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武者馬

作者: kono

育てとしての視点と動物との関係の架空の戦国時代

土砂降りの雨の中、颯爽と駆けていく獣がいた。

馬だ、雷鳴が鳴り響きながらもどこまでもどこまでも走って行った。

その馬は人間達と様々な経験を共にしていた。昔、その馬が生まれた頃は戦乱の世であった。

彼は雄の馬として生まれて、幼い頃から意識をもっていて人間に育てられつつまれていた。飼い馬として育て親から「まさよし」と名づけられた。彼は館の厩舎に生を受けた。まさよしは不思議と人が話す言葉がおぼろげながらに理解出来た。

「おはよう、まさよし」、そう育ての人間から話しかけられた言葉も自分に話しかけられているとうことも分かった。

彼は人間に名前をつけてもらえたが嬉しいという感情はそこまでなかった。だが人間と同じ「名」というものが自分の生命を認められたという点では嬉しい。だから彼を産んでくれた親が亡くなっていたことを一瞬忘れられた。なので彼はその人のことを親のように思っていた。

翌日明朝人間に連れられてまさよしは平地に行った。彼は厩舎からあまり出たことがなく外の世界のことをあまり知らなかったので厩舎から出た瞬間小さな子が遠足へ行くときのような昂揚感があった。人間等は彼を平地へと連れて行った。彼は平地に着いた途端「走りたい」と欲が出来て興奮していた。。それを感じ取った育て爺さんがなんとか落ち着かせようと必死になだめた。なだめていたが今にも暴れて爺さんを振り払おうと傍からみてとられていた仲間が駆けつけなんとか落ち着いた。

「まさよしはきっと良い馬なるじゃろう」

爺さんは安堵とともにそう漏らした。まさよしには馬としての何らかの才能、はたまた勇気が具わっているようなものを爺さんは感じ取ったらしい。

とりあえず一時間ほど走ることになり仲間は平地で風を切るように走った。それに追随しまさよしは勢いよく走りとばしていった。彼には体力も根性もあったが慣れない環境で走ることに緊張していて始めの方はぎこちない走りだったが三十分もすると軽快に走れるようになっていった。そうこうする内にだいたい一時間経っていた。爺さんはそんな彼をみてますます愛おしくなった。わしは死ぬまであの子を見届けたい。あの子の勇ましい姿を楽しんでいる姿を。そう独り言のように心の中で呟いた。

まさよしは走ることに夢中で一時間というものがあっという間に過ぎ去り走るという楽しさで胸が高鳴っていた。こんなに楽しいなんて俺は思いもしなかった。これからどんどん走り込もう頑張ろう、そう感じたのである。それから毎日ように平地へ行って繰り返し走り続け二週間ほどその鍛錬を毎日のように続けた。彼はどんどん成長していき、走る速さも厩舎の中にいる馬たちのなかで一番になっていった。その次の段階の鍛錬では人間を乗せて走るということであった。爺さんのお陰で人間には慣れてはいたものの初めての経験だったためほんの少しの緊張があったが次第に慣れていった。爺さんが彼が立派な馬になるころ育ての親である爺さんは亡くなっていた。その爺さんの葬式はこぢんまりとしていた。馬はその爺さんが彼の前に現れなくなってからいつも「どうしたんだろう」と思っていてそのうち不安になっていった。彼がその人間が亡くなったのを知ったのはその数週間後であった。他の人間達が爺さんが亡くなって葬式に行ったと話しておりそこで初めて知ったのであった。

馬はあの爺さんのことを思うと悲しみでいっぱいだった。心の中で泣いていた。あの爺さんのお陰で走ることが好きになったのもあるし、自分の名付け親でもあったからである。その日一日は平地へ行っても他の馬たちと走っても彼の気分は晴れることはなかった。あのお爺さんと平地へ行くのが彼にとっては気晴らしにもなっていたし爺さんのあの笑顔をみるだけで彼もホッとして爺さんにだけには気持ちを許せた。

爺さんの死を知ってから一ヶ月が経とうとしていたとき厩舎に若い男がまさよしの世話を他の人の代わりとしてやってきた。「おはよう、まさよし」そう呼ばれたのである。まさよしはなんで自分の名前しっているのだろうと不思議に思った。若い男がそのまま彼に話しかけてきた。

