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ライスライス


とある二人の会話の続き。



「もうさ、わかった。カレーもラーメンもつけない時を作ればいいんだよ。」

「え、何。たーちゃん、何も食べないの?」

「なんでだよ。」

「ちがうの?」

「ちげえよ。」

「じゃあどうするってこと?」

「米だけを食うってことだろ。」

「だけ?つまんなくない?」

「つまんなくてもいいんだよ。カレーラーメンで食べられなかった分のライスを取り返すために食うんだから。」

「じゃあライスライスにするってこと?」

「ちげえよ。普通にライスでいいんだよ。」

「おかしいじゃん。取り返すならライスライスになるよ。」

「ライスライスはもう大盛りライスだろ。そんなん食えるんだったら、カレーラーメンの時にライスも食ってんじゃん。」

「じゃあ、食べられるようになればいじゃん。」

「は?」

「たーちゃんが、いっぱい食べられるようになればいいじゃん。」

「嫌だよ。」

「なんでだよ。」

「だって、いっぱい食ったらお腹痛くなるじゃん。」

「我慢しなよ。」

「やだよ。」

「カレーとラーメンとライスのためじゃん。」

「なんでそこまでして食わなきゃいけねえんだよ。」

「たーちゃんが損してるとか言うからだよ。」

「・・・そうか。」

「うん。」

「・・・俺はさ、食いたいんだよ。」

「え?」

「食いたいの。美味いもんを、これ美味いなって言って食いたいの。」

「それはそうだよ。僕もそうだよ。」

「だろ?むぅもそう思ってるだろ?」

「うん。」

「カレーもラーメンもライスも、美味いからさ。美味いって言って食いたいんだよ。」

「うん。」

「食える時は逃したくないわけ。」

「うーん。うん。」

「全部俺のもんだ!!ってしたくなるじゃん。」

「ん-?」

「ならないの?」

「思ったことないかも。」

「むぅは一人っ子だからじゃない?」

「え、なんで急に?」

「兄弟とかいたらわかるよ。食うのって競争だよ。」

「そういうものなの?」

「そうだよ。自分の皿とか人の皿とか関係ねえもん。同じテーブルで食ってたら、それはみんな敵だよ。ハイエナ。」

「そうなんだ。」

「うん。食いたいもんはとられないようにしてるもん。」

「ふうん。」

「俺は優しいから、むぅの食いもんを取ったりはしないけどさ。」

「じゃあさ、僕たちってツイてるよね。」

「え?」

「だってほんとにハイエナだったらさ、絶対カレーとかラーメンとか食べられないじゃん。」

「ハイエナだったらそんなの食わねえだろ。肉とか食うよ。」

「動物の生態とかの話じゃないよ。」

「え、なんの話なの。」

「命の話だよ。」

「え・・・?」

「ハイエナはさ、カレー屋さんとかラーメン屋さんとかじゃないじゃん。サバンナで自分で餌探さなきゃいけないじゃん。」

「ああ、そういうことね。」

「ここに行けば絶対食べられるってわけじゃないし、明日は全然食べる物がないかもしれない。」

「野生動物だからね。自然の中で生きてるから。」

「それにさ、今日食われるかもしれないじゃん。」

「食われる?」

「ライオンとかさ。自分より強い動物にさ。寝てる時とか、食われるかもしれないじゃん。」

「弱肉強食ってことか。」

「そう。ハイエナだったらまだ強い方だよ。赤ちゃん鳥とか、赤ちゃんヤギとか、絶対危ないよ。」

「赤ちゃんは、何の赤ちゃんでも食われるけどね。弱いし。ちっさいし。」

「でしょ。でも僕たちは人間だから、そういう危険はないじゃん。」

「そうだね。」

「だから、こうやって呑気にカレーラーメンとかライスライスの話とかしてられるんだよ。」

「ライスライスの話はむぅが勝手にしてただけだったけど。」

「良かったね。食われる心配がなくて。僕たち、ツイてるね。」

「・・・まあ、そうかもね。」

「うん。」

「食われる心配してたらさ、たぶんカレーもラーメンも生まれなかったよな。」

「ああ、たしかにね。料理なんかしてる間に食われるもんね。」

「そうそう。」

「じゃあ、カレーもラーメンもツイてるってことだね。」

「ツイてるの?」

「ツイてるでしょ。僕たちに作って食べる余裕があったおかげで、この世に誕生できたんだから。」

「それ結局俺たちが嬉しいだけじゃん。」

「え?」

「カレーもラーメンも、無いなら無いで問題ないだろ。俺たち食う側が喜んでるだけなんだから。」

「んふふ。そっか。僕たちが食べたいし僕たちが嬉しいんだよね。」

「そうだよ。結局俺たちは自分が食うことばっかり考えてるんだよ。」

「そうだね。」

「うん。」

「僕たち、ツイてるね。」

「うん。」

「ライスライスもいいけどさ、好きな物が食べられるって最高じゃんね。」

「ライスライスはしないって言ってるだろ。」

「じゃあ、カレーラーメンの分のライスとライスはどうするの?」

「・・・しょうがねえから、赤ちゃんにでもあげるよ。」

「え、たーちゃん、赤ちゃんいるの。」

「いねえよ。」

「どういうこと?」

「たとえ話だよ。」

「ん?」

「俺以外の誰かってこと。俺はカレーラーメンで腹いっぱいだから。俺じゃない、誰か腹減ってる奴に食わしてやるよ。」

「優しいね。」

「俺たちは食うだけの側だから。余裕あるってわかったから。」

「そうだね。」

「うん。」

「でも、赤ちゃんはまだライスとか食べないけどね。」

「うるせえな、たとえだって。」

「んふふ。」



街は灯りをともし、夕食の支度を始めている。

「食」をテーマにした短編集、というか、寄せ集め、でした。

お読みいただきありがとうございました。

本作から始めて、「衣食住」のシリーズとして引き続きお話を書きたいと思っています。

ゆっくりですが、よろしければ次回作もお楽しみください。

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