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2人の生徒




大型都市Arcadia、上層。


旧制都市であった時代から続く名門高等学校、その203教室。


「おい起きろ藤岡」

「んが」


ここは急速に発展する中でサイボーグ化技術発展の功罪、旧制都市政権の崩壊から現代に至るまでの発展を学ぶ場として残っているのだが。


「お前聞く気ないだろ」

「ありますよ!」

「デバイスの起動すらしていないのにか」

「はい!」


机に突っ伏して爆睡していたプリン頭の3組26番藤岡遥斗。


「はぁ〜お前もだ上原」

「溜息ついたら幸せが逃げていきますよセンセ」

「やかましい」


頬杖ついて目を閉じていた黒髪、同じく3組、4番上原一樹。


「起きたならU-36を開けふたりとも」


担当教師小杉女史、苦労人である。事故で失った右足のみ特殊樹脂製の流線型パーツに代替されているが、それ以外ほとんど生身。人工皮膚で覆うことが多い中、彼女はパーツ剥き出しという珍しい人間だ。見た目のアンバランスさから独特の雰囲気を持ち、誠実な態度から生徒からの絶大な人気を誇っている。


「この前彼氏に振られたんだってさ」

「マジで?」

「開けと言ってるだろう!?」

「ホントっぽい」

「レイが言ってた」

「あいつそんなこと調べたの?」

「調べさせた」

「じゃあ正しいなー」

「お前たち!」


本当に苦労しているのだ。




女史に怒られて授業が終わり、学校からさっさと逃げ出した2人。


「しかしさー、授業よりも見たほうが早いよなあ」

「まあな」


天高くそびえる高層タワー。

白く輝く建材のみで構成された建物。

雲一つない青空に、燦々と輝く人工太陽。

辺りを見回るアンドロイドは一切の音を立てず、計算された心地よい鳥の囀りと木の葉が擦れる音のみがかすかに聞こえる。

空気は常に浄化され、ほんのりと花の香りが漂う。

特別なIDを保持しているものしか侵入を許されない半径20kmの完璧なセカイ。


「飯は上手いし危険なんて大してない」

「十分な教育を受けられ、医療、修理のための施設も充実、欠点なんて一つもない、ってね」

「そもそもオレらがここにいる方がおかしいんだよなぁ」

「ほんと何者なんだろうな、マスター」

「わかんね」


天を仰ぎ見た藤岡につられて上原も顔をあげる。うっすらと防護ドームが見えた。


「これからどうする」

「中行って、酒の受け取りだろ」

「それまで結構時間がある。出来れば今のうちにメンテしときたい」

「もう1カ月前か。オレもこの前めっちゃ使ったからやっとこうかな」

「俺の方は微調整だけだからいいけどお前ナノマシンの交換もいるだろ」

「あー修復スピード落ちてたもんな。金足りる?」

「抜かりはない」

「ひゅーさっすがー」

「棒読みだなおい」

「とっとと行こーぜ」

「ハイハイ」


上層と中層を繋ぐゲートを兼ねるエレベーターは八方と中央にそれぞれ2基ずつ。上層への出入りなんて滅多にないのでこれで事足りる。中央口の2基のうち片方はこちら側にあったので、IDを翳して乗り込む。

柵が閉まるとガクンと籠が揺れ、徐々にスピードをあげて動き始める。白い建物が上へと流れ、ダストで汚れた灰色が目立つようになってくる。

と、強い光が目を差した。中層の人工太陽の姿に目が眩む。そろそろ夕暮れのため西日がキツい。


エレベーターが止まったので目的地まで進む。

ゲートから修復屋までは徒歩で15分程度だが、奥まった所にあるためあまり繁盛しているように見えない。


「ドークター!」

「いる?」


薄い扉を叩くと奥から何かが崩れる音と共に呻き声が聞こえる。

1分後。


「お゙う……入れや」

「お邪魔しまあす」


ボサボサの髪に無精ひげ、咥え煙草の白衣姿。うだつの上がらぬオッサンに見えるがこれでもここでは五本の指に入る実力者である。客にはドクターと呼ばれたり呼ばれなかったり。