「爺さんが亡くなって寂しかっただろう、俺は爺さんの孫の平蔵っていうんだ。よろしくな」。まさよしはまた自分に話しかけてきてくれた人がいて嬉しくなったのと爺さんとの日々を思い出し懐かしんだ。思えば爺さんとは平地に行ったりしていたが平地に行くまでの道中でお茶やに寄ったりしたこともたまにあったし、森のなかを抜けていったこともあったなとまさよしは思い出したりした。「そーいえば爺さんの名前知らなかったな、なんて名前だったんだろう。馬の自分は話せないし、自分みたいに人間の言葉を理解する馬なんてほとんどいないだろうから特別なのかな」そういう風に彼は心のなかで考えていた。

平蔵はまさよしの頭をなでながら愛おしそうに彼をみていた。

「これからは俺が面倒をみるからな」

そして彼はまさよしを平地へ連れて行った。平地ではいつものようにまさよしは走ったが未だに爺さんのことが忘れられないようだった。厩舎へ着き夕ご飯を与えられた。いつも以上に多かった。孫の平蔵さんはおじいさんに似ていてとても優しい人だったなと彼は感じた。時が経つごとにまさよしはさらに走るのが速くなり子馬から大きい馬になっていった。大きい馬になると人を乗せるようになっていった。最初は平蔵が彼に乗り人間を乗せる感覚を覚えられるように教えていった。平蔵とは爺さんが亡くなってから何年も前からお互いを知っていたので乗せるのにあまり抵抗感はなかったのだが平蔵が仕えている武将を乗せたときはあまり気乗りしなかった。その武将と呼ばれるものは戦で馬を用いた騎馬戦に長けてはいたが馬と親密になることに関しては平蔵ほどではなかった。平蔵はあくまで馬の世話をしているいっかいの世話人であり仕えているその武将には逆らえなかった。

まさよしは心の中でこの武将相川とうまくやっていけるかなと思っていて、また少し荒い乗り方したら振り落として逃げたいなという気持ちになった。それから数日後、平蔵につられて馬のまさよしは平地にいった。そこには他の馬に乗っていた武将相川が流鏑馬や犬追などの稽古をしていた。平地ではただ走っていただけだったまさよしはその武将と馬の動きに圧倒されて彼の目には魅力的に映った。相川が稽古を終えて馬から降りるとこちらへ笑顔で向かってきた。

「平蔵、その馬にもう一度乗ってみたいのだがいいか」

「はい、おやかた様」

平蔵は頭をさげ馬を相川の方へ渡した。

「この馬の名前はなんという」

「まさよしです。自分のの祖父が大切に育ててきた馬でして厩舎のなかでもとても走るのが速いです。どうぞ勢いよく走らせてあげてください」

「いくぞ、まさよし」

まさよしは合図とともに平地から森へと武将を乗せたまま駆けていった。彼自身走るのが好きだったこともあるが走って行くうち相川が馬の走り裁きがうまくコントロールしているのでこの武将も手練れでとても自分を愛してくれているのではないかと思い、まさよしは力の限り走りに走り抜いた。ただ人を乗せた経験が少ないためいつ止まったらいいのか走っている最中思っていた。その時相川は手綱をとってまさよしを止めた。まさよしは手綱で止められたことはあまりなかったが自分の意思とは関係なしに止められたのは初めてだったので動揺した。いつもなら平蔵が「止めるぞ」と合図してから止めてもらうので困惑していたのであった。武将相川に止められたあと平蔵のもとへ戻ってきたがそれは相川の指示なく自分から動いた。相川は自分のことを愛してくれていると思ったがそれは単なる自分の勘違いだったのではないかと少し疑問に思った。まだ会ったばかりで馬を扱うのがただうまく馬の自分とのコミュニケーションを練習もせずいきなり走らせるのはいかがなものかと思ったのでまさよしは愛されていないと思ったのである。

まさよしは相川が自分から降りた後、人目も気にせず走りたくなった。平蔵と相川が話している隙に平地を思う存分走った。そうしたら走れば走るぶんだけ天まで昇って行ける気がした。広い平地を何周も何周もしたが爽快感がたまらなくとても楽しかった。彼が子馬だった頃初めて人間の爺さんにこの平地に連れてきてもらって、他の馬たちと走ったときと同じくらい楽しくて夢中になっていた感動を味わえた。そうしたら誰かが自分の名を呼んでいたことに気づかないくらい走ってて他の馬に乗ってきた平蔵に止められた。そのとき平蔵は馬から降り苦笑いしながらこっちに来た。

