河辺の遭遇
「起きて考えてみたんだが、やっぱりリスクはあるけど川に行くべきだと思う」
午前8時ごろ、洞窟内で俺は話していた。
「この世界に食べられるきのみがあるかどうかも分からないし、車の中で果実は見たがそれがこの辺にあるかどうかも分からない。幸いにもまだ食料は1日分はある、今日のところは探索し、何もなかったら川に行くことにしよう」
「分かった、それでいいよ」
「...一応言っておくけど、大丈夫か?川に行くということは危険が増すってことだ。昨日みたいなテリジノサウルスくらいならまだいいかもしれないが、あの大きな川ならデイノスクス...無茶苦茶大きなワニがいる可能性もあるし、スピノサウルスやイリテーターなんかの肉食恐竜、昨日見たティラノサウルスなんかも水分補給のために来る可能性だってある。それでも...」
「危険は分かってるつもりだよ。でも、中村君がそれでもそれしかないって思ったんなら、私はそれを信じるよ」
「その信頼は嬉しいんだけどなぁ...」
目を見ると、確かに純粋な信頼が伝わってくるが...なんか危なくないか?極限状況下で必要以上の信頼をしているような...。いや、考えたところで仕方ない。どちらにせよ今はこの方法を選ぶしかないんだ。願うことならきのみが見つかってくれればいいんだが...。
そうして歩いていく中、昼ごろ。俺たちは何の成果もあげられないでいた。
「やっぱり何にもないか...」
ノートにマッピングしながら俺はため息をつく。手当たり次第に探索してはみたが、何処までも植物が並ぶばかりで景色に変わり映えはない。当然のごとくきのみなどは見つからず、何の成果も得られていなかった。いや、一応成果のようなものはみつかりはした。ただ、それが...。
「...卵なぁ...」
森の中で見つかった何かの卵である。それも大量にある巣のようなところにあった卵だ。当然、卵自体は栄養価も高く、これさえあれば食糧難自体はどうにかなるかもしれない。しかし...。
「やっぱりラプトルの危険が高いよなぁ...」
ヴェロキラプトル。ここに来るきっかけにもなった恐竜であるが、基本的に彼らは群れで暮らしていたと思われている。その証拠自体があるわけではないが、近くで多くの化石が見つかったことからそう考えられている。映画ジュラシックパークでも基本的にラプトルは群れで生活していた。
まぁ、あの映画は恐竜自体が他の生物とのゲノムを混ぜ合わせて作った要するにキメラの様なものなので恐竜本来の姿ではないが、とはいえ群れで暮らしていた場合同じ様になりかねない。劇中では卵を盗んだせいでその匂いを覚えられて終盤まで襲われることになっていた。卵を盗んだ場合、同じことが俺らにも起こり得る。それは、避けたいからな。
そんなことを考えながら俺たちは河辺にやってきた。
「...いないね、何も」
「そうだな...。とりあえず、これで様子みるか」
そう言って洞窟付近で拾った石を川の方面に投げる。石の転がる音がしても、近くにて何かが寄ってくる気配はない。
「よし...。とりあえずは大丈夫そうだな。まずは川に近づいてみるか」
そうして慎重に川に近づいていく。そこそこ広い川で、泳いで向こう岸に渡るのは少々骨が折れそうな広さだ。水中を見るとうっすらとだが魚が泳いでいる様子が確認できる。その中の一匹に槍を一突き。洞窟内で作った枝を削っただけの代物だったが、一応魚を突くのには充分だったのかその身を貫く。そうして鞄内部にあるプラ袋へと魚を入れていく。
五匹ほど溜まったくらいで見える鮭くらいの大きな魚。それに狙いをつけるも、その大きさゆえに早く捕まえることができない。なんとか槍を突いても他の魚の様にはいかず身には刺さらない。どうにか取れないか試行錯誤していると...。
「中村君、アレ...!」
白崎の言葉に顔をあげる。すると、木々の隙間からやってきたのは...ワニの様な顔、特徴的な帆のような背鰭、昨日見たティラノよりも大きな身長...。そう、その恐竜こそ。
「スピノサウルス...!」
現れたスピノサウルスはしかし即座にこちらを襲う気はない様で、しかし確実に距離を縮めてくる。
俺たちは熊と遭遇した時の様に、目を離さない様にしながらも段々と川から上がり右の方向にずれていく。ジリ...ジリ...と歩いていく中、極度の緊張で喉が渇き汗が吹き出てくる。スピノサウルスは今の学説では魚を食べていたとされている。尾にはヒレがついていたとも、四足歩行だったとも言われていたが...。目の前の恐竜はどうだ?映画ジュラシックパークIIIの様にしっかりと二本足で大地を踏み締め、尾にはヒレなんぞ全くついていない。学説では恐竜はティラノも含めて足が遅いなんて言われていたが...目の前の恐竜は本当に足が遅いのか?ましてやスピノは陸上では早く動けないなんて説もあるが...やはりどうしてもそうは思えない。今すぐに動いて、こちらを襲ってそのまま...なんて、嫌な想像が広がる。俺は目の前のプレッシャーに完全に飲み込まれていた。
そして、それは当然俺だけの話ではなかった。
ピタリと止まったまま動かなくなった白崎。チラリと顔を伺うとその目は恐怖に染まり膝は震えてしまっている。目の前の恐怖と脅威に耐えられなくなったのか。そんなことを思いながらもだからと言って俺もそのプレッシャーに飲まれている中...ソレはやってきた。
突如スピノサウルスが反転し、森の方を向く。そこには目の前のスピノサウルスに向かって睨みを効かせる最強の暴君の姿があった。それはつまり...。
響き渡る咆哮。絶体絶命のピンチの中、さらなる脅威としてティラノは己の存在を誇示するかの様に現れた。