ここはいつも乱雑に積まれた何かの部品と塗料、酸化した整備用オイルと煙草が混ざった独特のにおいがする。処置室と書かれたプレートが掛かった部屋の扉を開ければ、そこはもう彼の城だ。


「今日はどうした」

「定期メンテ」

「オレも調整。リペアマシンの取り替えも」

「まーたか藤岡ァこないだ直してやったろうが」

「ごめんなさい……」

「上原はともかく藤岡のパーツは切れちまったぜ。下まで取りに行ってこい」

「俺も行ったほうが良いですか」

「藤岡1人で十分だ。いざとなりゃ名乗ればいい」

「エエー」

「うるせぇなさっさと行け。その間に上原のメンテしとくからよ」

「へえーい。いつものとこな」

「おう」


そう言うと修復屋は立て付けの悪い扉を足で開き工具を引っ掴んで部屋の中に入っていった。


「んじゃちょっくら行ってくるわ」

「1時間くらいで終わるだろうから急げよ」

「ん~」

「おい上原ー早く来い」

「あ、はい!」


棚には仕切りの付いた引き出しがずらりと並ぶ。細分化されたパーツには各々に合わせた特注品も含まれているので膨大な量になるが、他所と比べると格段に少ない。彼程の腕になると既存のパーツと組み合わせても最高のパフォーマンスを叩き出す。


「何か違和感とかあるか」

「強いて言うなら最高速出した時に足から音がしたくらいですね。その後の動きには問題ありません」

「……まてリミッターは」

「外しました」

「おっまえ、お前もかよ! 何やらかしたらそうなるんだ全く」

「すみません」

「思ってもいないことを言うなクソガキ」

「風が気持ちよかったです」

「だろうな!」


ブツクサ言いながらも手は止まらない。人工皮膚に最低限の切れ込みを入れ、露出した足の金属パーツを外してコード分の接続と中に通された軸を神経回路に触れないよう確認していく。


「罅いってんな。無茶しなければ折れんが……」

「すると思います」

「まあそうだろうな。金は」

「50万で」

「強度と耐久をこれ以上に上げるんなら85万」

「65」

「舐めとんのか80」

「70」

「75」

「……分かりました」

「よし交渉成立。少し待ってろ」


15分程後、加工し終えた素材と共に修復屋が戻ってきた。

手早く主軸とピストンが外され、新しいものに取り替えられる。


「今回罅が入ったのは負荷もそうだが硬度の問題が大きい。これはやや柔らかめのしなやかで断裂しにくい素材になる。ん、ちょっと削るか。ああで、絶縁素材だからスタンレッグスパイクは無しになる」

「最近あんまり使ってないので問題ないです」

「なら良い。もう片方やるぞ。肩の球体関節は?」

「戻しやすくて良い感じです」

「もう外したのか」

「外されたんです。戦線復帰が速いのでこの方が使いやすいってあいつと話してました」

「そうか。賭けだったが上手く行って何よりだ」

「ひょっとしなくても新作の実験台にしましたね?」

「何のことだ? うっし終了。奥で動作確認してこい」

「了解です」


薄いシャッターを開けて奥に進む。床に落ちていた金属片がぱたりと途切れ打ちっぱなしのコンクリート床が見えるようになった。


軽くジャンプしてみる。感触は以前と変わらない。

ぐっと沈み込み、正面の壁に向かって飛ぶ。即座に壁を強く蹴って反対側に。もう一度蹴って空中で足を振り上げそのまま一回転。着地。


「どうだ?」

「着地の衝撃が前より少ない。凄く良い」

「そりゃ重畳。念のため又1ヶ月後にまた来い。それで、藤岡は今どこにいる」

「そろそろ来ると思いますよ」


「なぁー! 大変だったんだけど!」


「ほら」

「なんだうるせえなどうしたパーツ持ってきたんだろうな」

「それが、面倒事に巻き込まれてよーそれがなかったらフルスピードで往復30分だったのにさ」

「軽率にリミッター外そうとすんなお前ら……」




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