「爺さんから聞いてはいたが本当に走るのが好きなんだな」

平蔵は振り向いて武将に問いかけた。

「おやかた様、この馬をもっと鍛錬しますか?」

まさよしは鍛錬と聞いて自分は強くなれると嬉しくなった。

「そうだな、まさよしをもっと育てよう、まずはまさよしともっと仲良くならねばな」

「そうですね、自分も手伝いますよ」

「ありがとうよ、平蔵」

今度は平蔵がまさよしに跨がって厩舎へ戻った。道中、熊にあったが二人とも馬に乗っていたので熊が追ってきても速く走ってまくことができた。仮にまさよしが熊と対峙することになったら彼は敵わなかっただろう。厩舎に戻って平蔵は馬たちに夕食を与え、食べている様子をみながら微笑んでいた。彼ら馬たちのなかでも特にまさよしは幸せそうに嬉しそうに食べていた。そんな平蔵をみて馬であるまさよしは「本当に俺たち馬が好きなんだな」と思い「ここで育ててもらって運が良かったし嬉しいな」と明るい気持ちにもなった。。

平蔵は馬たちを一通りみて武将の相川がいる館へ去って行った。そしておやかた様とまさよしのことを話した。

「おやかた様、まさよしのことを気に入ってもらえたでしょうか」

「気に入るもなにも君と君の祖父が一生懸命、最初から良い馬になるように育ててくれたではないか。ありがとうよ。良い馬に育ててくれて。勿論気に入ったよ」

相川は満足そうに顔に笑みを浮かべた。良い調教師をもったものだ。そう彼は心から感じていた。

「滅相もございません。おやかた様に仕えている者としては有り難いです。きっと祖父もあの世で喜んでいると思います。あの馬をもっと凄い馬に育て上げたいのとおやかた様とあの馬との共生して一心同体になれるよう努めさせてもらいます」

「そろそろ夕刻も過ぎる頃だろうまた明日頼むよ」

「それでは」

平蔵は自分が住んでいる家へと帰り相川は自室へ戻った。

その頃まさよしは考え事をしていた。もっと自分を強くする方法はなんだろう、速く走る以外あまりやってこなかったからな。そうだこのひづめで人間相手に攻撃するのはどうだろうか。しかし戦に連れて行くとはいってなかったしな、長距離を一定の速さで走って俺に乗っている人が落ちないように安定させて負担を減らすことが出来ればあの人の役にたつかもしれないな。その夜まさよしは深く考えながら眠っていった。眠っていたことを忘れて起きたらそこにはもう平蔵がそこにはいた。いつもより平蔵がかっこよくみえた。「これからどこかに行くのかな?」

なんとなく疑問に思った。まさよしはその夜、不思議とぐっすり眠れた。まさよしが寝ている頃、平蔵は明日のまさよしの練習は何をするか考えていた。まさよしにとって最初はあまり負担がかからない内容にした。その内容を考えた後夜遅くの寝たのであった。

翌朝、平蔵は誰よりも早く起き厩舎へ向かった。厩舎へ着くと直ぐさま平蔵はまさよしの方へ近づいた。

「まさよし、大丈夫か?」昨晩、大雨が降っていたので平蔵は馬のことを心配していたのである。ブルルッとまさよしは大丈夫だというつもりで反応した。

「平蔵さんも大丈夫そうでよかった」と彼は心のなかで思った。まさよしがそのように思ってから直ぐに相川が来た。相川が現れた時、まさよしは少し驚いた。まさか相川が甲冑を着てくると彼は思わなかった。武将だから甲冑を着るのは戦だけだと思っていたが彼は甲冑を実際みたこともなかった。また甲冑を着た武将をみたこともなかったので驚いたのであった。

「いよいよ戦の準備に入らねばな」

そう平蔵は突然話した。

戦の準備と聞いてまさよしはぶるっと震えあがった。なにせ彼は戦どころか平地と厩舎を行き来していたくらいで外の世界のことをほとんど知らずに生きていたからである。子馬のときはとにかく精一杯走るだけであったのでまさか自分も戦へ行くなんて子馬の頃もいまさっきまでも思っていなかったからである。

ふとまさよしは子馬の頃のことを思い出した。彼は四季の「夏」にいつもいた山羊や馬と川などで水遊びしていたのであった。彼は自分のことを世話してくれる者とだけではなくその世話人がたま厩舎から故意に離してくれていてとても気分が良くなっていたものである。

