧」

「虚」

「映」

である。この三つだけが明かされていた。「朧」とは、所謂瞬間移動の類。「(うつろ)」とは、所謂非物質化。「(うつし)」とは、所謂影分身の類。ありえないことに、全てが違う効果だ。本質からして異なる。昔の人によると、

「相手が『朧』と呟いた瞬間には、奴が後ろに居た」

「相手が『虚』と呟いた瞬間、奴の体を拳がすり抜けた」

「相手が『映』と呟いた瞬間、奴が五人になり、奴等全員が実態を持っていた」

と言うことだ。……これらをどうにかして同じ効果に出来ないだろうか。ダメだ、浮かばない。まあ、さて置き、「輪廻の魔法」の最大の特徴は、「呪印」と呼ばれる黒い渦が左腕に浮かび上がるということだ。それは、発光しているようにも見えるらしい。だから、昨日の人影を見た瞬間、俺は、咄嗟にそれが見え、「輪廻の魔法」使いだと思ったのだ。


 そして、書物は、最後にこう締めくくられている。

「輪廻は、因果の修復者。奴が現れたとき、世界は、終わりを迎えようとする。始まりよ、終わりを止めよ」

最後の始まり云々は意味の分からない言葉だが、つまり、もうじき世界は終わるかも知れないのだ。そして、考える。《魔真衆》と《輪廻》。この二つが現れた以上、何かの関係がある。すなわち、《魔真衆》の目的は、世界の終わり……?いや、そうとは限らない。しかし、始まり。それがなんなのか。そこが一番重要になってくるはずだ。そして、別の書籍には、こうも記されていた。

「太陽は、地球が廻る。月は、地球が廻す。月と太陽、二つが重なりし時、地球が廻り廻し、因果が崩壊するだろう……。これは、第三の終焉を迎えるときかもしれない」

第三の終焉。終わりと終焉は同じもの。だとすれば、《魔真衆》のリーダーで在る月世が「月の魔法」使いであることにも納得がいく。しかして、また別の書籍には、

「無限に存在するものがある。それを無にするには、永久に減らし続ける必要がある。しかし、無限はいくら減らしても無限である。つまり、減らしても減らないものを減らすために、無にしようとする力は、上限を超えて働こうとする。そうして、力を増す、無にしようとする力と無限の存在は、矛盾を生み出し、それは歪となる。その歪は、因果律に負荷干渉を及ぼし、因果律そのものを曲げかねん存在になる。そして、曲がった因果律は修正する力を働かせようとするが、その綻びから崩壊する可能性が……(以下省略)」

と書かれている。因果の崩れが、終焉で、それを治すものが《輪廻》ならば、俺と天螺の魔法をぶつけ合っても終焉は可能になるのではないだろうか。そして、元来の始まり、終焉と月と太陽、そして無窮と零。これら全てが、終焉を引き起こす存在として、現在、この世に存在しているならば、この世は、いつ終焉を迎えてもおかしくない状況に立たされていると言える。ならば、どの魔法が、終焉の引き金になるのだろうか。そして、おそらく、深蘭は、それを知っている。アイツは、どこか、この世の魔法使いを超越している。ならば、アイツもまた、この世の因果律を狂わせる存在。そして、その因果律に弾かれないのならば、アイツもまた修復者側の人間なのではないだろうか。いや、推測の域を出ない。


 しかし、アイツにあったときを思い出すと、それは納得できる。

「あたしがあんたの師匠よ!世界の垣根を飛び越えて、あんたの教育に来てやったんだから感謝しなさい、クソガキ!」

今思い出してもむかつくが、今注目すべきは、クソガキと言う暴言の方ではなく、「世界の垣根を飛び越えて」だ。あの頃は、大げさに登場するための言い方だと思っていたが、今なら、異世界からやってきたと言う意味かもしれないと思ってしまう。さらにおかしいのは、よく考えると、アイツが魔法則を詠んでいるのを見たことがないことだ。確かに師として仰いだ。それに、魔法も見せてもらった。そのときは、ありふれた「氷の魔法」だと思っていたが、あいつが魔法を使うときは、決まって、何も言わない。そして、威力が桁外れだ。さらに、この間の夜のように、無意識に冷気があふれ出すなんてことは、魔法則を使う魔法にとってありえないことなのだ。なぜなら、魔法則は、魔法則を詠んでこそ意味が成り立ち発動するのだ。詠まずに発動はありえない。寝言の類では、まず無理だ。つまり奴は、この世界の理、因果律の外側の人間。だが、奴が昨日見た「輪廻の魔法」使いだとは思っていない。確かに場所を指示したアイツなら、零の魔法使いと言う危険な存在があそこに行く事は分かっただろう。しかし、あれが、奴だったなら、俺が見たと思った瞬間、逃げるのではなく、殺す。それだけは間違いない。つまり、奴は、理の外の人間でありながら、因果の修復者ではない存在。謎の存在だ。


 謎の存在といえば、妖。アイツも、怪しくはある。アイツも「輪廻の魔法」使いではないはずだ。なぜなら、月世を助けて欲しいと言ったからだ。俺が、月世を助けるということは、それに天螺が協力する可能性もある。すると、月、零、無窮と危険因子を集めることになる。これは、因果の修正者にとってはよくないこと。だから、妖は、まず、怪しいが「輪廻」ではない。そう考えると、「輪廻の魔法」使いは、俺の前に現れたことがない人物かも知れない。もしかしたら、密かに、俺や天螺を観察している……。


 この考察があっているならば、そのうち、俺たちの前に現れるかもしれない。転校生とかとして。俺たちを観察しやすいように。そんなことを呆けながら考えていた日の朝、天螺に次いで転校生がやってきたのであった。

三縞恋奈(みしまこいな)です。この街に来たばかりで不慣れなので優しくしてくれるとありがたいです」

そう、それは、間違いなく、こういうパターンは、漫画やアニメ、ギャルゲーに限らず、現実(リアル)でも怪しい。間違いなく、「輪廻の魔法」使いだろう……。こういうのなんつーんだっけな……。ご都合主義?ま、そういうこともあるよな……。

「クスッ、四之宮黎希、そして、永久日、天螺」

妖しげな笑みを浮かべたのを、俺は見逃さなかった。間違いない。

「三縞、恋奈」

――奴の登場は、何を意味しているのだろうか……。


 そして、事態は急速に動き出す……。


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