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埋もれた短編

チートは等価交換

作者: 平松冨永



 誰かを助けた善行により、若くして不慮の死。あるいは神様のミスによる死亡、の賠償補填。

 世にある創作では、異世界転生に伴うチート付与って、そんな感じだったと思う。例外もいっぱいあるだろうけど。


 ──いやいや、地球産の魂魄の間引きです。


「間引き」


 姿なき誰かからの転生解説、受けてる私に質量はない。意識のみで実体がないから、幽霊とか魂だけ、といった状態なんだろう。伝わってくる解説は、アニメのナレーションみたいだ。


 ――地球は人類以外の生物にも魂魄がありましてね、命を果たすと同時に昇天したり、地獄に落ちて罪状清算をしたり、輪廻の通り転生をするわけですが。


「ああ、そこは宗教ごとに違いますね。一寸の虫にも五分の魂、という言葉が日本にありました」


 ――以前はそれで上手く回っていたのです。リユース&リサイクル、信仰心と環境維持のバランスも取れていて。


 ほうほう。


 ──ですが、文明の進歩と生物の進化と周期的な気候変動、地球が属する太陽系の寿命と……。


「あ、済みません。私、科学分野の専門知識に疎いので」


 ──……諸々の理由で、再生工場と輸送運搬ルートが回らなくなってきたのです。


「2024年問題みたいな感じですか」


 ──そんな感じです。


 なんとなく分かった。地球における魂魄の発生が想定を上回ってしまって、総量オーバーになった、ということだろう。焼却、もとい消却もできたと思うんだけど。


 ──完全消却はできないのです。灰が残るように、魂魄にも残滓が生じます。それを再活用するために必要なエネルギーは、従来のサイクルに使われる以上で非効率的であり、地球を司る存在は導入を拒みました。


 あー、旧態依然というやつですね。やだなあ、どこぞのワンマン経営者みたいじゃないですか。


 ──昆虫と微生物の魂魄が、進化ごとに増強してしまったのが遠因だそうです。存在を人類に把握されなければ、魂魄取得条件は満たせなかった、とも。


 やだそれって、新種発見や品種改良に勤しむ偉い人たちディスってませんか。ひどい。


 ──人類の探究心を見誤って初期設定をしてしまった、と地球を司るものも落ち込んでいました。


 同情的な口調に、私は嘆息する。

 見通しの甘さとやり過ぎによる、誰の悪意からでもない地球のピンチ、ということか。じゃあ一から設定を変えるしかない、んだけど。


 ──絶滅からのリスタート、には難色を示されていましてね。


「地球の神様は、今の人類や生命体を愛して下さってるんですね」


 ──合格です。


「はい?」


 ──地球を司るものは数億年かけて、少しずつシステムを改善修正させていくので、一時的に余剰魂魄を外部に放出委託していきたい、と懇願されました。


「ああ、えっと、じゃあ貴方様は」


 ──はい、委託請け負い業者です。期間レンタル倉庫、と言えば通じますでしょうか。


 なんてこった、異世界転生というのはコンテナ倉庫預りと同義だったのか。




 それから、私は業者さんとあれこれ打ち合わせた。地球の一般人の魂魄は、業者さんにとってはかなり「重い」らしく、倉庫に送るには「精白」しなければいけないらしい。玄米なのね地球人。


「糠はどうなるんですか」


 ──こちらで「異世界」の「運営燃料」に使わせていただきます。対価は貴女個人に、お支払い致します。


 糠で動く異世界か。聞いたことないなあ。

 ……って、あれ、そうなると。


「あの、業者さんの倉庫って、元地球人だらけなんですか」


 そしてまさか対価って。


 ──はい、こちらの「異世界」の「ヒト」には全員、元地球人の「精白」魂魄が入っています。対価は地球に実存しない「異能」として添付しています。


「なんてこったい!」


 私は、いや異世界転生する我々は、いわば倉庫に預けられた強化米、ビ○バレーでござったか!



 □ □ □ 



 さて、それなりの記憶と「異能」を有して転生したわけですが。

 倉庫、ことこの「異世界」は、地球β版のような感じだった。まあそうか、いきなり珪素生命体やら溶岩内微生物に生まれ変わってたら、違和感絶大すぎて大変だもんね。

「あー、まあ、ここはほぼ地球だ。ありがたいことに」


 三歳で両親に連れていかれた「異世界取説案内所」──身も蓋もない──で、役人のおっちゃんに苦笑を向けられる。


「転生時にビタミン塗ったくられたみたいに、全員が魔法を使える。イメージした現象が実現する力だが、相応の制約があってな」


 おっちゃんや他の人たちのデスクには、時代とメーカーがバラバラなPCとプリンターがある。コードレスだけど。


「魔族や魔物、伝説のモンスターはいない。動植物もほぼほぼ、地球のそれと同じ、なんでゲームのような冒険者や英雄はいない。魔法は『生産性のある現象再現』であり、『個人の周辺のみに作用』し、発動者の寿命と共に消えて残らない」


 魔法で作った家や町は、百年もたない。子孫に残せるのは「魔法機械」が生産した物質だけ。

 それは両親から、既に聞かされていた。


「そして魔法は、漸近的な等価交換だ──地球で製造した際の原料の八割以上が、必要となる」


「あの、このPCって」


「樹脂プラスチック製造原理を知る転生者と、半導体原理を知る転生者様々だが、作ったのは我々個人なので『死後は残らず』素材や部品に戻る。作動感覚はは前世そのままなんだが」


 私の背筋を、だらだらと冷や汗が流れる。

 材料さえ揃えれば一通りの機械が作れる「魔法」。だけど残らない。自分しか使えない。誰もが使える汎用性はなく、魔法で作った機械を分解しても──原料の塊に戻るだけ。


 構造を知る人が手作業で一から組み立てたものしか、残すことも広めることもできないのだ。


「電動工機を魔法で作った人が、とにかく大量の部品を作って。その人が亡くなって工機は消えたけど、製造された部品は残ったんだ。なのでその部品を組み立てて手動工機を誕生させつつ、また別の人が魔法で」


 そう、この異世界で知識チートと呼ばれるのは「機工原理や構造原則を知る前世持ち」。魔法で再現するだけなら極論、前世環境を覚えていれば誰にでもできる。

 だけど。


「──君は、なにか覚えていないかな?」


 だけど私は、ただの販売員で。

 PCも発注機もスマホもTVも使ってた。軽自動車も運転していた。八割原料が揃えば、魔法でそれらの再現はできるだろう、けど。


「消費しか……使うこと、しか」


 横で落胆しつつ、納得する今の両親に顔を伏せた。凡人夫婦に生まれた凡人の娘。そのレッテルはきっと生涯、変わらない。

 精神はともかく肉体三歳児に、それはひどく辛い告白だった。勝手に涙が出てくる。


 だってさ、今世の自宅や周囲が、ちょっと昔の日本かなー、って感じでさ。

 父さん母さんがコンセントのない家電を、魔法で動かしてたからさ。

 普通か、ちょっと上の環境なのかなあって。




 学校に通うかい、と訊かれて即答したのはしょうがない。

 科学と工学は覚悟してたけど、素材学と生物学と気象学──義務教育と高校学科はスキップですか、ははは、そうでしょうねみーんな前世持ちですもんねえぇ。




 拝啓、地球のみなさん。

 異世界の幼児教育は大学レヴェルからのスタートです。

 安易に異世界転生に同意する勿れ──倉庫に積まれた、強化米より。




閲覧下さりありがとうございました。

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