水遊びをしているなか彼は初めて「さかな」という生き物をみてものすごい不思議な気持ちになり手も足もなく音も出さずにぐんぐんぐんぐん進んでいくので興味もわいた。山羊にそのことを伝えたらよくそんなことに気づくなと「関心半分、嘲笑半分」で訝しげに言われた。ハッとして子馬の自分から大人の自分にもどり「戦」のことを考えはじめた。戦にたいしてあんまりイメージがわかなかったが相川が身を引き締めるようにどこかへ行ったので「緊張」するもので重々しい事なんだと理解した。

それから太陽が悲しげに落ちていき呼応するように平蔵が暗い顔をしてやってきた。「まさよし、もういつ戦が起こらなくなってもおかしくない。だから明日からお前のことを俺が鍛錬することになった」、そのようにいい彼は僕の食事を与えてくれ去って行った。僕は食事を食べながらいつもは気にしていない自分の臓器がぐるりぐるりと武者震いしているかのように激しく動いているかのように感じた。明くる日僕は平蔵と一緒に武士の首領様へ挨拶して平蔵を乗せて数十キロ走ったり流鏑馬を前と同じようにした。僕が急に止まったり相川が僕から転げ落ちて怪我をすることもあった。そのうち平蔵と僕の心の距離は縮まり言葉をもっていない僕と言葉を持っている平蔵の絆は強まっていった。何日か経ち、武士を久しぶりに乗せて走ったりもした。甲冑を着て刀を差していたので「戦」は殺しあいなんだと悟った。そのときの甲冑の異様な風貌から武士を人間ではない何か異質の動物のように感じた。相川と僕はうまく戦地でっていけるかという不安も混じり合った。

平蔵とは生まれてきてから一緒に生きてきて絆もあった。「そんな平蔵の主だから大丈夫」と無理に自分に言い聞かせた。平蔵がなにやら相川と真剣に話していて「まだ戦のことを考えているのか」と彼は自分が人間だったら意思の疎通がたやすくできるのになという思いになり馬としての自分を客観的に考えた。ようやく、彼らの会話が終わった。

「平蔵、この馬を戦で使わせてもらうぞ」と緊張感のある声で聞き、まさよしの背に跨がった。「旦那様、その馬はまさよしという名でどんな場所でも果敢に走ることが出来ます。ですが狩りなどをしたことがないので戦地へ行く前に絆を結んで大事にしていただけないでしょうか。よろしくお願いします。」

「わかった。では山を一つ二つ越えてもっと鍛え上げてくる。お前の馬の訓練もみてはいたが俺もまさよしと一心同体になっていく。それじゃあな」

そういって颯爽と相川はいっていった。まさよしの気持ちは平蔵と長く会えなくなると思うとホームシックのようになっていた。なんで俺は戦地へ行くんだろう。なぜ俺は山を越えていくことになるんだろう。まさよしは鬱屈とした感情を山に入ってから持ち始めた。山の中には相川達の行く手を阻む者達がいた。山賊もそのなかの一つだが彼らは相川の気迫に押されて何も出来なかった。まさよしはこの道ともいえぬ道を前進することを機械的に考えていたのとどうにかして気分を晴らしたかったので山賊達を蹴散らした。戦ではこのように人間達が自分たちを死にものぐるいで襲ってくるんだと認識し、精神的なタフさもその出来事や狼や熊とといった獣から逃れたりすることによって磨かれていった。愛井川は山を一つ越えたあとまさよしをみて撫でながら状態をみてもう一つ山を越える必要ははないなと感じた。まさよしはまさよしで今すぐにでも戦へ行きたいという思いが溢れ出ていた。下った山の麓には相川の軍がおり皆、準備が整っていた。その時まさよしは育ての親である爺さんを思い出しフッと悲しくなった。彼への恩を忘れずに生きて帰ろう、そう決心したのだった。晩に眠ることなく熱く昂ぶりその勢いのまま早朝ににまさよしは戦へ雄叫びをあげて向かって行った。彼は走りながら神が鳴いているかのような雷をきき彼に豪雨が襲ってきたこの狂気的な天候を武将相川の馬「武者馬」として賢明に戦へと駈けていき戦い雄叫びをあげて奮闘し武士の化身となっていったのであった。





生きるか死ぬかの世を果敢に生きる愛情を感じる馬の人生

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語全体を通して、まさよしが本当に走ることが好きなのだ、ということが一貫して伝わってきた。走ることに生きた馬の人生をこの作品を通して楽しめた気がした。また、まさよしがお爺さんや平蔵、そして…
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